048 幼女が嫌がる能力覚醒
ラテちゃんとの通信も終わり、次は宿屋に戻ろうと考えながら、私はお着替えを再開する。
お着替えを再開した私が、ニーソにベルトを着けていると、ハッカさんが私のニーソに注目する。
「よし、決めた。ジャスミンちゃん、ハープに滞在するのはいつまでの予定なの?」
「え?」
私はスカートを穿きながら考える。
そう言えば、ハープの都に来たのって、自称勇者から家畜を返してもらいに来たんだよね。
何だか色々ありすぎて、すっかり忘れちゃってたけど。
って言うか、ラヴちゃんから聞いたお話だと、自称勇者が既に食料として使っちゃってるみたいだし、うーん……どうしよう?
「アプロディーテーを殺したら出てくに決まってんじゃん」
セレネちゃん!?
私のポーチを腰に着ける手がピタリと止まる。
「アプロディーテー様を殺す? え? でも、そんな。本当だったの?」
ハッカさんが眉根を下げてセレネちゃんに視線を向ける。
「そーよ。あっちだってジャスの命を狙ってんのよ? そんな奴を放っておくなんて出来ないっしょ」
「そんな……」
「待ってよセレネちゃん! 何度も言うけど、私はアプロディーテーさんとお友達になるの!」
「え? お友達?」
ハッカさんが今度は驚いて、目をパチクリとさせて私を見た。
「そうだよ! お友達! お友達になれば、殺し合いとか、そんな事しなくていいんだもん!」
私が必死に大声を上げると、ハッカさんが私に微笑んだ。
「そっか。ジャスミンちゃんは、やっぱり良い子なんだね」
ハッカさんが嬉しそうに笑顔を向けて、私の頭を撫でる。
するとその時、ズカズカと音をたてながら、ヒートさんが目の前に現れた。
しかも全裸で。
私もここにいる皆も、突然全裸で現れた露出魔の変態ヒートさんに注目する。
ヒートさんは鼻息を荒げながら、私の腰から下を見て舌なめずりをした。
な、何事!?
私が体をビクリと震わせて後退ると、ヒートさんが鼻息を大きく吐き出した。
「聞いたわよジャスミンちゃん。アプロディーテー様のお友達になりたいんですってね?」
「う、うん」
「ヒートさん、服を着て下さい! それに、ジャスミンちゃんが怖がっています。落ち着いて下さい!」
ハッカさんが私の前に出て、ヒートさんを諌める。
「あ~ら、誰かと思ったらハッカじゃない。レオの腰巾着が、偉そうに私に指図するんじゃないわよ」
「レオは関係ないじゃないですか!」
「そうかしら? アプロディーテー様の経営するマッサージ店で働けない勇者一行のお飾りの貴女が、でかい態度をとれるのは、あのつけあがった勇者レオの恋人だからじゃない。何が違うというの?」
「それは……っ」
う、うわぁ。
何だか嫌な感じだよ。
私、ヒートさん苦手だなぁ。
って言うかだよ。
「私のお友達に、酷い事言わないで!」
私はハッカさんの前に出て、両手を広げてヒートさんを睨んだ。
「ジャスミンちゃん……」
私の目とヒートさんの目がかち合う。
「ふふ。お友達? 駄目よジャスミンちゃん。お友達は選ばなきゃ。お友達として忠告させてもらうわ」
「私、ヒートさんとは友達じゃないもん!」
「え?」
いくら私でも、ハッカさんを苛める様な人と、そんな直ぐにお友達になれないもん。
もっと優しくなってくれたら、こっちからお友達になってって頼むけど、今はダメなんだから!
私がヒートさんを睨み続けていると、ヒートさんは突然肩を震わせて笑い始める。
「ふふふふふ……。いいわ。それなら、お友達じゃないなら何をしても良いわよね!?」
「え?」
「確かにジャスミンちゃんは凄く熱に強いわ! でも、これならどう!?」
ヒートさんがもの凄い速度で、私に接近し、そして――
「――っきゃ! やめ! やめてえぇー!?」
私はヒートさんにスカートを掴まれて、捲られそうになり抵抗する。
何!?
え?
いやいやいや!
なんでそうなるの!?
「魔性の幼女の弱点は、着衣したパンツを見られる事! それが世界の常識よ!」
意味わかんないよ!
「ぷぷ。ご、ご主人、ぷぷぷ。大丈夫ッス、ぷぷ、か?」
トンちゃん?
笑ってないで助けて?
「ジャスって、よくパンツ狙われてんよね~」
そんな呑気な事言ってる場合じゃないよセレネちゃん!
「主様の能力が覚醒したのが原因なんだぞ」
え?
待って?
何それ?
「ジャチュ、へんたい引きよてる能力、かくていちた」
待って?
聞いてない。
本当に聞いてないよそれ。
「うむ。妾と契約した時には覚醒しておったのう。確か、出会った人物の変態願望を解放させる能力だった筈ぢゃ。勿論自動発動タイプぢゃ」
嘘でしょう!?
何その能力いらない!
って言うか、何で覚醒したの!?
しなくていいよそんなの!
もうやだぁ……。
「そっか~。だからアプロディーテーがロリコンになったのね。じゃあアイツ、元々願望はあったって事じゃん。超ウケる~」
ウケないよ!
「アプロディーテー様がロリコン!? って、そんな事に驚いている場合じゃないわよね! ヒートさんやめて下さい! ジャスミンちゃんが嫌がってます!」
「そんな事ないわよ。ねえ? ジャスミンちゃん。嫌よ嫌よも好きのうち。そうじゃなきゃ、こんなエッチな格好しないじゃない」
それ、おもいっきり男の思考のそれだよ!
私も前世男だったからわかるけど、一定数以上そう言う人いるもん!
って言うか、そんなのどうでも良いからやめてー!
スカートを捲ろうとするヒートさんに、私は必死に抵抗する。
そして、この時、奇跡が起きた。
「ちょっとアンタ、私のジャスミンに何してくれてんのよ?」
「え?」
私は抵抗するのも忘れて驚いた。
「リリィ?」
何故なら、何故ならリリィが、私のスカートを捲ろうとしているヒートさんの手を掴んで、ヒートさんを物凄い鬼の形相で睨んでいたからだ。
「何よ貴女? さっきまでマッサージ店で怯えていた子よね? 無理しないで隅っこで怯えていなさ――」
一瞬だった。
ヒートさんは最後まで話す事なく、気が着いた時には脱衣所の壁にぶつかって、その衝撃で崩れた壁の瓦礫の上で気絶していた。
あまりにも突然の出来事で、この場にいる全員が口を開けて驚き、一言も喋れなくなる。
そして、静まりかえったこの中で、リリィが私に笑顔を向けた。
「ごめんねジャスミン。心配かけたわね」
「リリィー!」
私の目から涙が溢れだし、私は勢いよくリリィに抱き付いた。
【ジャスミンが教える幼不死マメ知識】
ランジェリー関係に詳しいハッカさんは、実はアプロディーテーさんのお気に入りなんだって。
だから、ヒートさんはそれが気に入らなくて、ハッカさんに冷たいみたいなの。
そんなの関係なく仲良くすればいいのにねー。




