065 幼女と始める海底の旅
リリィが作った美味しいお昼ご飯を食べながら私達は色々とお話をして、セレネちゃんを助ける救出組と幼児化してしまった人達をお世話する居残り組の二組に別れる事になった。
私を含めたセレネちゃん救出組は7人。
私、リリィ、トンちゃん、ラヴちゃん、スミレちゃん、アマンダさん、ナオちゃんの全部で7人だ。
そして、このアマンダさんの隠れ家に残って、幼児化した人達をお世話する居残り組は全部で4人。
一人目は、意外と凄く面倒見が良いマモンちゃん。
二人目は、海で子供達が溺れた時の為のプリュちゃん。
三人目は、何だかんだと面倒見が良いフォレちゃん。
そして最後の四人目は、海の中に潜るのが嫌なだけのラテちゃんだ。
そう。
実は連れ去られてしまったセレネちゃんの匂いは、海の中からするらしいのだ。
海の中から匂いってどういう事?
なんて私はつっこみません。
だっていつもの事なんだもん。
お昼ご飯を食べ終わり、一緒について行くとぐずるハッカさんをあやして水着に着替えて出発した。
私の水着は白のビキニ。
ちょっと大胆かなって思ったのだけど、幼児化する前のハッカさんがいつの間にか私の為に準備してくれていた様で、せっかくなので着る事にしたのだ。
ただ、一つ問題がある。
それは、何故か水中用に作られたガーターベルトとストッキングまで準備さていた事だ。
ビキニにガーターベルトってどうなの? とも思ったのだけど、せっかく私の為に用意してくれていたのだ。
私は悩んだ挙句、しっかりと着用する事にした。
リリィとスミレちゃんが大興奮して逃げ出したくなったけど、私は我慢する事にした。
だって幼児化したハッカさんが、これを私が身に着けた時に、凄く嬉しそうにして喜んでいたんだもん。
あの笑顔は裏切れないよ……。
リリィとスミレちゃんもビキニを着ていて、トンちゃんとラヴちゃんは可愛らしいワンピース型の水着を着用した。
驚いたのはアマンダさんとナオちゃんだ。
なんと、2人は着替えずに、そのまま海に入ると言い出したのだ。
ナオちゃんは元々乳ベルトと短パンだから、まあ、うん。わかる。
だけど、アマンダさんはメイド服。
絶対海の中で泳ぐような格好では無いのだ。
だけど、アマンダさんは着なれた服が一番良いと言って、本当にメイド姿のまま海の中に入ってしまった。
しかも泳ぐのが凄く速い。
そんなわけでやって来ました海の中。
私達7人は海に潜り泳いで進む。
トンちゃんとラブちゃんは泳げないので、私が腰に着けているポーチに酸素を生み出す植物を生やして、水が入り込まない様に魔法でポーチをコーティング。
2人は私のポーチの中に入ってもらい、必要な時だけプリュちゃんから借りたシュノーケルゴーグルで外に出る感じだ。
そして、スミレちゃんなのだけど……。
「スミレちゃんの髪の毛がしおしおだったのって、ポセイドーンの加護を受けたからなんだ?」
「そうなのです。ポセイドーンの加護を受けて、しっとりしなやかな髪の毛を手にいれたなのですよ」
しっとりしなやかって何?
