表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/176

086 幼女を暗闇に閉じ込めてはいけません

「なあご~」


「ついて来てだって」


「は、はあ……」


「わかったにゃ」


「がお」


 アマンダさんとナオちゃんが海猫ちゃん達と生死をかけた激しく長い戦いが終わり、かにさんを美味しくご馳走様した私達は、海猫ちゃん達の案内で海底神殿オフィクレイド東塔内を歩く。


 戦いに疲れた体を魔法で癒し、かにさんを食べて海猫ちゃん達は皆元気だ。

 ナオちゃんは、かにの身を両手にいっぱい抱えて、鼻歌まじりに食べ歩く。

 アマンダさんがそんなナオちゃんを見ながら、顔を顰めて訊ねる。


「ナオ、猫ってかにを食べて良かったのかしら? 良くないと思ったのだけど……」


 え!?

 そうなの!?


「普通の猫は駄目だにゃ~」


 ど、どうしよう!?

 私おもいっきり海猫ちゃん達にかにさんの身を食べさせちゃったよ!?


「でも、海猫なら大丈夫にゃ。陸に暮らす猫と違って、体の構造が全然違うにゃ」


 そっかぁ……。

 それなら良かったよぉ。


 私は安堵して胸を撫で下ろす。


「なーご」


 暫らく歩いて何度も階段を上って行くと海猫ちゃん達が立ち止まり、皆で一斉に手差しした。

 私は海猫ちゃん達が手差しした先を見て、そこが特別な場所だと感じ取った。


 そこは大きな部屋の様になっていて、瓦礫などが所狭しと崩れて転がっていたけれど、壁には綺麗な壁画があった。

 その壁画だけ、まるで新品……とまではいかないけれど、本当に他とは比べようが無いくらいに綺麗に原形を留めて残っていた。


 私は部屋に入り、その壁画を見上げる。


「十二人の神々が描かれた壁画よ」


 アマンダさんが呟き、私は理解した。


 壁画には海猫に似た姿をしたポセイドーンや、マッサージ店を経営していたアプロディーテーさん、そしてセレネちゃんが神様の姿になった時を思わせる女性が描かれていたのだ。

 他にも、私が見た事の無い神様達が描かれていて、私は夢中になって壁画を眺めた。

 その間ラヴちゃんはポーチから外に出て、海猫ちゃん達と一緒に遊び出す。可愛い。


 文献は失われたって言ってたけど、壁画はこんなにも綺麗に残ってるんだね。

 あれ?

 よく見ると、何か文字が書かれてる。

 古代用語でも無さそうだし読めそうかも。

 えーと……どれどれ~?


 目を凝らしてじーっと見つめる。


 アレース神? 

 じゃあ、この人がアレースって言う神様なんだ?

 って、あれ?

 どうしてだろう?

 アレース神の人物画、何処かで見た事がある様な……。

 しかも、結構頻繁に見た事がある様な気がする。

 多分誰かに似てるって事だよね?

 でも、誰だっけ……凄くどうでも良い人だったのは間違いないよねぇ。


「いけないなー。駄目だろう? 海猫達」


 不意に声がして、声のした方へ振り向くと、そこには鬼人のロークが壁にもたれかかって立っていた。

 額に見える2本の角に、はねっ気のある紺色のショートヘア。

 まつ毛は長く、細長の目から覗くカーマインの瞳は少しだけ怒気を帯びていた。

 身に着けている物は、ハイネックビキニと作業服用の様な見た目のズボンであの時と一緒だ。

 だけど、そこには出会った時には無かった異物が混じっていた。

 ロークは、美しく細い体からは、到底思い浮かばぬほどの大きな金砕棒を手に持っていたのだ。

 少なくともその金砕棒は、私の背丈を軽々と超える程の大きさだ。


 ロークを見た途端に海猫ちゃん達は体をピクリと震わせて、一斉に逃げ出した。


「ありゃりゃ。逃げなくても良いのにね。どうせポセイドーン様には既にばれているんだ。お仕置き決定は変わらないのにね」


 呆れた顔でロークは喋ると、壁から離れて、ゆっくりと私達に向かって歩き出す。


「オレに提案があるんだけど聞いてくれないか?」


「提案?」


「そう。提案」


 私が聞き返すと、ロークはニッコリと笑ってその場で立ち止まる。


「オレの恋人になってよ? 特に魔性の幼女ジャスミンちゃん。絶対将来美人になる事間違い無しだし、今の内に唾つけとかなきゃ後悔しそうって思ったね」


「お断りします」


 キッパリと私が断ると、ロークは目をキョトンとして私を見つめる。


 なんだか、反応が意外だ~みたいな感じだけど、私の好みじゃないもん。

 それに、私は一生恋人も作らないし結婚もしないって決めたんだもん。

 将来美人とか褒めても付き合いません!


「ありゃりゃ、フラれちゃったか~。残念だな~。でもさ」


 ロークが目の前から消える。

 違う!

 いつの間にかロークが背後に回っていて、私はロークに触れられてしまった。


「ジャスミン!」


「にゃーっ!」


「がお!」


 一瞬の出来事だった。

 私は何かに飲み込まれ、目の前が真っ暗になって外の世界から隔離される。


 な、何これ!?

 本当に何これ!?

 さっきまで聞こえてた水の流れる音も、皆の声も、何も音が聞こえなくなっちゃったよ!?


 真っ暗な中、手を目の前に出すと何かに触れる感触。

 硬くて滑らかなカーブ。

 私はロークと出会った時に見たマトリョーシカを思い出す。


 あの中に閉じ込められちゃったって事だよね?

 私捕まっちゃったの!?

 ラヴちゃんもいないし……あ!

 そうだ!

 加護の通信を使って外と連絡が取れれば……。


 加護の力を使って、ラヴちゃんへの連絡を試みる。


『ラヴちゃん! ラヴちゃん! ラヴちゃん!』


 何度も呼びかけるけど、何も起きない。

 次第に私は全身から血の気が引いていくのを感じて、ぶるりと体を震わせた。


 嘘でしょう!?

 通信が出来なくなってる!

 これって、かなりヤバいやつだよ!

 どどど、どうしよーっ!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