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054 幼女はニッコリ笑って本気出す

 マッサージ店の店内は明かりもついておらず、音一つ無く静まりかえっていた。

 私とセレネちゃんは慎重に店内を歩き出す。


 うーん。

 やっぱり誰もいない。

 朝早いから当然だけど……。


「セレネちゃん。この時間だとやっぱり誰もいないから、出直した方が良いと思うの」


 私は念の為に声量を抑えてセレネちゃんに話しかけた。

 すると、セレネちゃんは真剣な面持ちで周囲を見回しながら答える。


「ジャスは気付かなかったの?」


「え? 何を?」


「昨日見た屋上の洗濯物の中に、下着と服が干してあったの。それって、ここに住んでるって事じゃん」


「おぉ」


 全然気づかなかったよ。

 真っ白なシーツとかは見たけど、そっかぁ。

 洗濯物の中に普通の服とかも混ざってたんだね。


「これでわかったっしょ? 寝ている所を襲って息の根を止めちゃおーってね~」


 だから息の根は止めないんだってば。


「主様、ドゥーウィンをポーチの中に入れてあげて欲しいんだぞ」


「え?」


 プリュちゃんに言われて肩の上に座っているトンちゃんを見ると、トンちゃんは座りながら眠っていた。


「プリュちゃん、教えてくれてありがとー」


 私はプリュちゃんにお礼を言って、トンちゃんをそっと優しく手で包んで、ポーチの中で眠るラヴちゃんの横でトンちゃんを寝かせてあげた。

 ポーチの中はトンちゃんとラヴちゃんで最早可愛い祭りだ。


「プリュちゃんは眠らなくて大丈夫?」


「アタシは大丈夫なんだぞ」


 私が訊ねると、プリュちゃんは笑顔を向けて答えた。


 プリュちゃんも朝から可愛いなぁ。


 プリュちゃんの頭をいい子いい子して撫でる。


「ジャスー。こっち早く~」


 気が付くとセレネちゃんが先に進んでいて、私に向かって声を上げた。

 そして、私が小走りでセレネちゃんに向かって行くと、セレネちゃんがニィッと笑って八重歯を見せる。


「ここにアプロディーテーがいるっぽい」


「え?」


 セレネちゃんが指をさし、私は驚いてその先を見た。

 するとその先には、個室用の扉があって、扉には張り紙が張られていた。


 えーと……。


 私は張り紙を確認して、書かれていた文字を見て困惑しながら音読する。


「美人マッサージ師ウェヌスのお部屋。夜這いする時は入る前にノックしないでね」


 何これ?

 どう見ても怪しいよ?


 私が文字を読み終わると、セレネちゃんがノックをせずに扉を開ける。

 すると、プリュちゃんがセレネちゃんに慌てて喋る。


「夜這いをしない時はノックしなきゃ駄目なんだぞ」


 プリュちゃん真面目可愛い!


「そんなんどーでもいいわよ。さーて、アプロディーテーの顔に落書きして、間抜けな顔にしてから息の根を止めてやるわよ~」


 落書きは必要なの?


 困惑しながら、私も個室に入って行ったセレネちゃんの後を追う。


「――え?」


 個室に入った瞬間だった。

 物凄く重い重力が私を襲い、私は勢いよく床に這いつくばる様にして倒れた。


 何これ?

 おっもいぃぃ。


 前を見ると、私より先に個室に入っていたセレネちゃんも、同じ様に倒れていた。


 突然の出来事に眠気も吹っ飛び、私は急いで魔法を使う。

 使うのは、この重力を相殺する為に魔法。

 私自身と精霊さん達、それとセレネちゃんに向けて、私は重力の魔法を使って重力を相殺した。


「ほう。儂の魔法を無効化するとは、流石は噂に名高いパンツの幼女と言った所か」


 そう言って私達の目の前に姿を現したのは、大精霊のノームさんだった。

 でも、そこにいるのはノームさんだけじゃない。

 ノームさんの背後には女神アプロディーテーさんと自称勇者レオ、そして、フェルちゃんがいた。


 私はごくりと唾を飲み込んだ。

 勿論緊張してでは無い。


 待って?

 パンツの幼女って何?

 そのあだ名初耳って言うか、そんな呼ばれ方で噂に名高くならないでほしいのだけど?


