058 幼女と勇者は和解する
アプロディーテーさん達との戦い? を終えて次の日の朝、私は精霊さん達と一緒に、ハープの都の出入口まで来ていた。
何をしに来たのかと言うと、フェルちゃんとオぺ子ちゃんとプルソンさんの3人とお別れしに来ているのだ。
オぺ子ちゃんとプルソンさんは、ドワーフの国に帰るフェルちゃんの護衛だ。
マモンちゃんは本当に私達について来てくれるようで、その準備をする為に今この場にはいない。
それで、リリィもマモンちゃんの手伝いをしている。
セレネちゃんはと言うと、特に思い入れも無いからと言って、アプロディーテーさんの所に遊びに行っていた。
「フェールちゃん、サガーチャちゃんによろしくね」
「ええ。サーチリングがスリーサイズしか見る事が出来ない事を、しっかり伝えておきますわ」
「う――え? あ、うん。あはは……」
って言うか、何でその事知ってるの?
私が困惑していると、トンちゃんが察してくれて耳元で囁く。
「昨晩フォレ様が話してたッス」
そうなんだ?
「ジャスミン、マモンちゃんの事よろしく頼むよ。あの子、目を離すと直ぐにいなくなって危なっかしいんだ」
「うん。任せてよ。オぺ子ちゃんも、フェルちゃんの事よろしくね」
「ああ。と言っても、僕に出来る事は少ないけどね。僕は戦えるわけでもないし……って、それより渡すものがあったんだ」
「渡すもの?」
私が首を傾げていると、オぺ子ちゃんが風邪薬とかが入っていそうな小さな小瓶を取り出した。
「ジャスミン少し前に誕生日だったでしょ? 遅くなっちゃったけど誕生日プレゼント」
「わぁ。ありがとー」
私はオぺ子ちゃんから小瓶を受け取り笑顔を向ける。
「うん。その小瓶は旅先で見つけたんだ。魔力をこめると、中に何でも収納出来ちゃうんだ」
「え? 凄い」
「でしょ? 僕も最初見た時はびっくりしたよ。実は集めた猫も、それと違うタイプの物の中に入ってもらってるんだよ」
「そうだったんだぁ」
言われてみれば、猫ちゃんを集めてるってわりには、全然猫ちゃんいないもんね。
全然気がつかなかったけど、言われて納得だよ。
私は関心してマジマジと小瓶を見つめる。
「吸血女の鞄みたいな感じッスね」
「この子瓶、割れたらどうなるです?」
「え? 割れたらか~。考えた事も無かったな」
ラテちゃんの質問にオぺ子ちゃんが首を傾げると、フォレちゃんが小瓶に近づき触れながら答える。
「多分ぢゃが、その心配はいらぬと思うぞ」
「そうなの?」
フォレちゃんに私が聞き返すと、フォレちゃんが微笑しながら答える。
「うむ。この子瓶からは、セレネやアプロディーテーから感じた神の力を感じる。よっぽどの事でもない限り、割れたりはせんであろう」
そっかぁ。
じゃあ、落としても平気だね!
無くさない様にだけ気をつけなきゃだよ。
「凄いね。ジャスミンの精霊って、そんな事も分かっちゃうんだ」
「フォレ様が特別凄いんだぞ」
「がお」
プリュちゃんがフォレちゃんを褒めてラヴちゃんが頷くと、フォレちゃんが得意気な顔をした。
話がきりの良い所まで来ると、プルソンさんがフェルちゃんとオぺ子ちゃんに話しかける。
「そろそろ行くわよ」
「わかりましたわ」
「はいっ」
私達はまた会おうねと約束して、大きく手を振って別れた。
それから直ぐに、私はセレネちゃんを迎えにアプロディーテーさんの所に向かう。
そうしてアプロディーテーさんの新しいお家兼お店に到着すると、そこは修羅場になっていた。
店の目の前にはハッカさんと自称勇者のレオがいて、何やら言い争いをしている。
「ハッカ! 頼む! 俺が悪かったから!」
「無理! レオ、貴方には失望したわ! 子供に、ジャスミンちゃんに手を上げるなんて信じられない! 本当に最低!」
「し、仕方が無かったんだ! 俺は勇者であのクソガ――こ、子供は敵なんだ! 戦うしかないだろ?」
「何が敵よ! ジャスミンちゃんは私達の事、アプロディーテー様の事を敵だなんて最初から思ってなかったのよ!」
……えーと、うん。
後で改めて来よう。
うん。
それが良いよね?
