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083 精霊と魔猫の深海迷子旅行

※今回は木の精霊ドリアードの分身のフォレちゃんを中心としたお話です。


「マモン。其方、中々やるではないか。まさか、この様な方法で空気を獲得するとは思わなんだぞ」


「当たり前だ! 私は猫系魔族の中でも、ナンバーツーの実力者だからな!」


「なんぢゃ、一番では無いのか?」


「一番はアスモデ様だからなー」


「ふむ。その様な者もおったのぅ」


 ここは深海、海の中。

 小瓶のお届け物をする為に、フォレちゃんとマモンちゃんが私を追って来ている真っ最中。

 マモンちゃんが泳いで、フォレちゃんがマモンちゃんの背中に乗っていた。


 どうして2人が海の中で会話出来ているのかと言うと、マモンちゃんの重力の魔法が凄いからだ。

 マモンちゃんは海に入る前に、重力の魔法を使って、上半身を覆う重力の壁を作ったのだ。

 そのおかげで、マモンちゃんの上半身から一定の距離に海水が侵入出来なくなっていた。


 フォレちゃんも酸素を吐き出す葉っぱを魔法で作って、それのおかげで酸欠にもならない二段構え。

 その場で出来たコンビのわりには、中々のコンビネーションである。


「それより、方角はこっちで合っておるのか? 妾の加護ぢゃと、海の中では発揮しきれぬから、ジャスミン様の居場所が上手く捉えられぬのぢゃ。それに海の中は妾も詳しくない。景色も真っ暗で何も見えぬし、其方だけが頼りで不安なのぢゃぞ?」


 フォレちゃんが不安そうに質問すると、マモンちゃんはケラケラと笑いながら答える。


「問題無いわ!」


「ならばいのぢゃが……」


 マモンちゃんの返事に、若干不安を感じながらフォレちゃんは呟いた。


 実際は問題あるかどうかで答えると、マモンちゃんは問題無いと答えたのだけど、実は問題があったりする。

 それと言うのも、マモンちゃんは迷子になっていたからなのだ。


 私とフォレちゃんは加護で繋がっていて、ある程度の方角はわかるから、フォレちゃんがマモンちゃんに私がいる方角を教えて海の中に潜った。

 だけど、フォレちゃんは知っての通りに木の精霊さん。

 海の中に入ってしまうと、加護の力が弱まってしまうのだ。

 加護の力が弱まってしまって、フォレちゃんが私の居場所を把握し辛くなる。

 だからマモンちゃんに任せきりだったのが、悪い方へといってしまったのです。


 マモンちゃんは方向音痴……と言うわけでは無かったのだけど、ここは深海で分かりやすい目印の無い場所だった。

 だから、そんな場所で迷わずに真っ直ぐ進むなんて至難の業。

 目印の無いまま進んでいたら、誰だって迷子になっても当たり前なのだ。


 そんなわけで、フォレちゃんはマモンちゃんの強がりなのか本気なのかよくわからない返事に、何となく向かう場所からずれているのを感じながらも、マモンちゃんを信じて納得する事にしたのだ。

 仲間を信じてあげる良い子だと褒めてあげたい。


「お腹が空いたわ」


 マモンちゃんが突然呟いて、周囲をキョロキョロと見出す。


「魚でも捕まえてしょくすのか?」


「そうするつもりだったけど、一匹もいないわ」


「ふむ。しかし、よくこんな光の届かぬ暗い深海で、周囲が見えるのぅ。妾は目の前を見るのが限界ぢゃ」


 フォレちゃんはそう言って、魔法で発光するお花を生み出した。

 発光するお花は周囲を照らし、光が深海を明るく照らす……とは決してならない。

 残念ながら周囲が多少明るくなるだけで、殆ど何も変わらなかった。


「見えるって言っても、そこまで遠くは見えないわよ。それより、いきなり光を出されると眩しいな」


「そうぢゃな。妾も同感ぢゃ」


 マモンちゃんにフォレちゃんが同意して、2人でクスクスと笑い合う。

 その時、フォレちゃんが光りを灯した事で、私の小瓶も光に照らされているのをマモンちゃんが見て思いつく。


「そうだ! 甘狸の小瓶に何か入ってないか確かめ――」


「ならん」


 マモンちゃんが小瓶に手を伸ばすと、フォレちゃんが小瓶を取り上げる。


「ジャスミン様の許可を得ず、勝手に中身をあさろうとするでな――む?」


「あっ!」


 フォレちゃんがマモンちゃんに注意していたその時、目の前をブレードシャークが通り過ぎた。


 2人はブレードシャークに注目して、ブレードシャークも2人の熱い視線に気がついて、2人と目がかち合う。

 目と目が合う瞬間、ブレードシャークは身の危険を察知して、勢いよく逃げ出した。


「逃げたのぢゃ!」


「逃がさないぞー! ご飯!」


 マモンちゃんは、あっという間に逃げるブレードシャークに追いついて、爪をたてて斬りかかる。

 だけどその時、フォレちゃんがブレードシャークを魔法で物凄く頑丈な木の盾で護った。


「待て!」


 ブレードシャークの前に出て、フォレちゃんがマモンちゃんと向かい合う。

 マモンちゃんは訳が分からず顔を顰めて、フォレちゃんがブレードシャークに近づいた。


「これを見よ」


 そう言ってフォレちゃんがブレードシャークに指をさして、マモンちゃんはそれを見て首を傾げた。


「絆創膏?」


「左様ぢゃ。この絆創膏、恐らくリリーの物で間違いない」


「リリィ=アイビー!?」


 そう。

 なんと、このブレードシャークは、私と仲良くなったブレちゃんだったのだ。

 なんて可哀想なブレちゃんなんでしょう。

 フォレちゃんがもう少し気付くのが遅ければ、今頃2人の胃袋の中でした。

 と言うか、リリィってば、私が知らない間に自分が蹴った所に絆創膏を貼ってあげるだなんて、やっぱり凄く優しくて良い子だよね。


 フォレちゃんがブレちゃんと向かい合い、ブレちゃんに触れる。


「妾の言葉がわかるか?」


 ブレちゃんが頷く。


「うむ。では問おう。其方にその絆創膏を貼ったのは誰ぢゃ?」


 フォレちゃんが、ブレちゃんから私達の事についての聞き込み調査を開始する。

 流石はフォレちゃんである。

 それから暫らくして、フォレちゃんは私の居場所を聞き出す事に成功した。


「どうやら、ジャスミン様はリコーダーと言う名の町にいるそうぢゃ」


「リコーダーか。それなら今直ぐそこに向かうぞ!」


「そうぢゃな」


 フォレちゃんは頷いて、再びマモンちゃんの背中に乗る。

 だけど、マモンちゃんは全く動く気配が無い。


「む? どうしたのぢゃ?」


 フォレちゃんが顔を顰めてマモンちゃんに訊ねると、マモンちゃんはドヤ顔で答える。


「迷子になったから、行き方がわからないわ!」


「なんぢゃと!? 其方、やはり迷子になっていた事を隠しておったのか!?」


「大丈夫だ! ブレードシャークに道案内をさせれば解決するわ!」


 マモンちゃんとブレちゃんの目がかち合い、ブレちゃんが困惑しながら頷いた。

 そんなわけで、フォレちゃんとマモンちゃんは運良くブレちゃんと出会う事が出来たおかげで、無事に私達がいた海底の町リコーダーへと向かって行きました。


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