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089 百合は塔にて無事に散る

※今回も前々回と前回に引き続きリリィ視点のお話です。

 ジャスミンのお誕生日パンツをどう奪うか作戦を考えていると、ニャーニャーと煩いマモンが私の側にスミレを連れてやって来る。


「いい加減無視するなリリィ=アイビー! せっかく来てやったんだから感謝しなさいよ!」


 本当に煩いわね。

 大人しく黙っている事が出来ないのかしら?

 私は今ジャスミンのお誕生日パンツの事で忙しいのよ。


「リリィ、この匂いはもしかして……あのヘビ美とか言う魔族が持っているパンツは、幼女先輩の誕生日の日に穿いていたパンツなの?」


「ええ、そうよ」


「やっぱりそうなの。さっきまで匂いを感じられなかったのに、突然匂いが出たからビックリしたなのよ」


「まったくだわ。とんだ強敵のお出ましよ」


 私とスミレは頷き合い、ジャスミンのお誕生日パンツに注目する。

 その神々しさはこの世の物とは思えない程で、動く事すらままならない。

 スミレも私と同じように、それっきり動けなくなってしまった。


「どうでも良いッスけど、なんで当日その場にいなかったおっぱい女まで、ご主人が誕生日の日に穿いていたパンツってわかるんスか?」


「それは愚問なのよ。匂いを嗅げば、何日前に穿いていたパンツなのかなんて一目いちもく……一嗅ひとか瞭然りょうぜんなのよ」


「……聞いたボクが馬鹿だったッス」


 駄目ね。

 スミレが戻って来てくれたのは良いけど、相手が悪すぎるわ。

 今の蛇女に敵う奴なんて、この世に存在しないわ!


「ニョロロロロ。仲間が増えた所で、今の状況を覆す事なんて出来な――」 


 強敵蛇女が話している途中で、マモンが強敵蛇女にコンマ一秒程度の遅いスピードで近づき、爪を伸ばして攻撃を仕掛けた。

 その瞬間、強敵蛇女の周囲に何処からともなく紫色の猛毒の液体が現れて、マモンが寸でで攻撃を止めて私の所まで跳躍して戻って来た。


「い、いきなり攻撃をしてくるなんて、なにを考えているニョロ! アレース様の【戦神いくさがみの加護】の力【オートガード】が無かったら危なかったニョロ」


 オートガード?

 それって、ギャンジとか言う男が使っていたものと一緒ね。


「ドゥーウィン、スミレ。神の加護は、転生者が持つ特殊能力とは違って、性能は一緒のようね」


「みたいッスね。ご主人のパンツが何も無い所から突然出て来たのも、あの加護の力によるものみたいッスね」


「二人共知らなかったなの?」


 どうやらスミレは知っていたようで、意外だとでも言いたげな目で私を見た。


「そうよ知らなかったわよ。それよりアンタ、知ってたなら教えなさいよ」


「ごめんなのよ」


 まったく、と困った友人に呆れたが、私はその時ふと思いつく。

 アレースの加護【戦神の加護】のオートガードは、盗んだ物を空間跳躍させて防御に使う力とは聞いていたが、正確には少し違うのかもしれない。

 マモンが攻撃をした時に、強敵蛇女を守ったのはそのオートガードで現れた猛毒の液体。

 しかし、それは盗んだ物ではないと言いきれる。

 何故ならその猛毒は、強敵蛇女の魔力を含んでいる物だったからだ。

 つまりあれは強敵蛇女の魔法から生み出された毒物であり、盗んだ物ではなく私物と言う事。


「オートガードの能力の仕組みがわかったわ。所有物を防御に使う能力って事ね」


 自然にニヤリと笑みが零れて、私は答えを呟いた。

 考えてもみれば、盗んだ物だけを防御に使えると言う方が、神の加護の力としては微妙過ぎだとも言えるわ。

 なんにせよ、そうとわかれば最早怖いものなど何もないわねと、私は勝利を確信した。


「マモン、今回はアンタに感謝するわよ」


「は?」


 マモンが首を傾げて私に視線を向けたが、私は既にそこにはいない。

 マモンが疑問を口にした時には、私は強敵蛇女……哀れな蛇女の眼前まで迫っていた。


「ニョロ!?」


 哀れな蛇女の周囲に猛毒の液体が現れるが構わない。

 私は勢いよく手を伸ばして猛毒を突き破り、哀れな蛇女が持っていたジャスミンのお誕生日パンツを掴んだ。


「貰うわよ!」


「ニョローッ!?」


 哀れな蛇女からジャスミンのお誕生日パンツを見事に奪い取り、私はジャスミンのお誕生日パンツを天高く掲げて高らかに声を上げる。


「勝負あったわね蛇女! 私の勝利よ!」


 やったわ!

 やったわよジャスミン!

 待っててね!

 今すぐ――


「り、リリィ…………っ! 大変な事になってるなのよ!」


「何よ? 大変な事って?」


 スミレが顔を真っ青にして、慌てた様子で私に向かって指をさした。

 何をそんなに慌てているのか知らないけれど、どうせジャスミンのお誕生日パンツを持ってしまった事で、その神々しさにあてられて私が死んでしまうと心配しているのでしょ。

 心配してくれているのはありがたいけど、それは要らぬ心配と言うもの。

 たしかにジャスミンのお誕生日パンツの神々しさには、大変な事に私も……なってる?


 私はとんでもない勘違いをしている事に気がついた。

 スミレは今、大変な事になってると言ったのであって、大変な事になると言ったわけではなかった。

 言い間違えたとも思えない。

 そして、スミレが指をさしているものが私自身では無く、私が掲げているジャスミンのお誕生日パンツだと気がついた。


 ――まさかっ!


 私は恐る恐るゆっくりと腕を下げながら、ジャスミンのお誕生日パンツに視線を向けた。


「――――っっっっっ!!!!」


 私の目に映ったのは、蛇女の猛毒に触れた手で触ったジャスミンのお誕生日パンツの成れの果て。

 なんて愚かな事をしてしまったのだろう。

 蛇女の猛毒でジャスミンのお誕生日パンツは紫色に染まり、更には所々溶けてしまっていた。

 いいや。

 現在進行形で少しずつ溶けていっている。

 功を焦りすぎて最悪の結果をうんでしまった私は、浅はかで無能な自分を呪い後悔しながら、口から泡を吹いて白目をむいて仰向けに倒れて意識を失った。


「は、ハニー!?」


「リリィ!」


「リリィ=アイビーが死んだわ!」


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