081 幼女も驚くポセイドーンの計画
リリィに蹴り飛ばされた気絶しているメールの幸せそうな顔を見て、海猫ちゃん達は一斉に何処かへ逃げてしまった。
私はリリィから水着を返して貰って、水着を穿く。
すると、丁度そのタイミングで、ナオちゃんがやって来た。
あれ?
ナオちゃん、あの金魚鉢みたいなの被ってない。
見ると、ナオちゃんはさっきまで被っていた空気が入った金魚鉢の様な物を、何故か被っていなかった。
アマンダさんがジト目でナオちゃんを見ると、魔法を唱える。
「バルーンウォーター」
アマンダさんとナオちゃんを大きな泡が包み込み、2人はその大きな泡の中に入った。
「ナオ、何があったか説明しなさい」
「にゃー。姉様が手加減しろって言うから、魔法を使わずに金魚鉢を投げたら割れちゃったにゃ。それでニャーが割れた金魚鉢を危ないから頑張って回収してたら、ブレードシャークに逃げられたにゃ」
アマンダさんが額に手を当てて、これでもかってくらいに残念そうな目でナオちゃんを見る。
「にゃー!? ニャーだって、たまには失敗するにゃ!」
「まあいいわ。それよりナオ、貴女はここで念の為周囲を見張ってなさい」
「了解だにゃ~」
ナオちゃんは返事をすると、その場に座って、尻尾を縦に振りだした。
鼻歌までしだして、正直可愛い。
ナオちゃんって、本当の猫ちゃんみたいで可愛いよね。
私はアマンダさんがやっていたように、魔法で巨大な泡を作って、この会場内を包み込む。
「ジャスミンお嬢様は、相変わらず素晴らしいですね」
「え?」
アマンダさんに話しかけられて、私は驚いてアマンダさんを見上げる。
「この魔法は初歩でもありますが、空気の無い所で使うには相当な魔力のコントロールが必要なのです。それをこの大きさで作り上げるなど、流石としか言いようがありません」
そうなんだ?
アマンダさんのを参考にして、見よう見まねでやってみただけなんだけどなぁ。
「がお」
ラヴちゃんが私をつついて、ラヴちゃんに視線を向けると、指をさしていたので視線をその方向へ移す。
「で? セレネは無事なんでしょうね?」
「ぶち殺されたくなかったら、正直に白状するなのよ」
「事と次第によったら、その太ももを傷物にするッスよ」
う、うわぁ……。
私は本気でドン引きした。
気絶していたメールは目を覚まして、リリィとスミレちゃんとトンちゃんに囲まれて、若干涙目で3人を震えながら見ていた。
私は眉根を下げながら、アマンダさんと一緒に近づく。
「ねえ、皆。可哀想だから、もうちょっと優しくしてあげて?」
「でもジャスミン、この女は、ジャスミンの太ももを独占しようとしたのよ? しかも太ももの間に顔を入れるなんて、許されるべきじゃないわ。ここで正直に洗いざらい吐かせて殺すべきだわ」
「確かに顔を私の太ももで挟んじゃったけど、あれは事故だもん。不可抗力だよ」
「そんな事ないなのですよ! 決して許される事では無いなのです! イエスロリータノータッチなのです! 私も太ももで挟んで下さいなのです!」
スミレちゃん、言ってる事めちゃくちゃだよ?
って言うか、スミレちゃんが元々の原因なんだよ?
「ご主人、こういう時は弱みに付け込んで脅しまくってやるのがセオリーッスよ」
嫌なセオリー作らないで?
「そうですね。喋る気が無いなら、今直ぐここで始末しましょう。生かしておくと、後で弊害になる恐れもあります」
アマンダさんまで怖い事言わないで?
って言うかだよ!
皆メール、メールさんを見てよ。
まるで死んだ魚の目をした様な目で震えているんだよ?
