060 幼女を狙う新たな使者
海底国家バセットホルン。
国の殆どが海に覆われていて、その名の通り海の底で魚人達が暮らす南の国。
気候は暑く、一年中真夏の日本の様に暑い。
そして私達は、この物凄く暑い国の港町に来ていた。
丁度今はお昼の時間帯で、屋外に席があるレストランに来ている所である。
「あっづ~い」
セレネちゃんが、あまりの暑さに服を脱ぎ捨て、Tシャツと短パンだけの姿で席に着く。
「暑いね~」
私も苦笑しながら、羽織っていたカーディガンを脱いで、セレネちゃんの隣の席に座った。
と言っても、暑さに耐性のある私は、実際には全然暑くない。
ただ、だからと言って私が厚着をしていたら、見ている方が暑くなっちゃうと思って脱いだのだ。
さて、それはそれとして、今の私のファッションを説明しましょう。
パンツとガーターベルトとガーターストッキングは、最早いつものとなったお気に入りなので言うまでもない。
今の私は、スカート丈が短く袖の無い白のワンピースを着ていて、その上に赤いカーディガンを羽織っている。
だからカーディガンを脱ぐと、脇が見える。
突然何を言い出すのかと思うかもしれないけれど、つまり、こう言う事なのだ。
チラチラと私の脇を覗き見ながら、ハッカさんが頬を染めながら話す。
「ジャスミンちゃん。こんな所ではしたないわよ」
「チビッ子、こんな場所で半裸の痴幼女の実力を発揮しなくていいんだぞ」
ハッカさんに続く様に、レオさんが頬を染めながら話した。
私は2人とも脇が好きなんだなぁと思いながら苦笑する。
そんな時、リリィが余裕の笑みを見せて、突然椅子から降りてテーブルの下に潜る。
「リリィ、どうしたの? 何か落とした?」
私が訊ねると、リリィは顔を出して素敵な笑顔で答える。
「大丈夫よジャスミン。ジャスミンがパンツを穿いているか確認しただけだから」
「穿いてるよ! って言うか、何でそんな事確認する必要があるの!?」
「この暑さでしょう? パンツを脱いでるかもしれないじゃない。実際私は脱いだわ」
「ええーっ!?」
暑いからパンツ脱ぐって聞いた事ないよ!?
意味わかんないよ!
私が驚愕の事実に驚いていると、マモンちゃんがテーブルに頬を乗せて、もの凄く気だるそうにして呟く。
「リリィ=アイビ~、勝負だ~……」
え?
その状態で勝負挑んじゃうの?
凄く辛そうだよ?
「嫌よ。めんどくさい」
「今日の所は……見逃してやる……わ」
良かったねマモンちゃん。
勝負挑んだのはいいけど、暑さでそれどころじゃないもんね。
「そう言えばジャスミン、アプロディーテーから他の神達の事は聞き出せたの?」
「え?」
突然のリリィの質問に、私は首を傾げた。
すると、テーブルの上でメニュー表を広げて、デザートを見ていたトンちゃんが顔を上げて私を見る。
「そう言えばご主人、友達になる事と戦争に加担しないでってお願いするだけで、何も情報を聞き出してなかったッスね」
「え? マジ?」
トンちゃんの言葉を聞き、セレネちゃんが気だるそうにしながら私を見て顔を顰める。
私は冷や汗をかきながら、こくりと頷いた。
すると、ハッカさんが額の汗を拭いながら私に微笑む。
「心配しないで? 私も多少の情報を持ってるわ」
「ほう。では、その情報とやらを聞かせてもらうとするかのう」
フォレちゃんは、これがいいと言わんばかりの顔でメニュー表に載っていた桃のゼリーに指をさしてから、ハッカさんを見た。
ハッカさんは勝気に笑みを浮かべて答える。
「この国には神ポセイドーンが来ているんだけど、神アレースと何かを企んでいる様ね」
「げっ。マジ?」
ハッカさんの話を聞いて、セレネちゃんが顔を引きつらせて言葉を続ける。
「私アイツ苦手なんだよね~。やっぱりここは後回しにしない?」
「あら? いつもみたいにぶっ殺しに行くって言わないのね?」
セレネちゃんの意外な反応にリリィが驚いて訊ねると、セレネちゃんが本当に嫌そうに表情を歪ませて答える。
「ポセイドーンってマジでヤバいんだよね~。単純な実力だけで言えば、アレースより強いしさ~。ぶっちゃけリリィでも勝てないかもね~」
リリィでも勝てない!?