ハッカさんとレオの言い争いを見て私は回れ右をする。
だけど、それは悲しくも無駄になる。
「あっ、ジャスじゃ~ん。別れはすんだの~?」
セレネちゃんがお店から出て来て、声を上げて私に話しかけたのだ。
「うん」
私に話しかけて近づいて来たセレネちゃんに振り向き、私は返事をした。
するとハッカさんが私に気がついて、レオに向けていた嫌悪の表情を見事に払いのけて、とても優しい慈愛に満ちた微笑みを私に向けた。
「ジャスミンちゃん。おはよう。来てくれて嬉しいわ」
「う、うん。おはよー」
私が冷や汗をかきながら挨拶を返すと、レオが私を一瞥してからハッカさんの腕を掴む。
「なあ、頼むよ! 別れたくないんだ!」
お別れ?
「嫌よ。もう私のレオに対しての熱は冷めきってるの」
あぁ、うん。
そう言う事かぁ。
ホントに修羅場だよ……。
どうやら、この喧嘩はただの喧嘩では無いらしい。
私はようやく理解して、やっぱり出直したい気分になる。
ハッカさんがレオの手を強引に払って、レオはその反動で地面に尻餅をつく。
そして、ハッカさんが尻餅をついたレオを無視して、私に笑顔を見せる。
「待っててね。アプロディーテー様を呼んで来るから」
「え? うん」
私が返事をすると、ハッカさんは今にも泣きそうな顔をしたレオを無視して、お店の中に入って行った。
そして更には、何故かセレネちゃんまでお店の中に入って行く。
取り残された私とレオの目がかち合う。
私は困惑しながら苦笑して、精霊さん達が何か話してくれないかと期待した。
って、あれ?
トンちゃん達がいない!?
私は周囲を見回す。
すると、お店の窓の向こう、つまりお店の中でお菓子を食べながら談笑するトンちゃん達の姿を見つけた。
嘘でしょう!?
いつの間にそんな所に行ったの!?
私が驚いて見ていると、プリュちゃんとラヴちゃんが私が見ているのに気がついて、可愛らしい笑顔を私に向けて手を振った。
私は苦笑しながら手を振り返す。
すると、レオが私に話しかけてきた。
「惨めだと思ってんだろ?」
「ふぇ?」
うぅ。
いきなり話しかけられたから、変な声出ちゃったよ。
「笑えよ。どうせ滑稽だって心の中では笑ってんだろ!?」
私は少し考えてからしゃがんで、レオさんに話しかける。
「レオさんは勇者って皆から言われて、女神様のアプロディーテーさんからも期待されて、ずっと息が詰まってたんだよね。だから、いつもあんなにイライラしてたんでしょう? よく頑張ったね。もう、肩の力を抜いても良いんだよ」
もしかしたら、私の思い違いかもしれないし、そうだとしても何でお前にそんな事をって感じかもしれない。
だけど、私はそう言ってレオさんに優しく微笑んだ。
するとその時、レオさんの目から一粒の涙が零れて、レオさんは目をごしごしと腕で拭った。
「へっ。うっせーよ。お前みたいなお子様に、んな事言われたかねーよ」
「あはは。そうだよね」
そう言って私が苦笑すると、レオさんが笑顔を見せて言いました。
「ありがとよ。半裸の痴幼女さん。あと、お子様パンツが見えてるぜ」
その呼び方やめてって、え?
お子様パンツ?
私はしゃがんだまま下を向いて、顔を真っ赤に染め上がらせる。
「きゃあーっ!」
はい。
間違いなく痴幼女でした。
【ジャスミンが教える幼不死マメ知識】
私がフォレちゃんと建てた新しいマッサージ店は、3階建の木造建築で、1階のロビーには小さな待合室兼休憩所があるの。
レオさんが料理を作れるみたいだから、お食事も出来ると良いかもって思って、そこにお料理を出せる小さな売店も作ったんだ~。
トンちゃん達が早速そこで楽しくお菓子を食べてて、作ったかいがあったよぉ。




