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073 幼女は隠し事を守りたい

 海底の町リコーダーに到着した次の日。

 目が覚めて、重いまぶたを開けずにうつ伏せになる。


 あれ?

 何だろうこれ?

 凄いフカフカと言うかプニプニと言うかポヨポヨと言うか、とにかく触り心地が凄く気持ちいい。


 私はそれ(・・)に顔を埋めながら手で触り、ゆっくりと目を開ける。


「え?」


 私はそれ(・・)を見て勢いよく起き上がった。


「スミレちゃん!?」


 そう。

 私が顔を埋めて触っていたそれ(・・)とは、スミレちゃんの豊満なおっぱいの事だった。

 旅館の寝間着を着崩して、あらわになったスミレちゃんのおっぱいが目に入る。

 私は、どこのラブコメ展開だこれと思いながら、自分が着ている旅館の寝間着の着崩れをサッと整えた。


 って言うか、いつの間に入って来たの?

 昨日寝る時はいなかったよね?


「ふあ~。幼女先輩おはようなのですよ」


「え? あ、うん。おはよー」


 眠気眼で挨拶するスミレちゃんに、私が呆気にとられて冷や汗を流しながら挨拶を返したその時、勢いよく扉が開かれた。


「スミレ! あ、ジャスミンおはよう」


「り、リリィ? うん。おはよう」


 リリィは私と挨拶を交わすと、若干怒りながらズンズンと足音をたてて部屋に入って来て、スミレちゃんを物凄く鬼の様な形相で睨んだ。


「なんでジャスミンの部屋で寝てるのよ!?」


「ペットとして幼女先輩に快適な睡眠を提供していただけなのよ」


「はあ? どうせそんな事言って、本当は自分がジャスミンと一緒に寝たかっただけでしょーが!」


「そんな事ないなのよ。幼女先輩の敷布団になれて最高だなんて、思っていたけど思っていなかったなのよ」


「思ってんじゃないの!」


 何これ?


 リリィとスミレちゃんが目の前でギャーギャーと騒ぎ出す。

 私は、どこのラブコメ展開だと思いながら、ユニットバスに入って水着に着替え始めた。


 着替えが終わって部屋に戻ると、トンちゃんとラブちゃんが私の目の前にやって来る。


「ご主人、おはようッス」


「ジャチュ、おはよ」


「うん。トンちゃんとラヴちゃん、おはよー」


「ハニーとおっぱい女は朝から元気ッスね~」


「あはは。そうだね」


 って言うか、まだやってる。


「先にロビーに行こっか。もしかしたらアマンダさん達がいるかもしれないし」


「そうッスね」


「がお」


 ポーチを腰にかけて、トンちゃんとラヴちゃんがポーチの中に入る。

 私はチラリとリリィとスミレちゃんに視線を向けたけど、2人の言い争いは暫らく続きそうなので放っておく事にした。


 それにしてもと、私はロビーに向かいながら考える。

 実は昨日晩御飯を食べている時に初めて知ったのだけど、と言うかアマンダさんに教えてもらうまで気がつかなかった事なのだけど、ここは深海だから基本朝昼晩の区別が明るさではつかないのだ。

 このリコーダーの町は、朝昼晩と消える事なく街灯が町を照らしているので、時間を把握しないと朝なのか夜なのか全く分からない。

 そんなわけで、実は昨日ブレードシャークに私が襲われたのは、結構遅い時間帯だったらしい。


 と、そんな事を考えながらロビーに辿り着いて私は驚いた。


「あれ? 空気がある?」


「本当ッスね」


「がお」


 ロビーの中は空気が充満していて、それを知ってトンちゃんが羽を広げて羽ばたいた。


「あー、やっぱりお客様が来ていらしたんですねー、はい。いらっしゃいませです、はい」


 声が聞こえて振り向くと、ロビーにある受付カウンターに、知らない魚人のおじさんが立っていた。


「あ、驚かせてしまってすみません、はい。わたくし、ここの亭主です、はい」


「亭主……さん? あ、ごめんなさい。勝手に寝泊まりしちゃいました」


 私は慌てて亭主さんに駆け寄って、申し訳ないとお辞儀する。

 亭主さんは眉根を下げてニコニコと笑いながら「とんでもない」と、言葉を続ける。


「当旅館を空にして、いなくなってしまったわたくしが悪いのですから、お気になさらないで下さい、はい。恥ずかしながら、まだ他の従業員が帰って来ていないので、大したおもてなしも出来ないのが申し訳ないです、はい」


 いえいえそんなと、私と亭主さんが言い合っていると、そこへアマンダさんがやって来た。


「ジャスミンお嬢様、それに亭主様? 無事だったのですね」


「これはこれはアマ――殿でん――――メレカ様ではないですか、ようこそいらっしゃいました、はい」


 待って?

 ちょっと待って?

 今、アマンダさんと殿下って言いかけたよね?

 聞き間違いじゃないよね?


「勝手に悪いとは思ったのですが、宿泊させて頂きました。お支払いは――」


「お気になさらないで下さい、はい。それにお支払いも結構です、はい。アマ――メレカ様には、いつもわたくし共々町の住民がお世話になっておりますので、どうぞお気にせずにゆっくりと休養して下さいませ、はい」


 ばれてる!

 またアマンダさんって言いかけたもん!

 絶対ばれてるよこれ!


 私は焦りながらアマンダさんを見る。

 アマンダさんは柔らかく綺麗な微笑みを亭主に向けながら「それでは、今回はお言葉に甘えさせて頂きます」なんて言っていて、絶対に気がついていない。


 うーん、これは、言った方が良いのか悪いのか……。


「ご主人、正体バレてるって言っても良いッスか?」


「がお?」


「ダメ」


 うん! 決めたよ!

 アマンダさんはばれてないって思って、一生懸命秘密を守ってるんだもん!

 旅館の亭主さんも、アマンダさんが秘密にしてるから、きっとそれに合わせて名前を言わない様にしてるんだ!

 だから、ここは黙っておいた方が良いよね!?


 そんなわけで私は本当の事を言いだしたい気持ちを抑えながら、言いださない様に2人から距離を置く為、ロビーに備えてあるソファーに座った。


「つまんないッスね~。絶対言った方が面白い事になるッスよ」


「面白い事にならなくて良いの」


「がお?」


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