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049 幼女の気持ちは伝わり辛い

 嬉しい!

 リリィ大好き!


 私は大粒の涙を流しながら喜んだ。

 リリィは私のピンチをきっかけにして、記憶を取り戻してくれたのだ。

 パンケーキや他の事では記憶を全く思い出す様子が無かったリリィが、私を助ける為に思い出してくれるなんて、これ程嬉しい事は無い。


「リリィッリリィッ!」


「もう、ジャスミンったら、しょうがないわね」


 リリィが私を優しく抱きしめて、頭を優しく撫でてくれた。

 それがとても心地よくて、私のリリィを抱きしめる力が増していく。


 だけど、それも束の間の事でした。

 はい。


「ジャスミンがスカートを捲られる時の必死に嫌がる真っ赤な顔と、時折見える真っ白なパンツは、私とジャスミン二人の大切なものだもの。他の誰かなんかに渡さないわ」


 え?

 リリィ?

 今何て言った?


 私の溢れ出る涙は急ブレーキして止まる。


 い、いやいやいや。

 落ち着いて私。

 うん。

 そうだよ。

 きっと聞き間違いだもん。

 しっかり確認しなきゃダメダメ。


「リリィ、私がスカーっど!?」


 私が確認する為に質問しようとリリィの顔を見上げると、リリィの鼻から鼻血が流れ出す。


「記憶を無くしていたからかしら? 何だか、ジャスミンのあの顔と、時折見える懐かしいパンツのデザインを思い出しただけで興奮して来たわ」


 リリィ、私の感動を返して?


 私はガッカリと肩を落としながら、スカートのポケットからティッシュを取り出して、リリィの鼻血を拭いてあげる。

 最早涙など流れる気配はない。

 私の瞳は砂漠の様に絶賛干上がり中だ。


「ねえ、リリィ?」


「何かしら?」


「聞きたいんだけど、何で記憶を無くしちゃったのかわかる?」


 私はずっと気になっていたのだ。

 思い出してみても不思議な事なのだけど、間違いなくきっかけは私の口から出た「結婚しない。恋愛対象じゃない」という言葉だ。

 でも、私がリリィと結婚しないなんて、いつも言ってる事なのだ。

 恋愛対象の方も、結婚しないという発言と大して変わらないと思う。

 正直今更それが記憶を無くす理由になるとは、私にはどうしても思えなかった。


「そうね。私にもよくわからないのだけれど、もしかしたら、怒濤のジャスミンからの拒絶に私の心がショックを受けたから、ジャスミンの言葉を忘れようとして失敗したのよ」


「そっかぁ……」


 うーん。

 何て言うか、うん。

 色々言いたい事はあるけど、結局は私のせいだもんね。


「ごめんねリリィ」


「良いのよ。気にしないで」


「いや馬鹿っしょ、アンタ達。どー考えてもジャスに落ち度ないじゃん」


 そうかなぁ?

 私も酷い事言ったのは本当だもん。


「微妙なラインッスね。気持ちを知った上で振り回すご主人が悪いとも言えるッス」


 うぅ。

 それを言われると心が痛いよ。


「主様、いつも嫌がって楽しんでるんだぞ?」


 待って? プリュちゃん。

 楽しんではいないよ?


「ジャチュ、たのちとう」


 え?

 本当にそう見えるの?


「皆好き勝手申すな」


 フォレちゃん、ありがとー。

 でも庇ってくれなくていいんだよ。

 私にだって、悪い所はあったんだもん。


「ジャスミン様ならば、何をやっても許される。ジャスミン様が正義でその他が悪ぢゃ」


 全然違った!

 って言うか、それは絶対にないし、考え方が怖いからやめて?


「ねー、そんな事より、さっさと行こーよ。私もー今日は疲れたから、宿に戻ってゆっくりしたいんだけどな~」


「あ、うん。そうだね」


 セレネちゃんの言葉に私が答えると、それを聞いたハッカさんが、私に持っていた荷物を差し出す。


「これ、さっき渡したパンツと同じ物が中に入ってて、ジャスミンちゃんに渡そうと思って持って来たの。良かったら使って?」


「え? いいの?」


「勿論よ」


「ありがとー!」


 私は差し出された荷物を受け取り、その時思いつく。


「ハッカさん、サウナの我慢大会で手に入れた牛乳があるから、パンツのお返しにあげるよ」


 元々は精霊さん達を代表して、プリュちゃんが私の為に手に入れようとしてくれた物だから良くないかなとも思ったのだけど、そこはしっかり謝ってパンケーキをご馳走しようと私は思いつく。

 精霊さん達は優しいから、きっと許してくれると甘える事にした。


 私が笑顔を向けて言うと、突然ハッカさんの目の色が変わる。


「い、良いの!?」


「え?」


「ここの優勝賞品で、豊胸牛乳ってあったでしょ? これを飲めば胸が大きくなるの! 凄く効果があるって有名なのよ!」


 そ、そうなんだ?


「ありがとうジャスミンちゃん! お礼に、ジャスミンちゃんが着けているガーターベルトにお似合いのガーターストッキングを、明日の朝までに仕上げてくるわ!」


「え!? い、いいよそんなの!」


「いいえ良くないわよジャスミン!」


「リリィ!?」


 リリィがハッカさんの目の前に立ち、2人の目がかち合う。

 そして何故か2人は頷き合い、ガシッと熱い握手を交わした。


 え? 何これ?

 何が起きているの?


 リリィはハッカさんとの熱い握手を終えると、私に振り向いて真剣な面持ちで話し出す。


「私は今、もの凄く反省しているの」


 え? 何を?


「何の知識も持たずに、ガーターベルトのエッチな雰囲気に魅せられて手を出して、ジャスミンにストッキングを一緒に渡さなかった事を後悔しているわ」


 あ、なんだ。

 そんなの、気にしなくていいのに。


「そして私は気がついたのよ」


 うん?


「私が記憶を無くしてしまった時のジャスミンは、まぎれも無くあと一押しで落ちるという事に!」


 ……落ちないよ?

 それに、そう言う事は口に出さないで?

 って言うか、それ、ガーターベルトの流れ関係ないよ?


「ジャスミン、ジャスミンは恥ずかしがり屋だから、本当の気持ちをいつも隠しているのに、私ったら表面上の言葉だけを気にしすぎていたのよ」


 リリィが凄く優しい微笑みを私に見せる。

 私も、リリィの微笑みを見て、一緒に微笑みながら思う。


 表面上も何も、私はいつもリリィには本音でお話してるよ?


「ごめんなさい、ジャスミン。ジャスミンの気持ちに私は全然気づいてなかったわ! だから、今からハッカと一緒にガーターベルト用のストッキングを作るのを、手伝って来るわ!」


 あ、はい。


「私もジャスミンちゃんの姉として、リリィちゃんに協力するわ!」


 え!?

 いつから私のお姉さんになったの!?


 リリィとハッカさんは、再び熱い握手を交わして、颯爽さっそうと何処かへ去って行きました。

 私は2人を呆然と見送り、牛乳各種詰め合わせセットを見る。


 あ、ちゃんと豊胸牛乳が無くなってる……。




【ジャスミンが教える幼不死マメ知識】

 リリィってば、記憶を無くしていた時の事は覚えてるみたいだよ。

 だから、マッサージのお店で私のお尻を触りまくってたヒートさんを、本気で凄く敵視してるみたい。

 うーん。頼もしい。

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