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066 幼女の太ももをじっと見つめてはいけません

「え? ラヴちゃん、私が見た火が普通と違っていたって本当?」


「がお」


 ラヴちゃんが私の質問に頷き、いよいよ怪しくなってきた。

 火の精霊さんであるラヴちゃんが言うなら間違いないと、ここにいる皆はそれが解っている。


「でも、どうするんスか? ボク等の目的は、あくまでもずっと先にいる吸血女を助ける事ッスよ? ご主人の事だから首をつっこむつもりかもしれないッスけど、こんな所であぶらを売ってる場合じゃ無いッス」


「えへへ。ばれちゃった?」


 トンちゃんの言う通り、私は謎の火の出所を調べようかと考えていた。

 困っている人がいるなら、助けてあげたいと思ったのだ。

 だって、人気が無くて、怪しい火が上がっていたんだもん。

 絶対何かあるよね。


「良いじゃない。ジャスミンがそういう子だって、ドゥーウィンだって知っているでしょう?」


「まあ、そうッスよね。ハニーの言う通りッス」


「私はもちろん幼女先輩のお手伝いをするなのですよ」


「ありがとー、スミレちゃん」


 スミレちゃんと一緒に微笑み合う。

 するとそこに、アマンダさんが真剣な面持ちでやって来た。


「ジャスミン、それに他の皆も、暫らくの間は私の事をアマンダでは無くメレカと呼んでくれないかしら?」


「え? どうして?」


「ジャスミンも知っている通り、私はこの国の王女なのだけど、この町で私を知る人は皆メレカと呼んでいるの。理由は、私が王女と名乗らずこの町の人と接したから」


「メレカと名乗っていたからって、国の王女本人の顔を知らないなんて、普通に考えてありえなくないッスか?」


 トンちゃんの質問に、私もうんうんと首を縦に振って同意する。

 すると、ナオちゃんがニヤニヤと笑いながら、アマンダさんの代わりに答える。


「姉様は王女だけど、お飾り以下の存在だけの王女だにゃ。だから国の皆は、名前しか知らない人で殆どなんだにゃ」


 アマンダさんがナオちゃんを睨んで、ナオちゃんはイタズラっぽく笑う。


「それで? お飾り以下の存在だけってのは解ったけど、アマンダと言ってはいけない理由は?」


 あぁ、うん。

 確かにそうだよね。

 別に気にしなくて良いと思うけどなぁ。


「この国には、魚人は王族と同じ名前を使ってはいけないと言う、くだらない決まりがあるの」


「なるほどね。それでアマンダって呼ばれると、この国の人間のアンタはヤバいって事ね」


「そうなるわね」


 結構めんどくさい決まりがあるんだなぁ。


「もしかして、そのためのミドルネームッスか?」


「流石は精霊ね。その通りよ。王族のミドルネームはイニシャルで隠されて、ごく一部の人にしかわからない様になっていて、私の様に国の外を出歩く者はそれを使うの」


 成程だよぉ。

 でも、なんだか言われて納得だよね。


 私がようやく納得して理解すると、アマンダさんは微笑んでメイド服のスカートの裾を摘まんで少し持ち上げて、私達に向かってカーテシーの挨拶をした。


「暫らくの間、お嬢様方のお世話を担当させて頂くメイド、メレカ=スーと申します。メレカとお呼び下さい。よろしくお願い致します」


 きゃー!

 可愛いー!


 私はアマンダさんの本物を彷彿とさせるその身のこなしと言葉使いに大興奮。


「ええ、よろしくね。メレカ」


「メレカさん、よろしくなのよ」


「がお」


 あっ!

 興奮してる場合じゃないよ!

 私も挨拶しないと!


「よろしくね! メレカさん!」


「うふふ。はい。ジャスミンお嬢様」


 きゃー! きゃー! きゃー!

 メイドバージョンアマンダさん可愛いー!


