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072 雨森は主の為に話し合う

 お話は少しさかのぼって、私達が海の中に潜って暫らく経ってからの事でした。

 アマンダさんの隠れ家に残ったプリュちゃん達は、私達の帰りを待ちながら幼児化してしまった人達の遊び相手になっていたんだけど……。




 プリュちゃんとマモンちゃんが子供達と隠れ家の外にある海と砂浜で遊ぶ中、ラテちゃんは隠れ家の中でお布団に潜ってダラダラとしていた。

 フォレちゃんもその場にいて、子供達が散らかした隠れ家の中を、魔法を使って綺麗にお片付けしていた。


「あ、ジャスが小瓶を忘れているです」


「なんぢゃと!?」


 ラテちゃんが、私が脱ぎ捨てたスカートのポケットから、小瓶が転がって出ているのに気がついて持ち上げる。

 フォレちゃんはラテちゃんに近づいて、持ち上げた小瓶に視線を移した。


「ジャスミン様は普段しっかりしておるが、まれにおっちょこちょいな部分が出るでのう。しかし、今回は少々それの間が悪かったようぢゃな」


「遊びに行っているわけでは無いですし、気にする事でも無いです」


「うむ。そうぢゃな」


 フォレちゃんが頷いたと同時に、タイミングよく扉が開かれる。

 プリュちゃんがハッカちゃんを連れて、ここに現れたのだ。


「二人共ここにいたのか? マモンさんが凄いんだぞ!」


「マモンちゃんちゅごいのよー!」


「マモがどう凄いです?」


 ラテちゃんは大きなあくびをしてから小瓶をその場に置くと、現れたプリュちゃんに近づく。

 フォレちゃんもラテちゃんと一緒にプリュちゃんに近づいた。


「来たらわかるんだぞ」


「ラテはあまり動きたくないです」


「そんな事言わずに来るんだぞ!」


「えー、めんどくさいです」


「ラテール、そう言うでない。どうせ時間はまだあるのぢゃ。少々付きあってやってもよいぢゃろう」


「……わかったです」


 ラテちゃんは可愛い顔をすこしだけしかめながら答えると、プリュちゃんに(・・・・・・・)フォレちゃんと一緒について行った。


 隠れ家を出ると夕陽がラテちゃんとフォレちゃんを照らして、2人は目を細める。

 外に出ると皆が何やら大騒ぎをしているのが聞こえて、ラテちゃんとフォレちゃんは訝しんで視線を向けた。

 見てみると、砂浜には体長5メートルあるブレードシャークが転がっていて、その上でマモンちゃんが無い胸を張ってドヤ顔して立っていた。

 そしてそれを、子供達が大興奮して騒いで盛り上がっていたのだ。


「なんです? あれは……」


「マモンさんがブレードシャークを狩って来たんだぞ。今日の晩御飯にするって言ってたんだぞ」


「ふむ。ブレードシャークの肉は固くて不味いと聞いた事があるが、そんな物を妾に食せと申すのか?」


「それは人を襲って食べたブレードシャークの肉なんだぞ。人を襲って食べたブレードシャークは、味を覚えて肉ばかり食べる様になるから不味くなるんだぞ」


「それを聞いたら余計食べたくないです」


「大丈夫なんだぞ。人を襲ったかどうかは、ブレードシャークの角の数を見ればわかるんだぞ」


「角の数です?」


「そうだぞ。人を襲って食べたブレードシャークは、角が二本になるんだぞ」


「ほう。ならば、あそこで死んでおるブレードシャークは大丈夫なようぢゃな」


「それを聞いて一安心です」


「そう言えば、さっきラテが持っていた小瓶は、主様の忘れ物か?」


「気がついていたですか? そうです。ジャスの忘れ物です」


「大変なんだぞ。主様に届けに行くんだぞ」


 プリュちゃんが慌てて小瓶を取りに行こうとすると、フォレちゃんがプリュちゃんを制止する。


「待て。そう慌てるでない」


「でも、主様が困ってるかもしれないんだぞ」


「心配せずともよい。必要であれば、直ぐに加護の通信を使うぢゃろう。それが無いという事は、必要が無いと言う事ぢゃ」


「です。そんな慌てる様な事でも無いです」


 プリュちゃんは可愛らしいおめ目をパチクリとさせて頷いた。


「確かにそうかもしれないんだぞ」


「なんのおはなち?」


 プリュちゃんの背後から、とっても可愛らしい笑顔でハッカさんが訊ねた。

 少し驚いてプリュちゃんは後ろを向いて、首を横に振るう。


「なんでもないんだぞ」


「ふーん……」


 ハッカさんが何やら意味あり気な表情を見せる。

 と、そこで、マモンちゃんが気がついて大声を上げる。


「お前達、そんな所で突っ立ってないで、私を手伝いなさいよ!」


