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085 幼女は戦いを見守り食を楽しむ

 海底神殿オフィクレイド東塔の中間あたりで見つけた穴から、私とラヴちゃんとアマンダさんとナオちゃんは中に入った。

 中は外から見た通りに空気があって、ラヴちゃんがポーチから顔を出す。


「がおー」


「そうだねぇ。空気があって良かったね」


「がお」


 ラヴちゃんが頷いて、キョロキョロと周囲を見る。

 私も一緒に周囲を見て幾つか気がついた。


 神殿内は空気があるのだけど、床には水が流れていた。

 それは緩やかな水の流れで、足がとられる事は無いけれど、念の為気をつけないといけないかもなと私は感じた。

 壁には見た事も無い水色に発光するこけがいっぱい生えていて、神殿内を明るく照らしていた。

 床もそうなのだけど、天井は穴が空いていて、上から水が流れて来ている箇所が幾つかあった。


「ジャチュ、かにたんいっぱいいる。かわいい」


「あ、本当だ。可愛いねぇ」


「がお」


 ラヴちゃんは可愛いなぁ。


 ラヴちゃんの可愛さにニヤケていると、アマンダさんが真剣な面持ちで私に話しかける。


「スミレさんの話では、ジャスミンのお友達は最上階にいると言う話だったわね」


「え? うん。そうだね」


「にゃー。いっそ上まで外から泳いで行って、壊して入った方が早くないかにゃ?」


「あはは。そうかもしれないけど、あまり目立つ事するとよくないかなぁって……。それに、むやみやたらと建物は壊さない方が良いと思うの」


 と言っても私の場合は前世の記憶がある分、文化遺産的な物への配慮と言うか、とにかくそう言うのがあって気が引けるってのもある。


 その時、チリンと鈴の音の様な小さな音が聞こえた。

 私達は音のした方に視線を向けると、物陰から次々に鈴の付いた首輪をはめた海猫ちゃん達が数十匹現れて、私達の行く手を阻むかのように立ち止まる。


 アマンダさんが瞬時に銃を構えて、ナオちゃんが鉤爪の様な武器を手に付けて猫の様に体を低くして海猫ちゃん達を威嚇する。

 私は海猫ちゃん達の可愛さに目を奪われる。


「なーご」


 一匹の海猫ちゃんが鳴くと、他の海猫ちゃん達が肉球でプニプニと拍手する。


 可愛いー!


「がお?」


「姉様、戦意を感じないにゃ」


「そうね……」


 私以外の3人が訝しんでいると、海猫ちゃん達がプニプニと拍手をしながら、尻尾の先っぽを小刻みに振りだした。


 あれ?

 あの尻尾の動きって、えーと……何だっけ?

 何かに集中してるんだっけ?


 私が首を傾げて考えていると、ナオちゃんが素早く動き出す。


「先手必勝――」


 鉤爪の様な物から激しい炎が燃え上がり、ナオちゃんが先頭にいる海猫ちゃんに接近する。


「――ファングフレイム!」


 燃え上がった炎から、虎の顔をする業火が現れて咆哮しながら牙を剥く。

 海猫ちゃん達の周囲に、赤い色の魔石が突然大量に出現して浮かび上がり、赤い光線が光速で飛び出した。

 放たれた業火は光線に貫かれ、それはそのままナオちゃんを襲う。

 ナオちゃんはそれを紙一重で避けて、私達の所まで跳躍して戻って来た。


 海猫ちゃんの周囲に浮かぶ赤い色の魔石から、再び光線が放たれる。

 その数は無数で数えきれなくなる位の量で、一斉に私達を襲う。

 アマンダさんが銃を連射して、全ての光線を水の銃弾で相殺していく。


 全ての光線が相殺されると、蒸発で煙が舞い上がり、モクモクと周囲を包み込む。


「純度の高い炎の魔石を使ってるにゃ~。しかも本来の物より魔力値が高いし、普通の炎じゃないにゃ。あれだけあると、ちょっと厄介だにゃ」


「その様ね。でも、これで海猫が炎を扱っていた理由がわかったわね」


 ……何だこれ?


