079 幼女に変なプレイを強要してはいけません
リリィとアマンダさんが海猫ちゃんに羨ましくも囲まれて身動きとれなくなり、私とスミレちゃんがメールと睨み合う。
スミレちゃんは私の横に立ち、私に注意を呼びかける。
「幼女先輩、メールはポセイドーンの加護の力で能力を得ているなのです。気をつけるなのですよ」
「やっぱりそうなんだ? どんな能力なの?」
「能力の名前は【ストップウォッチ】なのです。元々は正確に時間を計れるただの体内時計みたいな能力なのですが、覚醒して恐ろしい能力に生まれ変わってるなのです」
スミレちゃんのお話がメールに聞こえたのか、メールがニヤリと笑って高らかに声を出す。
「そうよ~! 私の、このメール様の能力は【ストップウォッチ】! 触れた相手の時間を一時停止させる事が出来る最高の能力よお!」
時間を一時停止!?
それって結構ヤバいよね!?
「だ~か~ら~、こう言う事も出来ちゃうのよ~」
メールが目を細めて床に触れる。
「え?」
瞬間、床が崩れて……違う。
まるで爆発するかのように、亀裂していた部分が弾け飛ぶ。
これって、さっきの――っ!
弾けた床の破片が私達を襲い、私は咄嗟に魔法で氷の盾を作ってガードした。
「ひいいいっっ」
審査員が悲鳴を上げて私は笑顔を見せる。
「大丈夫! 絶対守るから!」
とは言っても、ちょっと大変かもしれないと私は思った。
何故なら、今みたいな罠の様な物を張られていると思うと、審査員の側を離れられなくて、そうなると防戦一方になってしまうからだ。
攻撃に移らなければジリ貧で負けてしまうのは明らかで、今の状況は良いとは言えない。
『ご主人、前っ前ッス!』
「え?」
審査員から視線を前に移す。
メールが物凄く長いワカメの様な海藻を左手で持っていて、それが鞭の様に伸びて私を襲う。
「きゃっ……!」
「幼女先輩!」
スミレちゃんが私の前に立ち、海藻に打たれ傷を負う。
「スミレちゃん!」
「幼女先輩、大丈夫なのですか?」
「うん。ありがとースミレちゃん。直ぐに治すからね」
「それには及ばないなのですよ。後でリリィに、幼女先輩を守った勲章だって自慢してやるなのです」
「スミレちゃん……」
おバカだなぁ、そんなの自慢になんてなら無いよ。
ありがとぉ、スミレちゃん。
「あ~ら? 魔性の幼女をいたぶって、太もも以外を傷物にして楽しみたいのに、邪魔しないでほしいわ~」
私の背筋に悪寒が走る。
顔から血の気を引くのを感じながら、私はメールを見た。
メールはうっとりとした顔を浮かべて、顔を染めて怪しく笑う。
ひぃっ!
ヤバいよこのお姉さん!
怖いすぎだよ!
「うふふ~。今すぐその可愛らしくて華奢な体を、魔法で作り出したとおーっても硬いこれで~、きつーく縛ってあげるからね~」
ひいぃっ!
お断りします!
「メール! 幼女先輩にMプレイは似合わないなのよ! 幼女先輩はこう見えてSっ気が高いなのよ!」
スミレちゃんも何言ってるの?
私にそんな趣味は無いよ?
「うふふ~。そおかしら~? 良い声で泣いてくれると思うわよ?」
泣く泣かないで言ったら、怖すぎて今直ぐ泣きたいよ!
『ご主人、これまたとんでもない変態に気にいられたッスね』
本当だよ!
『がお? えちゅ? えむ?』
『ラーヴ、SMって言うのはッスね――』
『トンちゃん! 教えなくて良いから!』
『え? そうッスか?』
そうっすよ!
『がお?』
まったくぅ、ラヴちゃんに変な事――っえ?
その時私は気がついた。
いつの間にか、弾けた床の破片からメールが手に持っているのと同じ様な海藻が飛び出して、私の両足に絡みついていたのだ。
「つ~かま~えた」
「きゃっ!」
両足に絡まった海藻に、メールに向かって勢いよく引っ張られる。
「幼女先輩!」
なにこれ!?
本当になにこれ!?
全然解けないよぉー!
「あらかじめ魔法を忍ばせておいたのよ~。こっちにいらっしゃ~い」
私は必死に両足に絡まった海藻を解こうとするけど、メールの言った通り海藻は物凄く硬くて、まるで鉄か何かがくっついている様でまったく解けない。
『がお!』
ラヴちゃんが私の足まで移動して、海藻に触れて熱を流す。
瞬間、海藻が柔らかくなって、私は急いで海藻を解いた。
「ありがとーラヴちゃん」
『がお』
「あ~ら残念。もうちょっとだったのに~」
私はごくりと唾を飲み込んで、急いでスミレちゃんの所に戻った。
ほ、本当に危なかったよ。
もう直ぐで、捕まっちゃう所だったよぉ。
「大丈夫なのですか?」
「うん。ラヴちゃんのおかげで助かったよ」
しかし、状況は変わらない。
いいや。
むしろ悪化しているのかもしれないと私は思った。
弾けてしまった事で、そこ等中に散らばる床の破片からは、メールの魔法で作られた海藻がいつ飛び出してくるか分からない。
メールの能力【ストップウォッチ】は対象を一時停止させる厄介な能力なだけあって、常識に捕らわれていると、思わぬ所から攻撃が来るので非常に危険だ。
と、そこで私はふと思い出す。
常識と言えば、ナオちゃんの炎って何で消えなかったんだろう?
普通水の中だと炎なんて出ないし、こんな所じゃ炎をあげる為の酸素だってないのに……。
そう言えばさっき、ラヴちゃんが私を助けてくれた時って、加護の力と言うよりは魔法を使って魔力で熱を――そうだよ!
私、わかっちゃったかも!
「スミレちゃん、すっごく強力な魔法使うのに集中したいから、審査員さんを守ってほしいんだけど頼めるかな?」
「任せて下さいなのです!」
「ありがとー!」
そうだよ。
この世界に転生したってわかった頃に、持っていたあの気持ち。
ううん、感覚かな?
忘れてたよ。
きっと、ナオちゃんの魔法はそう言う事なんだ!
「何か思いついたみたいだけど、させてあげないわよ~!」
メールが海藻を鞭の様にしならせて、私を中心に狙って攻撃する。
「させないのはこっちなのよ!」
スミレちゃんが私と審査員を、メールの攻撃から守ってくれる。
『2人共、お願い!』
『任せるッス!』
『がおー!』
トンちゃんとラヴちゃんが加護を魔力に変換し、私はそれを両手に集中して、メールに向かって両手をかざす。
うん。
イメージは出来た。
絶対出来る。
あの時みたいなワクワクした気持ちで、常識を超えるんだ!




