077 幼女の太ももは強い
第一回太もも王座決定戦。
それは、我こそはと太ももに自信がある者達が名乗り出て、誰が一番か決める大会である。
選手達は順番に、審査員の前で自慢の太もも披露する。
パフォーマンスはそれぞれが考え、その表現には制限がない。
3人の選ばれた審査員達による厳密な審査は身内であろうと厳しく、それぞれの最高得点を10点とし、選手達は各々最高のパフォーマンスを披露して30点を目指す。
太もも王座決定戦、それは、太もも好きが競い合う太ももによる太ももの為の太ももな大会である。
そして今、決着がついた!
優勝は私!
以上で第一回太もも王座決定戦は終了です!
解散!
え? 早くないかって?
だって…………はい。
正直に言います。
こんな事がありました。
私はお話についていけないので、一人楽しく観客席に座る海猫ちゃん達を眺めていたのだけど……。
メールによって選び抜かれた太ももに自信のある魚人達の採点が終わり、いよいよ私達の出番が回って来た。
でも、私は参加する気が無いのでリリィとスミレちゃんに後の事は任せて、2人に頑張ってと伝えて観客席に座る海猫ちゃんを眺めた。
まずは最初にスミレちゃんが太もものアピールを始めだす。
だけど……。
「おいスミレ。おのれは、この大会の事をちっともわかってへん」
「どう言う事なのよ?」
「おのれはな、おっぱいをアピールしすぎなんや」
「――っ!」
スミレちゃんが目を見開いて、がっくりと膝を床につける。
「残念やスミレ。ワテはおのれに期待しとったんやで」
審査員たちは一斉に点数を上げる。
ポセイドーンは0点で、合計20点という悲しい結果に終わ――20点?
ポセイドーン以外の審査員が真剣な面持ちで、鼻の下を伸ばしながらそれぞれ話し出す。
「太ももが目立っていなかったのは残念ですが、私はおっぱい大好きです」
「スミレさん、でしたっけ? 今晩一緒にお食事しませんか?」
どうやら、スミレちゃんは審査員達のハートをつかんだようだ。
って、何だこれ? それで良いの?
「おのれ等アホか! これは太ももの王座を決める大会や! おっぱいにうつつをぬかすなボケェッ!」
「しかし、彼女のおっぱいは理想的な――」
「やかましいわ!」
ドッと笑いが会場内に響く。
海猫ちゃん達が楽しそうに笑っていて、見ているとこっちまで楽しくなってきた。
私はリリィ達の活躍を見届けようと決意して、出番を控えていたリリィに視線を向けた。
しかし、その時事件は起こる。
あれ? リリィ?
気が付くと、リリィはステージの上から消えていて、何処にも姿が見当たらなかったのだ。
私は会場の隅々まで見渡すけど、観客席にもリリィの姿は無く、とてつもなく嫌な予感が私を襲う。
まさか!?
リリィが攫われ――
次の瞬間、私のガーターベルトが外されて、下の水着が勢いよく降ろされる。
「――きゃああああぁぁぁーっっ!」
私の悲鳴が響き渡り、静まりかえる会場。
集まる視線。
私は下半身丸出しの痴女となり、顔を真っ赤に染め上げた。
と、その時、トンちゃんとラヴちゃんから加護を使った通信で話しかけられる。
『大丈夫ッスよご主人! ボク達が完全ガードしてるッス!』
『がお!』
言われて気が付いたのだけど、トンちゃんとラヴちゃんが、私の股間が周りから見えない様に2人で目の前に立って守ってくれていた。
トンちゃんもラヴちゃんも頑張って泳いでくれていて、周りからは私の股間が2人に隠れて見えていないと思う。
だけど、最早そんな問題で無いのは間違いないわけで、私は大声を上げずにはいられない。
「大丈夫じゃないよ!」
って言うかだよ!
いつもそんな事しないよね!?
なんで今回はまるで私の水着がって――っ!
