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082 幼女は親友の意外な反応に驚愕する

 私と同じ前世が男のTS転生者!?


 鬼人のロークから聞かされた突然のカミングアウトに、私が口を開けて驚いていると、スミレちゃんが真っ青に顔を染めながら私の背後に隠れた。


「幼女先輩、こいつは敵にまわしたら恐ろしい変態ナンパ女なのですよ」


「え?」


 変態ナンパ女?


「ありゃりゃ。誤解誤解。そんな事ないよ困っちゃうな~」


 ロークは苦笑しながら、メールさんを閉じ込めたマトリョーシカに触れる。

 するとマトリョーシカは、その瞬間に小さくなって、500ミリリットルのペットボトル位のサイズになった。

 ロークは小さくなったマトリョーシカをズボンのポケットに入れて、私達全員をジロジロと見始める。

 そして、リリィに視線を向けてから、じっと見つめる。


「君、可愛いね凄く好み。名前は?」


 本当だ。

 変態かどうかはともかく、早速ナンパしてるよ。

 でも、おバカだなぁ。

 リリィは、そーいうの受けないもん。

 ナンパなんてリリィにしても、睨まれて終わっちゃうよ。


「リリィ=アイビーです」


 え!?

 自己紹介しちゃった!?


 まさかのリリィの反応に、私は驚かずにはいられない。

 いいや、私だけじゃない。

 トンちゃんもラヴちゃんもスミレちゃんも、私と一緒で驚いていた。


「へえ。良い名前だ。是非お近づきになりたいね」


 ロークがリリィに微笑み、リリィが嬉しそうに笑う。

 私はそれを見て更に驚いた。


「でも、残念ながら今日はこの後に予定が入っちゃってるんだ。メールを連れて行かなきゃいけないしさ。ゆっくり話も出来やしない」


「そうですか。残念です」


 残念!?

 嘘!?

 リリィ、今残念って言った!?

 蹴り飛ばせなくて残念ですナンパ女とか、そんなんじゃないよね!?


 リリィは本当に残念そうに、眉根を下げていた。

 どう見ても、私が考えた様な物騒な感じでは無い。


「良かったら今度お茶しない? もちろん、オレの兄弟ちゃんである魔性の幼女ジャスミンちゃんも一緒にね」


「はい。もちろんです。喜んでお受けします!」


 ええええええーっっっ!?

 よ、よ、喜んでええええーっ!?


 私の驚きは最早止まる事を知らない。

 リリィをマジマジと見つめて、私の頭はパニックしまくりだ。


 え?

 リリィ?

 え?

 頬っぺた赤いよ?

 え? え? ええっ!?


「よっしゃ決まり。さって、帰りますかね~。じゃあね~」


 ロークは楽しそうに笑って、天井の穴から何処かへ行ってしまった。


「あ、逃げたにゃ。何だったんだにゃ?」


「様子見……と言った所かしら? 殺気を全く感じなかったわね」


 事の成り行きを黙って見ていたアマンダさんとナオちゃんは、ロークの行動の意図を探る話し合いを始める。

 2人からしたら、敵であるはずのロークが、リリィをナンパした意味不明な行動としか見えないのだろう。


「素敵な方だったわね」


 え?

 り、リリィ?

 素敵な方?


 さっきから私は驚きっぱなしで頭が混乱している。

 だってそうでしょう?

 リリィが頬を赤く染めて、あんなに礼儀正しく敬語なんて使っちゃってるのだ。

 しかも素敵な方だなんて、私は自分の耳を疑っちゃうよ?

 それに、今までリリィが敬語を使った所なんて、私のパパとママ以外見た事ない。


 アマンダさんとナオちゃんは、リリィの事をあまり知らないから驚いてはいない。

 だからこそ、ナンパだけして帰って行ったロークの行動について、2人で話し合っているわけだ。

 だけど、リリィを知るトンちゃんとラヴちゃん、そしてスミレちゃんは私と同様に驚きすぎて何も言えないでいた。


 その時、リリィの言葉や赤く染まった頬を見て、私の頭の中に一つの単語が浮かび上がる。


 ま、まさか!?

 いやいやいや。

 そそそそそんな、まさかまさかだよぉ…………。


 ごくりと、私は唾を飲み込んだ。

 私は頷いて、真剣な面持ちになって、リリィに恐る恐る聞いてみる。


「り、リリィ。ローク……さんの事、す、す、好き(・・)になっちゃったの?」


 私は質問をすると、ごくりと唾を飲み込んだ。

 答えを聞くまでの間は凄く大量に汗が出てきて、妙に時間の流れが長く感じる。

 リリィは微笑んで答える。


「もちろんよ」


 私だけじゃない。

 トンちゃんもラヴちゃんもスミレちゃんも口を大きく開けて驚いた。


 嘘でしょう!?

 聞き間違いだよね!?

 だって、だって、だってええええ――――


「だって、ジャスミンの前世の兄弟なんでしょう?」


 ――――え?


 まるで時を止められたような感覚が、私の全身を包み込む。


「恥ずかしい所なんて見せられないから、少し緊張しちゃったわ。変な子に見られなかったかしら? 次に会った時は、私達が結婚を前提に付き合ってるって紹介してね? ジャスミン」


 えええええぇぇぇーっ!?


「兄弟じゃないよっ!」


「へ?」


「思いっきり、あかの他人だよ!」


「で、でも、兄弟ちゃんって……?」


「あれはそう言うのじゃなくて、うーんと……えっと、同じ穴のむじなと言うか、同じ境遇者同士と言うか、とにかくそう言うのの事で、実際に家族だったわけじゃないよ! それに私は前世で一人っ子だったもん!」


 どうやら勘違いしていたらしい。

 お互いに……。

 私が説明すると、リリィは目をパチクリとさせてから、身の毛もよだつ様なもの凄ーく怖い顔へと大変身。


「あの鬼女ーっ! よくもジャスミンの兄弟だなんて嘘をついたわね! 絶対に許さないわよ!」


 う、うわぁ……。

 すっごい怒ってるぅ。

 あっ。

 そう言えば、言い忘れちゃったけど、結婚を前提に付き合ってないからね?

 私とリリィは親友だから、そう言う関係じゃないからね?


「びっくりしたッス。ハニーがご主人以外に惚れたかと思って焦ったッス。心臓が止まるかと思ったッスよ」


「同感なのよ。生死を彷徨うくらいに驚いたなの」


「がお」


 トンちゃんとラヴちゃんとスミレちゃんが安堵のため息をついて微笑み合う。

 正直な気持ち、私は皆に大袈裟だなぁ何て言えない。

 そのくらい私も驚いて、目と耳を疑ったくらいなのだから。

 何はともあれ、うん。


「アイツ、次会ったらぶっ殺すわ!」


 私はいつも通りのリリィを見つめながら、ホッと一安心をするのでした。


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