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053 幼女も眠気には勝てません

 宿で騒動があった次の日。

 夜が明けて朝日が昇る頃に私は宿を出た。

 足取りは軽く、気持ちの良い朝日の下を颯爽と歩く……なんて事は無い。

 足取りは重く、重い体に鞭打つ気分でトボトボ歩いていた。


 眠い……。


 これには理由があるのだけど、まずは思い出してほしい。

 昨日の宿の騒動と言えば、本当に捕まっていたのか疑いたくなる程に、ラテちゃんは無事で傷一つなかった。

 そしてそのラテちゃんは、他の精霊さん達を巻き込んで、昨日は夜遅くまでゲームをしていたのだ。

 これはドハマりしてしまうのではと私は思っていたのだけど、深夜の日付が変わる頃に「飽きたです」と言って、一番最初に眠ってしまった。

 ラテちゃんにずっと付き合わされていた他の皆もゲームにすっかり飽きてしまい、迷惑をかけた迷惑料だと言って、宿の店主を叩き起こしてゲームを渡していた。

 そんなわけで、今日は皆ゲームのせいで寝不足なのだ。

 色々と問題だらけな行動をしている様な気もするけど、寝不足なので仕方が無い。

 眠いとまともな判断できなくなっちゃうもんね。


 私は昨日の事を思い出してトボトボと歩く。

 そして、思い出しながら、今日しなければならない事を頭の中で整理した。


 今日は今日で結構大変だ。

 フェールちゃんと大精霊ノームさんを救出しなければならないし、ヤバい思想の持ち主のアプロディーテーさんを友達にしなければならないのだ。

 そして、全部終わらせたら、海猫ちゃん達に会いに行くのだ……あ。

 スミレちゃんを捜しに行くのだ!


「主様、元気が無いんだぞ?」


「がお」


 考え事をしながらトボトボと歩く私の顔を見て、腕にしがみつくプリュちゃんと、ポーチの中から顔を覗かせるラヴちゃんが眉根を下げる。


「ううん。そんな事ないよ。元気元気!」


 大事なお友達の事を忘れて海猫ちゃんの事を考えていたなんて決して言える筈も無く、私は2人に笑顔を向ける。

 すると、それを見ていたセレネちゃんが、ジト目で私を見ながら口を開いた。


「ジャス、元気なのはいーんだけどさ。ちゃんとはんせーしてんの?」


「う、うん」


 私は返事をして苦笑した。


 実は昨日、私は寝る前に捕らえていたエレキさんを解放してあげたのだ。

 フォレちゃんは反対したけど、頑張ってお願いしたら「仕方が無いのう」と言って、私のお願いを聞いてくれた。


 だけど、問題はセレネちゃんだった。

 セレネちゃんはゲームをせず、先に可愛い顔で眠ってしまったので、この事を知らなかったのだ。

 寝ているセレネちゃんの可愛い頬っぺたを、プニプニと突いて堪能したけど反応が無かったから間違いなく眠ってた。

 思い出したらまた突きたくなったけれど、私は我慢する。


 何故なら、今はそんな事をしている場合では無いからだ。

 そう。

 マッサージ店に行って、アプロディーテーさんとお友達になる為に、プニプニを堪能している場合では無いのだ。


 でも、ちょっとだけなら……。


 私が欲望に負けて、セレネちゃんの可愛らしい頬っぺたを突こうとしたその時、トンちゃんがあくびをしてから私に話しかける。


「結局ハニーは戻って来なかったッスね」


「え? あ、うん。でも、フォレちゃんが呼んで来るって言って、迎えに行ってくれたから大丈夫だよ」


「違うです。正確には、ジャスの新しい靴下を持って来る。です」


「フォレ様凄い張り切ってたッスね」


「あはは。そうだね。何であんなに張り切ってたんだろう?」


 思ったまま疑問を口に出すと、セレネちゃんがラテちゃんと一緒にあくびをしてから、眠そうに目を擦りながら喋る。


「そんなのどーでもいーし、それよりも今はアプロディーテーよ」


「でも、こんな時間にお邪魔して大丈夫かなぁ?」


 夜が明けたばかりなので、まだお休み中な可能性が高かった。

 と言うか、セレネちゃんに叩き起こされなければ、今頃私もお布団の中だ。


「大丈夫じゃなくていーの。寝ぼけてる所を襲うのが効率いーんだって~」


「考える事が姑息ッスね」


「勝てばいーのよ勝てば。寝てる方が悪いのよ~」


 セレネちゃんはそう言って、足の速度を速める。

 私は足の速度を速めて前に出たセレネちゃんの後ろ姿を見て、お洋服の前と後ろが逆になっている事に気がついた。


 か、可愛い。

 セレネちゃん可愛すぎだよ!

 さっきも眠そうにしてたし、口ではあんな事言ってるけど、すっごい眠いの我慢してるのかも。


 セレネちゃんの後姿を見て微笑んでいると、ラテちゃんが眠気眼で私の頭をペチリと叩いた。


「ジャス、ラテは限界なので寝るです」


「あ、うん」


「主様、ラーヴもいつの間にか眠ってるんだぞ」


 本当だ。

 凄く可愛い寝顔でスヤスヤだよ。


 ラヴちゃんの可愛い寝顔と前後逆にお洋服を着るセレネちゃんを交互に見て、私はこくりと静かに頷いた。


 なんだか、興奮してきて目が覚めてきたよ!

 何なのこの可愛らしい2人は!


 そして、その時、私は思いついてしまった。


 そうだ!

 私の魔法を使って鏡を作りだして、それを使ってラテちゃんの寝顔を見れば、もう最強だよね!?


「ついたわね。じゃ、乗り込むわよー!」


 興奮してと言うより寝不足で逆にハイテンションになった私は、セレネちゃんの声を聞いてハッとなる。

 思いついたままに、早速魔法を使おうと思ったのだけど、それは叶わぬ夢でした。

 無情にもマッサージ店に到着してしまった為に、私はラテちゃんの寝顔を見るのを諦めた。


「何で残念そーな顔してんの?」


 セレナちゃんが私を見て顔を顰めた。

 私は冷や汗をかきながら苦笑する。


「あはは。そんな事ないよ」


「ふーん。ま、どーでもいーけどね。それより、さっさと行こーよ」


「うん」


 私はセレネちゃんと一緒にマッサージ店に侵入した。

 何故か普通にお店のドアから……。


 本当に朝日が昇ったばかりの早朝で、本来ならお店が開いてない時間帯。

 そんなの、どう考えてもお店が開いていたらおかしいと分かる事なのに、この時の私達はそれに気がつかなかった。

 それは何故か?

 答えは簡単。


 夜更かしからの早起きしすぎで、皆眠いからだ。


 こうして、私達とアプロディーテーさんの最終決戦? が始まろうとしていたのだった。


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