そんな人がこの世に存在するの!?
って、人じゃなくて神様かぁ。
「ジャスミンへの愛で私に勝てるとしたら、ジャスミンのご両親以外いないわ! あ、勘違いしないでねジャスミン。別に小父様と小母様に負けてるとは思っていないのよ? あくまでジャスミンへの愛で私と争えるのはって意味なのよ?」
「う、うん」
私は苦笑しながら頷いた。
って言うか、セレネちゃんが言いたいのはそう言う事じゃないよ?
なんか、セレネちゃんはああいうけど、リリィなら全然負ける気がしないよね。
むしろ神様がどれだけ強くても、余裕で勝っちゃいそう。
「皆何にするか決めたか?」
あ。
私決めてない。
レオさんが注文しようと店員さんを呼ぶ前に、私達に注文したいものを確認した。
私が慌ててメニューを見ると、レオさんが店員さんを呼んで来るから、その前に決めといてくれと席を立った。
ついうっかりお話に気を取られて、選ぶの忘れちゃってたよ。
えーと……何にしようかなぁ。
あ、サラダのパスタ美味しそう。
これにしようかなぁ。
と、私が注文を決めようとしたその時だ。
「きゃあああああーっ!」
突然店内から強く鈍い音や何かが引き裂かれる音、そして悲鳴が聞こえた。
それを聞いて、私とここにいる皆が驚いて店内に顔を向ける。
そして、店内から慌ただしく人が逃げる様にして出て来た。
「ジャスミン!」
「ご主人!」
「ジャス!」
「主様!」
「がお!」
「ジャスミン様!」
「うん! お姉ちゃんはセレネちゃんとマモンちゃんをお願い!」
「わかったわ!」
ハッカさんの返事を聞くと、私は精霊さん達を乗せて、急いでリリィと一緒にお店の中に入った。
お店の中に入って、私はその惨状に驚いて息を呑む。
そこ等中が荒らされていて、最早店内は原形を保ってはいなかった。
そして、所々に気を失って倒れている人達……幼い子供達の姿があった。
「チビッ子!? 早く逃げろ!」
お店の中に入って来た私を見て、レオさんが大声を上げる。
私はその声を聞いてレオさんに視線を向けて、レオさんの目の前に立っている人物を見て驚いた。
あれって、龍の角と尻尾?
もしかして、龍族?
そう。
私が見たのは、龍の角と尻尾を持つローブを身に纏った女の子だった。
年はだいたい13歳位に見えて、鋭くつり上がった目から見える瞳は、まるで猫ちゃんの様な瞳で眼球が細かった。
髪の色は綺麗な青色で、肩下位までの長さのセミロングで少しくせっ毛がある。
龍族、それは、この世界で最強の部類に入る種族だ。
とても珍しい種族なので、私は実際に会った事は今までないけど、それでも有名だから知っている。
私と龍族の女の子の目がかち合う。
龍族の女の子は嬉しそうに微笑むと、本当に楽しそうに笑顔を私に向けて話し出す。
「あっは~。ラッキー。あーしって運がいいかも。早速ポセイドーン様が言ってた抹殺対象の魔性の幼女を発見しちゃった」
ポセイドーン様!?
って言うか、またなの?
私ってば、また命狙われちゃってるのー!?