「主様、魔法が効きすぎて、パンツが丸見えになってるんだぞ」


「え? ――きゃあっ!」


 はい。

 相殺するつもりが、何故かスカートだけそれ以上の効果を発揮して、豪快に捲れてパンツが丸見えでした。


 私は顔を赤色に染めながらも、逃げ出したくなる気持ちをグッと堪えて、アプロディーテーさんに視線を向けて目がかち合う。


「アプロディーテーさん、私はアプロディーテーさんとお友達になりに来たの!」


 真剣な眼差しを向けてアプロディーテーを見つめる私の視線を遮る様に、自称勇者のレオがアプロディーテーさんの前に立った。


「友達だあ? なめてんのかクソガキ! てめえみてえなガキが友達になんてなれるわけねーだろが! まんまと罠に自分から引っ掛かる様なクソガキとよ!」


 うぅ。

 この人怖い。

 って、罠?

 さっきの重力の魔法のこ――っ!?


 その時、私は罠の意味を知る。


「きゃーっ!」


 原因は不明だが、私の着ているお洋服がボロボロと燃えカスの様に炭になりながら床に落ちている。

 しかもそれは、私だけでは無くセレネちゃんのお洋服もだ。


 何これ!?

 どうなってるの!?


 私は咄嗟に胸を腕で隠して顔を真っ赤にさせて涙目になる。


「アタシの水着は大丈夫だぞ」


 本当だ。

 プリュちゃんの、ううん。

 精霊さん達のお洋服とかは大丈夫みたい。


「はっはっはっはっ。それはこの店の防犯対策、俺の二つ目の能力の【営業時間外衣類炭化】の能力だ! この能力の餌食になれば、その時着ている物が全て炭になり、誰もが恥ずかしさのあまり身動きがとれなくなるのだ!」


 何そのおバカだけど何気にエグい能力!? 

 って、あ!

 そっか!

 だからお店のドアが開いてたんだ!

 よく考えてみたら、開店前にお店が開いてるなんておかしいもんね。

 うぅ、もうやだぁ。


 私が真相を知って凹んでいると、セレネちゃんが恥ずかしげもなく堂々とした立ち振る舞いでレオに指をさす。


「私の裸を見たからには観覧料をせーきゅーするわ!」


 そこ!?


「ふん。ガキの裸なんて見てもつまんねーだけだぜ。そんなもんに価値はねえ」


 前世ロリコンだったから言わせてもらうけど、十分価値があります!


「へ~」


 セレネちゃんがニィッと笑って八重歯を見せる。

 そして、悪魔の幼女の姿から、大人の魅力全開な神様へと姿を変えた。


 瞬間、自称勇者レオ坊やは大きく目を見開き驚いて、顔を真っ赤にさせて昏倒した。


ー。マジウケるんですけど。何こいつチョロすぎじゃね?」


 セレネちゃんが私に振り返りながらレオに指をさす。

 私は冷や汗をかきながらセレネちゃんに近づいて、貧相な私の胸を守っていた私の両手を使って、セレネちゃんの弾力と柔らかさ抜群の豊満な胸を隠す。

 と言うか身長差があるので隠すのが大変だ。


「成程。か弱き少女を相手にするのは、儂としては気が進まんかった。だが、相手がおっぱいのデカい女子おなごであれば話は別だ。どれ、儂が相手をしようぞ!」


 大精霊ノームと言う名のエロ爺が鼻の下を伸ばして前に出る。

 私はニッコリ笑って無詠唱でエロ爺に重力の魔法を使う。


「ぐおおおおおおおおおおっっ!? なんと言う事だ!? この儂が同じ地の属性の魔法で圧倒されているだと!?」


 エロ爺は私が作りだした重力と重力に囲まれた空間で身動きとれなくなる。

 私が使った魔法を分かりやすく説明すると、前後左右から上下までの、全ての角度から強力な重力で対象を押し潰す感じの魔法だ。


「あ、主様凄いんだぞ!? 大精霊様が同属性の魔法で負けてる姿なんて初めて見たんだぞ!?」


「そうなの? でもアレはただのエロ爺だから、きっと同姓同名で見た目も同じ姿の別人だよ」


 プリュちゃんが可愛らしいお顔を真っ青にして怯えていたので、セレネちゃんの胸を両手で絶賛お守り中の私は怯えるプリュちゃんの頭を撫でてあげられないので、とびっきりの笑顔を向けて話した。

 すると、プリュちゃんは更に顔を真っ青にさせて黙って頷いた。




【ジャスミンが教える幼不死マメ知識】

 自称勇者レオの能力の一つ営業時間外衣類炭化の能力は、お店の営業時間外に自ら足を踏み入れた部外者にだけ効果があるみたいだよ。

 だからプリュちゃん達精霊さんは、私が連れて来ただけって事で対象外になったんだね。

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