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080 幼女の激しく真剣な戦いはいつも儚い

 右手と左手にそれぞれ風と火の魔力を集中。

 イメージするのは吹き荒れる嵐と燃え盛る炎。


「スミレ! いい加減そこをどいてもらえないかしら~?」


「お断りなのよ!」


 メールが繰り出す鞭の様な攻撃は休む事なく私達を襲う。

 スミレちゃんが必死に私と審査員を守ってくれて、傷を負っていく。


 もたもたなんかしてられない。

 うん。大丈夫。

 このままいける!


 メールに向かってかざした両手の目の前に、魔法陣を浮かび上がらせる。


 スミレちゃんが頑張ってくれてるんだもん!

 今日は詠唱省略で一気に決めるよ!


嵐炎帝牙ヘルファング!」


 呪文を唱え、海水の中、炎をまとった風の刃が魔法陣から放たれる。


 出来た!

 やっぱりそうだったんだ!

 酸素じゃなくて、燃やすのは魔力なんだ!


 私が気がついたそれは、魔力を燃やす事で炎を発生させて継続させる事が出来るという事。

 常識に捕らわれていたら、絶対に出来なかった事なのだ。

 ありえない事が出来るのが魔法なら、それこそ魔法とは本来こうあるべきもの。

 この意味の分からない魔力と言う概念の、科学で証明できないものこそが魔法。

 今までだって散々非常識な事を魔法でやって来たのだから、水の中で炎を使う事だって、決して出来ない筈がないのだ!


「――っ! 海猫!」


「「「なあごおおっ!」」」


「え!?」


 メールが海猫ちゃん達を呼び、海猫ちゃん達が数匹返事をして、メールを庇う様に前に出る。


 ダメ!

 あたっちゃう!


 私は放った魔法を急いで軌道修正し、魔法はメールの前に出た海猫ちゃん達を上に曲がって避けて天井にぶつかった。

 天井は私の放った魔法で切り刻まれて、轟音と共に崩れてその場を漂う。

 天井には大きな穴が空いて、外の景色がむき出しになる。


「卑怯なのよ!」


「あ~ら? 使えるものは使うのが私のやり方よ~。魔性の幼女が海猫を相手にすると、途端に何も出来なくなる事がわかったんだもの~。それを使わない方が愚かじゃな~い」


『ご主人、もう一度――』


『ううん。使えない。海猫ちゃん達を傷つけられないもん』


『がお……』


「幼女せ――」


「え――――っ!?」


 一瞬の出来事で、私は咄嗟の反応が出来なかった。

 そして、悲劇が起こってしまった。


 私が加護の通信をトンちゃん達と交わしているその隙に、メールがもの凄い速度で私に近づいていたのだ。

 スミレちゃんが勢いよく飛び出して私を庇い、メールに【ストップウォッチ】の能力を使われて一時停止させられ動きが止まる。


 メールがニヤリと笑みを浮かべて、スミレちゃんを手で掃った所で、アマンダさんが海猫ちゃん達をかいくぐってメールを射撃。

 しかし、アマンダさんの射撃は海猫ちゃん達に妨害を受けていたせいで、メールに当たるも足に当たるだけに終わる。


「――くっ」


 メールは足の痛みに顔を歪ませて、撃たれた場所を手で押さえる為にかがんで、その時スミレちゃんに頭をぶつける。

 スミレちゃんはその瞬間に【ストップウォッチ】の一時停止の効果が切れて、メールとぶつかったせいで、勢いよく飛び出した時の勢いのまま動き出す。


 スミレちゃんが勢いよく動き出したのだけど、問題はその方向だった。

 ここは海中で、床は崩れている。

 つまり、私は今、海中を泳いでいる状態なのだ。


 スミレちゃんが動き出した先は私の下半身。

 私は咄嗟の反応が出来ないから、もちろんおもいっきりスミレちゃんにぶつかる。

 と言っても、運良く? 足にぶつかったので、私の大事な所は守られたのだけど、ここからが悲劇の始まりでした。


 スミレちゃんがぶつかって、バランスを崩して前のめりになって回転する私。

 そして、その先にいた低い姿勢のメールの顔にお尻からダイブして、メールの顔にお尻を乗せてしまったのだ。

 しかし、それだけでは終わらない。


「幼女先輩!」


 スミレちゃんが急ブレーキして私に振り向いたのがいけなかった。

 振り向いた時に私の体とスミレちゃんの体があたって、私は押される様にそのままメールの顔を太ももで挟む。

 その瞬間、メールの顔が私の大事な所にダイレクトアタック。


「きゃああああーっっ!!」


 私は悲鳴を上げて、その瞬間、今まで黙っていたリリィから凄まじいまでの殺気が放たれて海猫ちゃん達が一斉に散開した。

 そして、リリィが一瞬で私の太ももに挟まれたメールに近づき蹴り飛ばす。


「私のジャスミンに何してんのよ! 蹴り飛ばすわよ!」


 もう蹴り飛ばしてるよ、リリィ。


 などと私は思いながら、しくしく泣きながら股間を押さえた。

 蹴り飛ばされたメールは壁にぶつかって気絶していたのだけど、その顔は、これでもかって位に幸せそうな顔でした。

 そして……。


『ご、ご主じ……ぷぷぷ。ど、どんまいッス。ぷぷぷ』


 トンちゃん、笑い事じゃないよ?


『がお』


 うぅ。

 ありがとう、ラヴちゃん。


 トンちゃんが笑いを堪えて、ラヴちゃんが私の頭をいい子いい子と撫でてくれる。

 そして、こんな状況を作ってしまった2人はと言うと……。


「メールを太ももで昇天させるなんて、流石は幼女先輩なのですよ! それにしてもメールの奴は、うらやまけしからんなのです! 幼女先輩、私も太ももで挟んでほしいなのです!」


 挟みません。


「ごめんね、ジャスミン。何も出来ないから、ついついジャスミンの水着に頬ずりしていたの。まさかこんな事になるなんて……」


 頬ずり!?

 本当に何やってるの!?

 リリィそんな事してたの!? 


 私の涙は止まらない。

 と言うか、最早ラヴちゃんとアマンダさん以外は、全員敵なのでは? と疑いたくなる位だ。


「ねえ、リリィ。水着返して?」


「待ってジャスミン。私、実は絆創膏を持って来ているのよ!」


 え? それをアソコに貼れと?

 絶対嫌だよ?


 私と、私の水着を手放すものかと握り締め、絆創膏を私に差し出すリリィが微笑み合う。

 こうして、私達とメールの戦いは幕を閉じるのでした。

 そして、私はリリィと微笑みながら思うのです。


 もうやだお家帰る。


 と……。


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