 どうやら、マモンちゃんは早速ブレードシャークを捌いて料理しようとしている様で、砂で汚れない様に大きなシートの上にブレードシャークを乗せていた。

 ラテちゃんは面倒臭そうに、プリュちゃんは可愛い満面の笑顔で、フォレちゃんは微笑しながらマモンちゃんの料理のお手伝いを始めた。

 子供達も遊ぶのを止めて、それを興味津々に見ていた。


 途中でレオさんが料理のお手伝いをしたり、それを見て何人かの子供もお手伝いを始めたりして料理が完成した。

 そうして、皆でいただきますして美味しくご飯を食べていると、プリュちゃんが何やら真剣な面持ちでフォレちゃんに話し始める。


「やっぱり、アタシは明日主様に小瓶を届けに行くんだぞ。主様は優しいから、連絡をしたくてもアタシ達を心配させない様に、黙ってるだけかもしれないんだぞ」


「……まあ待て。そうであっても、子供達の事を考えれば其方はここに残るべきぢゃ」


「でも、主様が――」


「話を最後まで聞かぬか。其方はここに残るべきぢゃが、誰も行ってはならんと言うたわけでは無かろう」


「フォレ様……」


「うむ」


 フォレちゃんがモグモグとご飯を食べるラテちゃんに視線を向ける。

 ラテちゃんはその視線に気がついて、ピクリと体を震わせて、お口の中のものをごっくんと飲みこんだ。


「ちょっと待つです! 小瓶なんて持っていかなくても大丈夫です! ラテは海に潜るのは嫌です!」


「でも、主様がきっと困ってるんだぞ」


「だったら加護の通信を使って直接聞いてみるです!」


「まあ待て。ジャスミン様は遊びに行ってるのではない。そんな事をして万が一にも間の悪い時に通信を送ってしまい、ジャスミン様を危険に晒してしまっては意味が無かろう。相手は腐っても神なのぢゃ。こちらからは緊急でない限り、通信を送るべきでは無い」


「そ、それもそうです」


 ラテちゃんが俯いて眉根を下げる。

 するとその時、マモンちゃんがブレードシャークの骨肉をしゃぶりつきながら、精霊さん達の前に座った。


「話は聞かせてもらったわ! そう言う事なら、私が小瓶を届けに行ってやるわ!」


「マモンさん、本当か!?」


「任せなさい! 私にかかれば、こんな海ひと泳ぎで甘狸を一網打尽よ!」


「一網打尽はしなくていいです」


「馬鹿ね。例え話だ」


「例えになってないです」


「これこれ、二人ともやめぬか。それより、本当に行ってくれるのか?」


「当たり前だ! リリィ=アイビーとも決着をつけなきゃいけないし、海の中で決着をつけてやるわ!」


「マモンさん、ありがとうなんだぞ」


「気にするな! 木の精霊も連れて行くしな!」


「何? 妾を連れて行くぢゃと?」


 フォレちゃんが顔を顰めてマモンちゃんを見ると、マモンちゃんは凄く良い笑顔で答える。


「言いだした本人だからなー。ちゃんと責任を取るべきだ!」


「……まあよい。ジャスミン様の事が心配ではあったのぢゃ。丁度良い機会と思い、其方について行こうではないか」


「決まりね!」


「助かったです……」


「後の事、子守は頼むぞ。プリュイ、ラテール」


「わかったんだぞ」


「そ、そうです! フォレ様とマモがいなくなったら、流石にラテも子供の面倒を見ないといけなくなるです!」


「一緒に子供達をお守りするんだぞ」


「ゆっくりダラダラしたいです……」


 そんなわけで、私が忘れてしまった小瓶を届けてくれる為に、フォレちゃんとマモンちゃんが翌日に海に潜る事になりました。

 ただ、この時、まだ知る由もありませんでした。


 何をかって?

 それは、精霊さん達のお話をこっそりと聞いていたハッカさんの計画である。


「ジャチュちゃん、待っててね~。お姉ちゃんが会いに行くよー」


 この日の夜、まだ日付が変わらない深夜に、ハッカさんがこっそりと小瓶の中に忍び込む。

 そう。

 ハッカさんは小瓶を見つけたラテちゃんとフォレちゃんを、プリュちゃんと一緒に呼びに来た時に、3人が隠れ家を出た後に小瓶の中に入れるか実験していたのだ。


 こうして、フォレちゃんとマモンちゃんは小瓶の中にハッカさんが忍び込んでいる事を知らずに、私の許へ向かうのでした。




【ジャスミンが教える幼不死マメ知識】

 精霊さん達の名前は大精霊がつけているんだけど、プリュちゃんの名前の意味は雨なんだって~。

 プリュちゃんは人間の子供みたいに雨の様に涙をいっぱい流して産まれたから、つけられた名前みたい。

 フォレちゃんは自分の分身で、木だと弱そうだから森の意味をこめて名前をつけたみたいだよ。

 そんな事を気にしちゃうなんて、なんだか可愛いよねぇ。

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