「随分メイドになりきってるッスね。メレカって名乗っている時は、いつもそんな感じなんスか?」


「はい。仰る通りです」


「でも、姉様は私にはいつも通りで困るのにゃ」


「それはナオがいつまでたっても世話のかかる子供だからでしょう?」


「にゃ~。姉様はニャーに厳しすぎるのにゃ」


「はいはい」


 わぁ、なんだか、本当の姉妹みたい。

 何で姉様なんだろうって少し不思議だったけど、2人を見てると納得しちゃうよね。


「それではお嬢様方、本題に入らせて頂いてよろしいでしょうか?」


 アマンダさんの顔が、また真剣な面持ちへと変わる。

 私はその顔を見て、ここからがアマンダさんがメレカと呼んでほしいと頼んだ本当の理由だと感じ取った。


 アマンダさんは、私達が視線を向けて注目すると、こくりと頷き言葉を続ける。


「恐らくですが、この町は既にポセイドーンの配下の手の者に何らかの攻撃を受けています。その証拠に、若干ではありますがポセイドーンの配下の一人メールの魔力の残留が、この旅館だけでなく町のあちこちに微かに散らばっています。町から人の気配が殆どないのも、それが原因かと思われます」


 ポセイドーンの配下の一人のメールって、あの時レストランで会った巨乳で龍族のお姉さんだよね?

 じゃあ、この町の人達が消えたのって、そのお姉さんの仕業なんだ!?


 アマンダさんの説明を受けて、スミレちゃんが肩を落とす。


「メールさんなの? それは厄介なのよ……」


「どういう事よ?」


 リリィが顔を顰めてスミレちゃんに訊ねると、スミレちゃんはまるで死んだ魚の目の様な瞳で答える。


「メールさん、あの人は太ももマニアなのよ。理想の太ももを他人にも強要して、それを作り上げさせられるなの」


 え?

 何それ怖い。

 あ、ちょっと待って?

 もしかして、もしかするけど、ううん。

 私の直感よ! 外れて下さいー!


「やっぱりそうだったにゃ~。カウンターにこんなのが刺さってたにゃ」


 ナオちゃんが何かが書かれたカードを私達に見せる。

 するとそこには、私の予想通りの、とても酷い内容が書かれていた。

 そしてその内容を、リリィが若干棒読み気味で朗読する。


「はあ~い。旅館に泊まりに来た魚人のみなさんこんにちわ。旅館の従業員は全員まとめて私の別荘にご招待したわ。ごめんなさいね。美しい太ももの為に仕方が無いの。旅館は好きに使って良いわよ。メール」


 ……何だか凄くノリが軽いなぁ。

 って言うか、どうしよう?

 これ、放っておいて良いんじゃないかな?

 だって太ももだよ?

 もう、別に助けに行かなくても良いと思うの。

 普通じゃない炎のくだりは何だったのって感じだよ?


「許せないわね」


 え?

 リリィ?


「私のジャスミンを差し置いて太ももを語るなんて、万死に値するわ!」


 リリィが私の太ももに視線を向ける。


「その通りなのよ! リリィよく言ったなの! 確かに幼女先輩の太ももを知らずに偉そうだったなの!」


 スミレちゃんが私の太ももに視線を向ける。

 私は2人から太ももを見られ、思わず手で覆い隠す。隠しきれないけど。

 すると2人はお互いで目を合わせて、真剣な面持ちで頷き合った。


「殺るわよ! スミレ! ジャスミンの太ももこそ至高!」


「リリィ、勿論なのよ! 幼女先輩の太ももに乾杯なのよ!」


 えぇぇ……。

 意味わかんないよ。

 って言うか、最早何からつっこめば良いのかすらわかんないよ?


 リリィとスミレちゃんが闘志を燃やす。

 海の中だと言うのに、まるで目に見える炎がそこにあるかのように2人を包み込んでいた。

 そしてそれを見て、ナオちゃんが目を輝かせたかと思うと、2人の中に入って行って同じ様に闘志を燃やした。


 何だこれ?


「ジャスミンの太ももを見せつけてやるわよ!」


「「おおーっ!」」


 やめて?




【ジャスミンが教える幼不死マメ知識】

 海底の町リコーダーから出ている音符の形をした不思議な泡は、町に酸素を送る役割をしているんだよ。

 家をコーティングして空気を入れる為に必要で、それがあるかないかで大分住みやすさが変わるみたい。

 海底には幾つか同じ様な所があって、そこに魚人は町を作ってるみたいだよ。

 この泡自体は自然の加護が成す不思議な現象だから、すっごく貴重なものなんだって~。

 可愛い音符の形をした泡が、こんなに重要なものだなんて思わなかったよ。

 凄いねぇ。

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