可哀想だよ。
私はメールさんの前に立ち、両手を広げた。
「皆落ち着いてよ。メールさんは町の人達の太ももを磨いていただけなんだよ? 殺すなんて可哀想だよ!」
「……言われてみれば、ジャスミンお嬢様の仰る通りですね。つい忘れてしまいましたが、人命の被害が出ていません」
アマンダさんが真剣な面持ちで呟くと、座って鼻歌を歌いながら尻尾を縦に振るナオちゃんの方に振り向いて、大きな声を上げる。
「ナオ! 見張りはもう良いわ! こっちに来なさい!」
「了解だにゃ~!」
ナオちゃんは返事をして跳躍すると、一瞬で私達の所にやって来た。
リリィ達はメールさんを睨みつけながら話を続ける。
「ジャスミンに感謝しなさいよ」
「はい」
「幼女先輩の太ももはどんな感じだったなの?」
「最高だったわ~」
「ご主人、太もも女反省してないッスよ?」
「いいの! あれは、私も油断したのが悪いんだもん」
「甘々ッスね~」
「そこがジャスミンの良い所じゃない」
「その通りなのよ。幼女先輩は優しいなのです」
「がお」
褒めてくれているとこ悪いんだけど、スミレちゃんも反省してね?
「完敗ね~。魔性の幼女……いいえ。痴幼女ジャスミン、あなたの太ももは最高の一品よ」
「その痴幼女って呼び方の後ろに私の名前つけ――」
「セレネとか言うお嬢ちゃんは、生贄としてささげられる予定になっているわ」
「――え?」
生贄?
どういう事?
私が呼び方に抗議しようとした時に、メールさんから出た言葉は、私の背筋を一瞬にして凍らすには十分な言葉だった。
「セレネが生贄? どう言う事よ?」
「ポセイドーン様の計画は、海底神殿オフィクレイドであのお嬢ちゃんを生贄にして、全ての神の頂点であるゼウス様をこの世界に降臨させる事よ」
「にゃー? 海底神殿オフィクレイドにゃ? あそこは廃墟になってるはずだにゃ」
「そうなんスか?」
「はい。しかし、オフィクレイドですか……。まさか、あの神殿で神を呼び出す術があるとは思いませんでした」
「姉様知らなかったのにゃ?」
「ええ。初耳よ」
「無理もないわ~。これは神と神に関わる者にしか伝えてはならない事だもの~」
「スミレ、アンタ一応ポセイドーンの仲間だったんでしょう? 知らなかったの?」
「私はポセイドーンの仲間になってから日が浅かったなの。そんな重要な事は聞いてないなのよ」
「それもそうね」
うーん。
なんだか、凄く大きなお話になってきちゃったよ。
でも……。
「何でポセイドーンは、セレネちゃんを使ってゼウスを呼び出そうとしているの?」
私が首を傾げてメールさんに訊ねると、メールさんはニヤリと笑って答える。
「決まってるじゃな~い。神ゼウスの力を使って――」
その時、メールさんが私達の前から一瞬で消える。
否、正確には、私達の目の前に巨大なマトリョーシカが現れて、それがメールさんを飲みこんだのだ。
「いけないなー」
私が空けてしまった天井から声がした。
私を含め、皆が一斉にそちらに視線を向ける。
「ほーんと困るね。内緒話をベラベラと。こつぁお仕置きが必要だ」
そこに立っていたのは、ローブのフードを深く被って顔が見えないローブの女性。
港町で、ポセイドーンと一緒に現れ、セレネちゃんを連れ去ったローブの女だった。
「ありゃりゃ注目を集めちゃったかな困ったね」
ローブの女はニヤリと笑みを浮かべて消える。
するとその瞬間、間髪入れずにリリィが私の前に立つ。
気が付くとメールさんを飲みこんだマトリョーシカの横に、ローブの女が立っていた。
私は驚いて、ごくりと息を呑みこんだ。
「スミレ以外はオレの事を知らないんだ。丁度良い。ここいらで自己紹介といこうじゃないか」
ローブの女はニヤリと笑みを浮かべ、身に着けているローブを勢いよく脱ぎ捨てる。
そして現れたのは、額に2本の角を生やした鬼の一族。
はねっ気のある紺色のショートの髪の毛に、綺麗で細長のまつ毛。
細長の瞳の色はカーマイン。
スラッとした美しく細い体のライン。
綺麗で整ったお胸。
身に着けるは、ハイネックビキニと工場の作業員が穿くようなズボン。
ガテン系を思わせる様な、綺麗な鬼人のお姉さんだった。
「オレは鬼人のローク。魔性の幼女、お前と同じTS転生者だ」
「え?」
「お前と同じで前世が男。ま、仲良くしよーぜ、兄弟ちゃん」
えええええぇぇーっっ!?




