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051 幼女を個室に連れ込んではいけません

 大変な事になってしまった。


 宿屋で騒動を起こした私、と言うかセレネちゃんに代わって私が謝罪したのだけど、私だけ関係者以外立ち入り禁止のスタッフルームに連れて来られてしまった。

 そして、小太りなおじさん、宿の店主さんに私は今脅迫されている。


「いいんだよ? お嬢ちゃんが俺の言う事を聞き入れないってんなら、君達を犯罪者として国に引き渡すだけだから」


 私は店主さんの言葉を黙って聞き続ける。


「黙ってちゃ何も解決しないよ? ほら、言う事聞くだけで、全部なかった事にしてあげるんだから、悪い話じゃないでしょ?」


「でも……」


「でも?」


 私は店主さんから目を逸らしながら、ギュッと手を胸に当てて答える。


「脇のにおいを嗅がれるなんて、凄く嫌なんだもん」


 はい。

 本当にもう何て言うか、どうにかして下さい。

 私の、出会った人物の変態願望を解放させる能力のせいなのかどうかは分からないけれど、本気で気持ち悪いからやめて頂きたい。


「脇の匂いを嗅がせてくれるだけでいいんだよ。それだけで、全部なかった事に出来るんだ。何がそんなに嫌なんだ?」


 何がと言われましても……。


 私が困惑しながらドン引きしていると、トンちゃんから加護の通信が入る。


『ご主人、このゲームとかいうの面白いッスね。ラテがボク達が来た事に気付かなかった位に夢中になってたのもわかるッス』


『ぴこぴこー』


『主様、凄いんだぞ! エレキさんの能力の【雷電】と【ゲーム機召喚】の相性がバッチリなんだぞ!』


『成程のう。こ奴が召喚したゲーム機を、能力で充電して遊ぶのか。中々上手い事を考えたものぢゃ』


 皆楽しそうだね?

 って言うか、雷使いのお姉さんって、エレキさんって名前なんだね。


『ふっふっふっ。ラテのハイスコアを超えられると思うなです』


『がおー!』


『あっ、ラーヴが超えたッス』


『凄いんだぞ!』


『そんなバカなです!』


 本当に皆楽しそうだね?


「どうしたんだいお嬢ちゃん? さっきから黙って顔の表情を色々と変えているようだけど?」


 店主さんの顔が私の顔に近づく。


 ひぃっ!

 近い近い!

 離れてーっ!


 私は両手を肩の位置まで上げて苦笑いをして後退る。

 しかし、残念ながら行き止まりの様だ。

 私は扉にぶつかって、逃げ道を無くしてしまった。


 ほ、本当にどうしよう?

 元々は私達が宿をめちゃくちゃにしちゃったせいなわけだし、店主さんに魔法を使うわけにもいかないもんね。

 でもこのままだと、事案一直線だよぅ。


 私は店主さんに追い詰められて、本気で打つ手がないか考え出す。

 するとその時、私の背後の扉から、扉を軽く叩くノックの音が聞こえてきた。


「む? 良い所で……仕方が無い」


 店主さんは呟くと、残念そうに首を横に振って、扉の向こう側に聞こえる様に声を出す。


「どうぞ」


「失礼するわね」


 あれ?

 この声。


 私は背後へ振り向く。

 扉が開かれ、外にいた人物がスタッフルームに入って来た。


「あら? ジャスミンちゃんじゃないの」


「オネエさん!」


 スタッフルームに入って来たのはプルソンさんだった。

 それと、プルソンさんの背後にはオぺ子ちゃんの姿もあった。


「オぺ子ちゃんも……」


「あれ? ジャスミンも店主さんに用事?」


「え? う、うん。色々あって……」


「色々?」


 私の言葉で首を傾げたオぺ子ちゃんを見て、私は苦笑する。


「これはこれはプルソン様、どの様なご用件でしょうか?」


 店主さんが突然態度を急変させて、もの凄く腰を低くしてプルソンさんに営業スマイルを送る。


 あれ?

 この二人、どういう関係なんだろう?


「何か騒ぎがあったようだから、様子を見に来てあげたのよ」


「御心配には及びません。今こうして騒ぎの主犯を捕まえて、責任を取らせていた所です」


「主犯? もしかして、その主犯って、この子の事?」


 プルソンさんが店主さんに質問しながら私の背中に触れる。

 店主さんはそれを見て、営業スマイルのまま頷いた。


「その通りでございます。そのお嬢さんが主犯です」


「そう。それで、こんな小さな子に、どう責任を取らせるつもりだったのかしら?」


「そ、それは……」


 店主さんが言葉を詰まらせる。


 流石に言えないよね。

 女の子の脇のにおいを嗅ごうと思ってましたなんて。


「どうしたの? 言いなさい。これは命令よ」


「……はい。脇の匂いを嗅ぐふりをして、脇を舐め回すつもりでした」


 ひぃっ!

 そんな事考えてたの!?

 ヤバすぎるよ!


「うわ~。ジャスミン、危なかったね」


 私とオぺ子ちゃんがドン引きしていると、プルソンさんが店主さんの頭を片手で掴み持ち上げる。


 店主さんはプルソンさんの腕を掴んで、必死に抵抗を始めた。

 だけど、流石は筋肉ムキムキなプルソンさん。

 店主さんの抵抗にビクともしない。


「忘れたの? この子は、私の大事な客人よ。この宿を紹介してあげた時に貴方に言ったわよね?」


「も、勿論でございます! 忘れてなどいません!」


「なら、何で手を出そうと考えたの?」


「ほんの出来心です! あわよくば朝チュンコースだぜひゃっほい! なんて全然考えていません!」


「考えてたんじゃない!」


「ぎゃあああぁぁぁーっ!」


 ……うん。

 オネエさんが来てくれなかったら、私の貞操がヤバかったよ。


 店主さんは叫んだ後に気絶して、プルソンさんが店主さんを放り投げる。

 それを私と一緒に見ていたオぺ子ちゃんが、苦笑しながら私に視線を移す。


「ジャスミン、外で起きていた騒ぎの主犯って本当なの?」


「ううん。主犯は……と言うか、私は命を狙われた被害者だよ」


「え!? また命を狙われてるの!?」


「あはは……」


「スミレさんが聞いたら飛んで来そうだなぁ」


「スミレちゃん?」


 スミレちゃんの名前を聞くのは今日で2回目。

 不老不死になる前に、一緒に冒険をしたお友達だ。

 私はスミレちゃんの名前を聞いて、何だか無性に会いたくなった。


「そう言えば、スミレちゃんって今は何処にいるの?」


「ん~……確か、今は南の国だよ」


「南の国?」


 私が首を傾げて聞き返すと、今度はプルソンさんが答える。


「そうね。南の国の海中に生息する海猫うみねこを捜しに行ったのよ」


 海猫!?

 何それ見たい!

 私も海猫さんに会いたい!


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