071 幼女もドン引くタオルの使い方
リリィと一緒に皆の所に戻ると、アマンダさんが顎に手を当てて深刻な顔で何かを考えていた。
ナオちゃんが私達に気がついて、リリィが担いで来たそれを見て首を傾げた。
「にゃー? リリ、そのブレードシャークどうしたんだにゃ?」
そう。
リリィは私を襲ったブレードシャークを担いで「今晩はフカヒレよ」なんて言って、持って来たのだ。
「さっき襲われたから今日のご飯のおかずにしてやるのよ」
「それは名案だにゃ!」
名案なんだ……。
「あれ? ご主人、目が赤いッスね?」
「がお」
「うん。大丈夫だよ」
うぅ……。
流石にブレードシャークに襲われて漏らしちゃったなんて言えないよぅ。
「幼女先輩から微かにおし――」
「わあああ! スミレちゃん! スミレちゃんはおトイレ行かなくて大丈夫!?」
「え? 大丈夫なのですよ」
あ、危なかったぁ。
スミレちゃんは嗅覚が凄いから、気をつけないとだよ。
「それより幼女先輩、漏らしちゃったなのですか?」
「え? ご主人それで目が赤かったんスか?」
もおーっ!
何で言っちゃうのー!?
涙目でスミレちゃんを睨む。
すると、それを見てトンちゃんが笑いを堪えだした。
「ご、ご主人ぷぷ。どんまいッス。ぷぷぷ」
「がお」
ラヴちゃんが眉根を下げて、私をいい子いい子と撫で始める。
うぅ、ラヴちゃんの優しさが心にしみるよぅ。
「ちょっとスミレ、アンタは少しデリカシーってものを持ちなさいよ」
リリィに叱られて、スミレちゃんが眉根を下げてシュンとなる。
その姿は、なんだかちょっと可愛いなと思ってしまう。
「ごめんなさいなのよ」
「謝るのは私じゃないでしょう?」
「幼女先輩ごめんなさいなのですよ」
「うん。いいよ。気にしないで」
スミレちゃんに微笑むと、スミレちゃんはパアッと晴れやかな笑顔になった。
でも、リリィがそんな事言ってくれるなんて思わなかったよ。
最近は変な事ばっかり言うんだもん。
さっきもタオルを渡してくれたし、やっぱりリリィは優しいなぁ。
「あ、それからスミレ、後でアンタにも良いものを貸してあげるわ」
良いもの?
「良いものなの?」
「ええ。さっきジャスミンから湧き出た聖水を拭き取ったタオルを保管して来たのよ」
「何してるの!?」
私は思わず大声を上げた。
本当に何してるのって感じだよ?
って言うか、そう言えばだけど私が漏らしてしまったおしっこを拭き取ったタオルを、リリィに渡した気がする。
だって、あの時は本当に……って、最早そんな事はどうでも良いのだ!
私のリリィへの感謝とか、もう何て言うか、とにかく色々なものを返してほしい。
「ジャスミン、気にしないで? 大丈夫、タオルを観賞用に使うだけだから」
「ホントにやめて!?」
全然大丈夫じゃないよ!
どんなハイレベルな変態プレイなのそれ!?
もう色々気持ち悪いって言うか、前世の私でもそんなのやらないよドン引きレベルだよ!
と言うか、リリィもデリカシー持って!?
「リリィ、いくら私でも、それはどうかと思うなのよ」
うんうん。と、スミレちゃんに同意して頷く。
「せめてタオルの匂いを嗅ぐくらいに、とどめておくなのよ」
「どっちもどっちだよ!」
もうやだこの変態2人ぃ……。
変態2人の言動にドッと疲れを感じて肩を落とす。
すると、話すタイミングを窺っていたのか、変態2人とは違って真剣な面持ちでアマンダさんが私に話しかける。
「ジャスミンお嬢様、ご確認させて頂きたい事がありますがよろしいですか?」
「え? うん」
少し緊張しながら返事をすると、アマンダさんは軽く頭を下げてから話を続ける。
「スミレ様や精霊様方ともお話をしたのですが、海猫が使ったという炎。それに疑問を抱かずにはいられません」
「そうなの?」
「はい。本来海猫は水の加護を受けている海の生物です。そして、加護を受けている者は、加護とは別の……他の属性の魔法を使う事が出来ません」
「あ、そっかぁ。私は風と土と水と火の、全部の加護を受けてるから使えるだけだもんね」
「仰る通りです。いったいどうやって海猫は炎を出したのでしょうか? 何かお気付きになられた事があれば、ご確認したいのですが……」
「うーん。特に気がついた事はないかなぁ……って、あ。スミレちゃんって今でも炎の魔法は使えるの?」
「もちろんなのですよ」
「そっかぁ」
じゃあ、ポセイドーンの加護は水の加護と違うって事だよね?