「それで、そのポセイドーンの加護ってののおかげで、海の中でも自由に動けるのね」
「そうなのよ。これでリリィみたいに、海の中でも幼女先輩のお手伝いが出来るなのよ」
スミレちゃんが嬉しそうに話すと、私達のお話を聞いていたアマンダさんが眉根を下げ苦笑する。
「貴女達凄いわね。水中で会話する魚人以外の人なんて初めて見たわ」
アマンダさんの言葉に、横を泳ぐナオちゃんが首を縦に何度も振って同意する。
「ボクとしては、赤猫が長時間息継ぎしないで泳いでる事の方が凄いと思うッス」
確かに、と私はトンちゃんの言葉に首を縦に振る。
トンちゃんの言った通り、ナオちゃんはかれこれ2時間位は息継ぎをしていない。
海に潜る前、私が何か息継ぎできる道具を作ろうかと提案したら、5時間は息継ぎしなくても大丈夫と断られた。
まさか、本当に息継ぎがいらないなんて……って感じだ。
そうして暫らくの間進んで行き私達はアマンダさんの案内で、リコーダーと言う名の海底の町に立ち寄る事になった。
と言うのも、スミレちゃんが言うには、セレネちゃんが捕らわれている場所は凄く遠い所で、今日中に辿り着くのは間違いなく無理だという話だ。
だから、それならとアマンダさんが今日はそこで休もうと提案したのだ。
海底の町リコーダーは、皆さんご存知の楽器のリコーダーの事では決して無い。
私は海底の町リコーダーが見えてくると、その町の景色に心を躍らせた。
人が暮らす住宅街は、珊瑚を大きくしたような形をしていて、それが密集して楽器のリコーダーの様な景色を作っていた。
メロディーを奏でる為に指で押さえる穴の部分を示すかのように、それを連想させる位置からは、まるで水槽に置くエアポンプが吐き出す泡の様に泡が吹き出していた。
ちなみにその泡。
そう。
町から吹きだして、この私の頬を今くすぐっているこの泡です。
この泡の面白い所は、全て音符の形をしている所だ。
なんだか見ているだけで楽しくなって、踊りだしたくなる様な音符の中に包まれた私は、上機嫌になって鼻歌をする。
「ジャスミン、楽しそうね」
リリィが私の様子を見て柔らかな優しい笑みを浮かべた。
「うん」
私はリリィに返事をして鼻歌を続ける。
なんだか凄く楽しい。
リコーダーみたいに凄く細長い不思議な町に可愛い音符の形をした不思議な泡。
それに町とは別で、町の周囲には色鮮やかなお魚さん達が群れで泳ぐ姿もある。
その姿はとても綺麗で、まるで音符の泡に合わせて踊っているようだった。
そうして私は上機嫌のまま、海底の町リコーダーに到着した。
だけど、到着早々に不穏な空気に包まれてしまう。
町の中は閑散としていて、まるでゴーストタウンの様に人の気配が無かった。
「おかしいわね。普段は魚人達で賑やかなのだけど……」
町の様子を見て、アマンダさんが顔を顰めて顎に手を乗せる。
「ふーん。ま、とにかく、今日泊まるところを早く決めましょう?」
「賛成なのよ。今日はなんだか疲れたし、早めに休みたいなの」
「そうね。顔見知りがいる旅館があるから、そこに行く事にしましょう。ついて来て?」
「うん」
アマンダさんの案内で旅館に辿り着く。
だけど、そこはもぬけの殻だった。
人の気配が全く無くて、かと言って争ったような形跡もない。
「どういう事かしら?」
アマンダさんは顔を顰めて顎に手を乗せる。
と、そこで、ナオちゃんが何処かから金魚鉢の様な透明な入れ物を被って現れる。
「にゃ~。生き返るにゃ~。姉様、この町、殆ど人がいないみたいだにゃ」
「ええ。そのようね」
2人は真剣な面持ちでお話を始める。
私は私で、リリィとスミレちゃんと向かい合ってお話を始める。
と言うのも、実は少し気になった事があったのだ。
それは……。
「リリィ、スミレちゃん。さっきこの町に入る時に気になったんだけど、海の中なのに火を見たの」
そう。
実は、この海底の町リコーダーに降り立つ直前で、私は遠く離れた場所に火が上がるのを見たのだ。
最初は気のせいかなとも思って気にも留めなかったのだけど、町の様子がおかしいのを考えると、もしかしたら何かあるのかもしれない。
「あ、それなら私も見たなのですよ。でも、料理を作ってるだけじゃないなのですか?」
いやいや。
ここ海の中だよ?
料理で火なんて使えないよ。
「バカね~。水の中で火は上がらないから、ジャスミンが気になったんじゃない」
うんうん。と、私はリリィに力強く頷く。
すると、スミレちゃんが苦笑する。
「この町にかぎった事ではないけど、家の中に空気がいきわたっている家が結構あるなのよ」
え?
どういう事?
私が首を傾げ、スミレちゃんがそれを見て更に苦笑する。
「幼女先輩も知ってると思うなのですが、水中は浮力が働くなのです。だから基本的には浮力で日用品が浮かばない様に、家が特殊なコーティングをされていて、家の中は地上と同じ様に空気があるなのです。勿論、そうでは無い家庭もあるなのですが、それは珍しい方なのです」
そうだったんだ。
でも、何だか言われて納得だよ。
確かに水中だと物が浮かんで散らかっちゃいそうなんだもん。
「チュミ、ジャチュの言った炎はふちゅうと違ってた。わたちも見た。がお」
ラヴちゃんの言葉で、私達を取り巻く不穏は徐々に膨らんでいく。
それは、これから私達の身に起こる出来事を嘲笑うかのように、ゆっくりと忍び寄っていた。