 驚きすぎて何も言えない。

 と言うか、私はポカーンと口を開けて、目を点にしてマヌケ顔になっているに違いない。

 本当に驚きすぎて、この場の流れについていけないどころか、最早これは現実の出来事なの? って感じで、頭が理解出来ていなかった。


 突然きたマジな戦闘、ナオちゃんと海猫ちゃん達のガチバトル。

 私だって今までそれなりにそういうのは見て来たし、たまには体験だってしてきたけど、正直次元が違いすぎて冷や汗を流す事しか出来ない。

 あ、ごくりと唾を飲み込む事も出来るよ?

 って、そんなおバカな事を言っている場合では無いのだ。


 煙が消えて、アマンダさんとナオちゃんが海猫ちゃん達と睨み合い、再び激しい戦いを開始した。


「が、がお」


 ラヴちゃんが可愛らしくポーチから顔を出しながら、額に汗を流して困惑している。


 ラヴちゃんも私と同じ気持ちなんだね。

 良かったぁ。

 仲間がいたよぉ。


「ジャチュ、かにたんちんぢゃった」


「え?」


 かにさん死んじゃった?


 よく見ると、ナオちゃんが出した炎の熱や海猫ちゃんが繰り出した光線の熱にあてられて、近くにいたかにさんが美味しそうな色に焼き上がっていた。

 いや、この場合は茹であがっていたと言うべきだろうか?

 とにかく美味しそうな色をしている。


 よし。


 と、私は真剣な面持ちでラヴちゃんに話しかける。


「ご飯まだだったし、かにさんを頂きますしよう」


「がお」


 ラヴちゃんは頷きよだれを垂らす可愛い。

 そんなわけで、私はラヴちゃんと一緒にかにさんを食べる事にしました。


 茹であがったかにさんを取って、足を一本抜いて、綺麗に剥いて身を取り出す。

 取り出したかにの身をラブちゃんに渡してあげると、ラヴちゃんは美味しそうにモグモグする。可愛い。

 もう一度足を一本抜いて、綺麗に剥いて身を取り出して、私もパクリと口に入れる。


 あ、凄く美味しい。


 プリッとした歯ごたえの後に、口の中でとろける舌触り。

 海水で味付けされたほのかな塩味と、元々かにさんが持っている甘味が程よく交わり合い、私の味覚を心地の良く包み込む。

 まるで霜降りの牛肉を食べた時の様な満足感が、私のお腹を満たしていく。


 この世界に転生してからは、かにさんまだ一度も食べて無かったけど、この世界のかにさん凄い!

 こんなの初めてだよ!


「おいちー」


「うん。そうだねぇ」


 ラヴちゃんと一緒に微笑み合い、かにさんの足を剥いて身を取り出して、ラヴちゃんに渡してあげる。

 私ももう一本と同じ様に身を取り出して、再びパクリと口に入れる。


 うぅ~、幸せ~。


 ナオちゃんとアマンダさんが、海猫ちゃん達ともの凄く激しい戦いを目の前で繰り広げる。

 私とラヴちゃんはそれを見ながら、ほのぼのと「美味しいね」とお話しながら、かにさんを美味しく頂く。

 次々にかにさん達が茹であがり、私とラヴちゃんも大忙しだ。


 なんて凄い戦いなんだろう。

 よーし。

 私とラヴちゃんだって負けないよ!

 かにさん達の身は、無駄にしないんだからね!

 美味しい!

 あ、ちゃんと2人の為にも、剥いて取ったかにさんの身を残しておかなきゃだよね。


「なーご」


 戦いに敗れ、傷ついた海猫ちゃんが私に近づく。

 私は優しく微笑んで、魔法で傷を癒してあげると、手に持っていたかにの身を食べさせてあげた。


「美味し――なああごおお」


 こらこら。

 言葉が出ちゃってるぞ。

 って、そう言えばだけど、何でなーごしか喋らない様にしてるんだろう?




【ジャスミンが教える幼不死マメ知識】

 海底神殿オフィクレイドの中は空気があって、何処も浅瀬の様になっていて海藻も生えてるんだよ。

 かにさんの他にも、貝やエビ、それに小魚もいたりするの。

 私達が侵入した場所にいたかにさんは、マーブルドゥクラブって言う名前のかにさんなの。

 頬っぺたがおちちゃうくらいに、もの凄ーく美味しいんだよぉ。

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