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075 幼女が困惑する規格外の猛者達

 す、凄ぉ……。


 旅館の亭主さんの案内で、メールに捕らわれた町の人達が監禁されている建物の前に到着すると、私達は予想通りブレードシャークに襲われた。

 そして、私は目のあたりにしてしまった。

 ナオちゃんの凄さとアマンダさんの凄さを……。

 語彙力ごいりょくに欠けるけど、凄いとしか言いようが無いのだ。


 ブレードシャークは驚くほど大量に群れを成していて、まるで目の前に壁がそびえ立っているようだった。

 ナオちゃんは腰につけていた鉤爪の様な武器を装備して、その壁の様な群れの中に飛び込むと、一瞬で周囲の海水が蒸発する程の炎の魔法をその武器に纏わせた。

 そしてその武器を使って切り裂く様に一振りしただけで、ブレードシャークの壁の様な群れの中に、引っ掻いたような大きな裂け目が一瞬で現れた。

 正直意味が分からないのだけど、ナオちゃんが作りだした裂け目からは消える事の無い炎が現れて、それは延々と燃え続けた。


 凄いのはナオちゃんだけでは無い。

 ナオちゃんからの攻撃を受けたブレードシャークを、アマンダさんが瞬時に回復して、殺さない様にしていたのだ。

 しかも、回復の魔法を銃弾に変えて、それを持っている銃でブレードシャークに撃ちこんで回復すると言う驚異の荒業。

 その回復の魔法も水の属性の魔法なのに、海水と混ざる事なく全弾命中で凄かった。


 おかげで私のお口はポカーンと開いていて、どっからどう見てもマヌケ顔。

 そんなマヌケ顔の私の横で、リリィは感心した様子で呟く。


「なかなかやるじゃないあの子。ただニャーニャー言ってるだけでもないのね」


「がおー」


「幼女先輩、私は今、奇跡的に生きているこの瞬間を大切にしようと思ったなのですよ」


「え? あ、うん。そうだね?」


「おっぱい女は赤猫に襲われたって言ってたッスからね~」


 スミレちゃんが一瞬何を言いだしたのか分からなかったけど、トンちゃんの説明で思い出す。


 そう言えば、そんな事を言ってたよね。

 って言うかナオちゃんって、リリィ並にヤバくない?


 などと私が呆気にとられてほうけていると、ナオちゃんが戻って来て眉根を下げて呟く。


「にゃ~。手加減するの疲れるにゃ」


 手加減!?

 あれで!?


「何を言ってるの? 何匹か即死しかけてるわよ。危うく無意味な殺生をするところだったわ。もっと手を抜きなさい」


 え?

 嘘でしょう?

 あんなに凄い事になったのに、一匹も死んでないの?


 私が困惑していると、リリィが私の顔を見て察してくれたのか教えてくれる。


「間違いないわよ。ナオの攻撃が当たるのとほぼ同時のタイミングでアマンダが回復して、即死を免れて回復したわ」


 うん。

 一つだけわかったよ。

 もう既に私ついていけないもん。

 何て言うかあれだよね?

 私の今の視点って、かの有名な漫画のヤム――って、そんな事考えてる場合じゃないよ!


 私はその時気がついてしまった。

 九死に一生を得たブレードシャーク達が、もの凄く涙目になって怯えている事に。

 甦るのは昨日のブレちゃんとの思い出。


 なんだか可哀想になってきちゃった。

 ほら見て?

 あの炎、まだ燃えてるんだよ?

 絶対ヤバいやつだと思うの。


 そう。

 ナオちゃんが放った炎は未だにその場で燃え続けていて、その周辺の海水が沸騰していたり蒸発したりし続けていて、なんだかもう本当に大変な事になっている。

 どう言う原理なのか意味不明だけど、あの炎に近づいたら間違いなくヤバそうだ。

 ブレードシャーク達はその炎に近づかない様にして、体を震わせて怯えていた。

 って言うか、どうやって消すのアレ?


「これ以上は手加減しなくても、姉様がいるから大丈夫にゃ」


「ナオ、真面目にやりなさい。次からは私は手を貸さないわよ」


「にゃー。わかったにゃ~」


 ナオちゃんは返事をすると、もう一度ブレードシャークの群れに近づ――けない。

 ブレードシャークが一斉に逃げ出したのだ。


「にゃー! 逃げるにゃー!」


 ナオちゃんやめてあげて?

 皆が怖がってるから、追いかけないであげて?


 逃げるブレードシャークの群れに、それを追いかけるナオちゃん。

 ナオちゃんはアマンダさんに注意されたからなのか、さっきまでの凄い動きとは全然違っていて動く速度も遅かった。

 例えるなら、童話のうさぎとかめの、うさぎがかめのスピードになった感じ。


「それではジャスミンお嬢様、先を急ぎましょう」


「う、うん……って、あれ? ナオちゃんは?」


 私が訊ねると、アマンダさんはブレードシャークの群れを追いかけるナオちゃんを一瞥する。


「あの様子なら、放っておいても大丈夫でしょう。我々は先に進み、メールから町の人々を助ける事を優先するべきと判断しました」


「そうよ、ジャスミン。もしナオがブレードシャークを殺しても、オカズにして食べれば良いじゃない」


「リリィの言う通りなのですよ。私もブレードシャークの肉を一度食べてみたいなのです」


「確かに昨日食べ損ねたから気になるッスね」


「がお」


「良いですね~、はい。ブレードシャークを焼いた肉は海猫達の大好物なんですよ、はい」


 よし!

 先に進もう!

 海猫ちゃん達の大好物なら、何も問題ないよね!?

 それにこの世は弱肉強食、自然の摂理には逆らえないのだ!


 と言うわけで、私達はブレードシャークの群れをナオちゃんに任せて、先に進んで建物の中に入る事にした。


 そう言えばだけど、町で見た海猫ちゃんが出した炎も消えなかったけど、ナオちゃんの出した炎とは全然違ってたなぁ。

 ナオちゃんのは力技って感じで、海猫ちゃんのは……うーん、なんて言ったらいいんだろう?

 普通?

 違うなぁ……自然のままにかな?

 そんな感じだったよね?

 うーん……どうしよう?

 考えてたら、海猫ちゃんに会いたくなってきちゃった!




【ジャスミンが教える幼不死マメ知識】

 ブレードシャークは地上で暮らす人達にはとても恐ろしい海の生物だけど、海の中で暮らす魚人達からは全然恐れられていないみたいだよ。

 それどころか、日常の生活には欠かせない食料の一つなの。

 ブレードシャークの骨も加工して、色んな物に利用してるんだって~。

 驚いちゃった。

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