その時気がついた、気配を消して私の背後に立っていた人物に。
「リリィ!? って、えぇええぇぇぇぇ……」
私の背後に立つリリィは、鼻から鼻血を出しながら、さっきまで私が穿いていた水着を広げて眺めていた。
しかも、本当に意味が分からないのだけど、その水着を中心に半径1メートル位には空気があって、海水からまぬがれているという謎仕様。
ねえ?
ねえリリィ?
それどうなってるの?
って言うか、すっごい目がキラキラしてるけど、その水着返してもらっていいかな?
「リリ――」
「優勝や!」
私がリリィに水着を返して貰おうと話しかけたその時、ポセイドーンが審査員用の机を勢いよく叩いて大声を上げた。
「――え?」
「これ程に最高なお尻は見た事あらへん! 採点なんてどうでもええわ! 優勝決定や!」
ちょっと待って?
今お尻って言わなかった?
これ、太ももを競い合う大会だよね?
って、今はそんなのどうでも良いよ!
「リリィ、お願いだから私の水着返して?」
「ぽ、ポセイドーン様~、待って下さい。他の審査員の得点がまだ――」
メールが眉根を下げて困惑しながらポセイドーンに異議を唱えようとすると、他の審査員2人が得点を掲げた。
「そんな~……」
メールががっくりと項垂れる。
「決まりやな。魔性の幼女……ちゃうな。半裸の痴幼女の得点は三十点満点や!」
プニプニと肉球が触れ合う拍手がステージを包み込み、私は涙目でリリィに水着を返してと懇願する。
こうして、私は第一回太もも王座決定戦の勝者となったのだけど、本当になんだったのって感じ。
「ねえ? リリィ聞いて? 本当に恥ずかしいから早く水着返して?」
「待ってジャスミン。今良い所なの」
「待てないよ!」
メールがわなわなと震えだし、その突如、メールを中心にステージの床に亀裂が走る。
私は驚いてメールに視線を向けた。
メールは私でもわかる位に殺気を放っていて、この場の空気が一瞬にして変わるのを感じた。
「もういいわ~」
メールが呟き、海猫ちゃん達がざわめき出して、ポセイドーンが席を立った。
「ほな、ワテは帰らしてもらうわ」
ポセイドーンは一言言って、一瞬で消えてしまった。
すると、続けて他の審査員も立ち上がる。
「そ、それでは我々もこの辺で」
「そうですね。審査も終わった事ですし――」
「待ちなさーい」
メールが審査員に視線を向けて、2人はピクリと体を震わせて動かなくなった。
「ポセイドーン様はともかく、あなた達の言い分を聞かせてもらえるかしら~?」
ゆっくりと審査員に近づきメールが質問すると、2人は緊張した面持ちで答える。
「や、やはり魔性の幼女の太ももには、メール様の美脚より素晴らしいと判断しました」
「魔性の幼女のお尻がとても良かったので……」
「あなたは行ってよし、でも、あなたは駄目ね~。死刑決定~」
「ひいっ」
私のお尻を褒めた審査員の頭をメールが掴もうと手を伸ばす。
「さよ~なら~」
ダメ!
恥ずかしがってなんかいられない。
私はリリィから水着を返して貰うのを一先ず保留にする事にして、審査員を守る為に行動に出る。
右手に魔力を集中して、重力の魔法を使って、メールに頭を掴まれそうになった審査員を引き寄せる。
「あ~ら? 邪魔が入ったわね~」
引き寄せた審査員は腰を抜かして、私の横でへたり込んだ。
私とメールの目がかち合う。
「丁度良いわ~。魔性の幼女の太ももは、確かに私から見ても最高だもの。あなたをここで捕まえて、私の大事なコレクションの一つにしてあげる」
ひぃっ!
怖い怖い!
でも、逃げちゃダメなんだ!
きっとここで逃げたら、本当にこの審査員の人は殺されちゃう。
そんな事、絶対にさせないんだから!