でも、流石に関係ないかなぁ?
「ねえ? スミレは理由を知らないの? つい最近までポセイドーンの仲間だったんでしょ?」
「知らないなのよ」
うーん……と、私は首を傾げて考える。
だけど、どれだけ考えても答えは見つからなかった。
それは皆も一緒で、この件は保留と言う事になった。
さて、それはそうと、リリィが早速ブレードシャークを解体すると言い出したので、私はポーチに入れている小瓶を取り出そうと手を伸ばす。
オぺ子ちゃんから貰ったこの何でも中に入る小瓶には、リリィの荷物も今は大事にいれているのだ。
「あれ?」
「どうしたッスか?」
「がお?」
「トンちゃん、ラヴちゃん、小瓶知らない? 色々物が入れられるやつ」
「え? 見てないッスね」
「がお? 見てない」
あれれ? おかしいなぁ。
たしかポーチの中に入れておいたと思ったんだけど……。
まさか、何処かに落としちゃったのかな?
「2人共いつから見てないかわかる?」
「覚えてないッスね」
「がお……。海……入った時、もう無かった」
「え?」
「あー、そう言えば無かったッスね。ボクとラーヴがポーチの中に入るから、ご主人が自分のポケットに小瓶を入れてくれたんだねって話してたんスよ」
「がお。ドーイと、ジャチュやちゃちいって話ちた」
「……あっ」
2人のおかげで思い出す。
そう。
あれは海に潜ろうとした時の事だ。
私は2人の為にポーチから小瓶を取り出して、着ていた服のポケットに入れて、そのまま水着に着替えてしまったのだ。
水着になっちゃったから置いてきたんだーっ!
私のバカーッ!
私はがっくりと項垂れる。
小瓶を取りに戻ろうかと言う考えが一瞬頭をよぎるけど、そんな事をしている暇はない。
この町に来るまで、それなりに時間はかかったし、残念ながら道を覚えていないのだ。
だって、海の中が綺麗で素敵だったから、目移りしすぎて覚えてないんだもん。
アマンダさんやナオちゃんに頼めば戻る事は出来るだろうけど、迷惑をかけたくないので、私は小瓶を諦める事にした。
もしかしたらリリィならとも思ったけど……。
「小瓶を置いて来ちゃったの? 仕方が無いわね。手刀で捌くわ」
と、こんな感じで、戻るって発想が出なかった様なので、取りに行きたいとは言わないでおいた。
だって、なんとなく言いだし辛いんだもん。
さっきお漏らししちゃったし、これ以上迷惑かけたくないんだもん。
ぐすん……。
そんなわけで私は仕方が無いと小瓶を諦める。
結局この日は、この後リリィがブレードシャークを使った料理を披露して、皆で美味しく食べました。
とはならず、ブレードシャークを海に逃がしてあげました。
何故かと言うと、ブレードシャークが目を覚まして、凄くウルウルとした瞳で私を見つめてきたからだ。
もう、凄く可哀想な感じがして、私は思わずリリィを止めて逃がしてあげてって頼んじゃった。
それで、リリィが苦笑して私の言う事を聞いてくれて、ブレードシャークを逃がしてあげたのだ。
良かったねブレちゃん。
などと私は気がついたらブレードシャークに名前をつけていて、ブレちゃんと涙のお別れをする。
そうして、今日という一日が終わりを迎えるのでした。




