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084 幼女と謎めく匂いの理由

 その昔、海底深くにそびえ建つ双塔があった。

 双塔はオフィクレイドと呼ばれ、魚人達の暮らす場として存在していた。

 ある時、神の啓示を受けた魚人の王は、その双塔を神々を祀る為の神殿として作り変えた。

 そうして生まれ変わったのが、神の啓示を受ける為の神殿【海底神殿オフィクレイド】である。

 しかし、時代と共に神に関わる文献の全てが失われ、今はただ祀るだけの神殿となっていた。


 アマンダさんから聞いた話では、代々王族のみが、神の啓示を受けていた場所だと言伝だけで伝えられていたらしい。

 神を降臨させる事が出来る場だとは聞いた事がない様で、文献が失われた事で神を降臨させるすべも失われたのだろうと、アマンダさんは結論付けていた。


 そして今、私はその神殿の目の前にやって来た。

 深海に並ぶ物凄く大きく高い2つの塔は、その2つの塔を合わせて海底神殿と呼ばれる不思議な神殿。


 最初はアマンダさんに聞いて「双塔が神殿?」と、不思議に思っていたけれど、確かにそれは双塔と呼ぶに相応しかった。

 その高さはスカイツリーより高く、少し高めの東塔と少し低めの西塔に別れていた。

 東塔と西塔に別れた神殿は、まるで楽器の様な見た目をしていて、もしかしたら私が知らない楽器を思わせる姿なのかもしれない。

 何故そう思ったのかと言うと、どちらもまるでトランペットやトロンボーンなどを連想させる見た目だったからだ。

 と言っても、音が鳴りそうな丸く広がった部分は下を向いていて、海底に置かれた様な建てられ方をしていたのだけど。

 マウスピースの様な場所はからは、ポコポコと空気が飛び出していた。


「聞いていた通り、本当に廃墟って感じッスね」


「がお。ボロボロ~」 


「うん。そうだね」


 トンちゃんとラヴちゃんの言う通り、神殿はボロボロでまさに廃墟って感じだ。

 所々が崩れていて、外からでもわかる瓦礫の山。

 出入口以外からも簡単に侵入出来そうだ。


「神殿の中は空気がありそうね」


「元々は私達魚人が暮らしていたから、その時の名残よ」


「神殿の中まで海水に浸かってたらって、セレネちゃんが心配だったから少し安心したよぉ」


 ホッと私が安堵していると、スミレちゃんがクンクンとオフィクレイドに向かって匂いを嗅ぎ始める。


「おかしいなのよ」


 スミレちゃんは呟くと、目を閉じて、もう一度匂いを嗅ぐ。


「どうしたの?」


 訊ねると、スミレちゃんはゆっくりと目を開けて、首を傾げて答える。


「どちらからも、セレネちゃんの匂いがするなのです」


「え? どちらからも? それって、東塔と西塔の両方にセレネちゃんがいる可能性があるって事?」


「可能性じゃなくて、いる(・・)と自信を持って言いきれるなのです」


 ど、どういう事?

 え? 待って?

 それって、もしかして……。


 脳裏に嫌な考えが浮かび上がる。

 私は全身から血の気が引くのを感じて、ごくりと唾を飲み込んだ。


「ジャスミン、大丈夫よ」


 リリィが私を後ろから抱きしめた。


「スミレは匂いだけで、その相手の体調や生きているかどうかだってわかるのよ。そうよね?」


「もちろんなのよ。幼女先輩、心配しなくてもセレネちゃんは生きてるなのです」


 そっか……良かったぁ。


 安心すると、途端に全身から力が抜けるのを感じて、私はリリィにそのまま抱きかかえられる。


「双塔のどちらにもセレネと言う子がいる……。理由はわからないけれど、二手に別れた方が良さそうね」


 二手に……うん。

 アマンダさんの言う通り、その方が良いかもしれないよね。

 スミレちゃんが嘘を言ってるなんて絶対に無い。

 そう考えたら、セレネちゃんが両方にいるのは間違いない。

 だけど、両方にいる事自体は謎なんだもん。


「リリィ、ありがとー。もう大丈夫だよ」


「ええ」


 私はリリィから離れて、どちらに向かうか考える。


 少し高めの東塔と少し低めの西塔。

 どちらにもセレネちゃんがいて、その理由はわからない……かぁ。

 ……よし、決めたよ!


「私は東塔に行くよ。出来れば、リリィは西塔に行ってほしい」


「どうして?」


 私はリリィを真剣に見つめて、リリィは眉根を下げて寂しそうに私を見つめる。


 ごめんねリリィ。

 でも、でもね、私はリリィを信じてるんだ!


「リリィが西塔に行ってくれるなら、私は安心して東塔に行けるの。だからお願い!」


 リリィは顔をパアッと花が開く様に明るくして、凄く目をキラキラとさせて私の手を握った。


「わかったわジャスミン! 直ぐに終わらせて、ジャスミンの助けに行くわ!」


「ありがとー! リリィ!」


 私も嬉しくてリリィの手をギュッと握る。


「ハニーは相変わらずご主人の言葉にはちょろいッスね~」


「がお?」


 私がリリィと微笑み合うと、アマンダさんが真剣な面持ちで顎に手を乗せながら、私に話しかける。


「万が一の事を考えて、高い塔の東塔に行った方が西塔への援護射撃が出来ると考えて、私もジャスミンと一緒に東塔へ向かうわ」


「なら、ニャーも姉様について行くにゃ。姉様は接近戦はへたっぴだからにゃ~。二人共護ってあげるにゃ」


 魔法で顔の周りに空気を作ってお話出来るようになったナオちゃんが、アマンダさんにドヤ顔しながら話すと、アマンダさんは苦笑して頷いた。


「ありがとー! アマンダさん、ナオちゃん!」


「それなら私はリリィと一緒に西塔に行くなのです」


「うん。スミレちゃん、リリィの事よろしくね」


「それなら、ボクもハニーについて行って、ご主人との連絡係になるッスよ」


「うん。ありが……ん?」


 あれ?

 リリィって何故か加護の通信を受信してなかったっけ?


「どうしたッスか?」


「がお?」


「え? あ、ううん。なんでもないよ。ありがとね、トンちゃん」


「はいッス」


 せっかくのトンちゃんの申し出だもん。

 余計な事は言わない方が良いよね!?


 私はポーチの中にいるトンちゃんの顔の周りにも、魔法で空気を覆ってあげて、海の中でも呼吸が出来る様にしてあげた。


 東塔は私とラヴちゃんとアマンダさんとナオちゃんで、西塔はリリィとトンちゃんとスミレちゃんに別れて行動開始!

 こうして、私達は二手に別れてセレネちゃんを助ける為に、海底神殿オフィクレイド攻略を始めるのでした。


 待っててねセレネちゃん!

 直ぐに助けてあげるからね!


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