046 幼女を狙う熱い変態
えーっと、うん。
そう言えば、私ってラヴちゃんの火の加護のおかげで、熱に強いんだっけ?
始まりましたサウナ我慢大会。
そして、私とラヴちゃんは圧勝していた。
既に予選を勝ち上がって、今まさに決勝戦が始まった所である。
決勝戦はラヴちゃんと私を入れて、6人もいるんだね。
って言うか、凄く地味なんだよね。
この我慢大会。
そう。
この大会は凄く地味地味で、ただひたすら黙ってサウナの中で我慢するだけの大会だった。
予選と決勝戦の違いがあるとすれば、サウナに入りながら熱々のスープを10分以内に飲み干さないと、失格になってしまうという所だけだ。
サウナの中でスープって、これ大丈夫なのかな?
そんな事を考えながら、スープを頂きますして飲む。
「が、がお……」
「ラヴちゃん?」
「ジャチュ、お腹ポンポン」
ああ、そっか。
ラヴちゃんずっとご飯食べてたんだもんね。
自称勇者のレオに料理を食べさせられていたラヴちゃんは、目の前のスープにギブアップしてしまった。
「ジャチュ、がんばって!」
「うん。頑張るよ!」
サウナを出て行くラヴちゃんに応援されて、私は飲み干したスープの器を掲げて笑顔を向けた。
すると、それを見ていた見知らぬお姉さん……見知ったお姉さんが私に話しかけてきた。
「ふふ。お嬢ちゃん、そんな大声を上げて大丈夫なの?」
あっ、マッサージ店で私のお尻を触ってた変態のお姉さんだ。
このお姉さんも大会に出てたんだね。
私がお姉さんの質問に黙っていると、お姉さんが何かに気付いた様な表情を浮かべた。
「自己紹介がまだだったわね。私はヒート。アプロディーテー様に仕える勇者一行の最強の情熱家、サウナのヒートよ」
「え? うん。私はジャスミンだよ」
一応私も名乗っておくと、ヒートさんがニヤリと微笑む。ちょっと怖い。
「ジャスミンちゃん。どう? 私がアプロディーテー様に頼んであげるから、私の従者にならない?」
「え?」
「私は、ジャスミンちゃんの様な可愛い女の子が大好きなの。だから、悪いようにはしないわよ」
ひぃー!
怖い!
凄く怖いよ!
何が怖いって、見てよこの顔!
絶対やましい事しか考えて無い顔をしてるよ!
私は後ろに後退り、がくがくと体を震わせた。
すると、ヒートさんは身の毛もよだつ様な笑みを浮かべて、私を舐める様に上下に見た。
「ふふ。やっぱりジャスミンちゃんは可愛いわ。早く食べちゃいたい」
よーし!
リタイアしよう。
うん。
それが良いよね?
だって、ヒートさん本気でヤバいんだもん。
身の危険しか感じないよ!
私は優勝を諦めてサウナの外に出ようと思い、扉に視線を向けて見えてしまった。
サウナの扉は透明で、外と中が見える様になっている。
だから見えてしまったのだ。
扉の向こうで、プリュちゃんが心配そうに私を見つめている姿を。
ダメだダメだ!
プリュちゃんの仇を取るって決めたんだもん!
変態に怖がってなんかられないよ!
私が鈍った決心を奮い立たせて、ちょこんと勢いよく座る。
すると、ヒートさんが私の隣に座って、私の太股に触れようとした。
ひぃ!
私が顔を青ざめさせたその時、突然声がサウナの中に響く。
「はいそこー。おさわりしないように! 試合中のおさわりは、他選手への妨害行為と見なして失格になりますよー」
「ちっ」
た、助かったよぅ。
運営さん、ありがとー!
私はホッと胸を撫で下ろし、一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
そして、ヒートさんに顔を向けてハッキリと言う。
「ヒートさん。私はヒートさんの従者にはならないよ」
「へ~」
ヒートさんは私の言葉を聞くと、余裕の笑みを浮かべて私と目を合わす。
「ふふ。それなら、どちらが強者か教えてあげる」
私とヒートさんが睨み合い、ヒートさんが立ち上がった。
「良い事を教えてあげる。この大会はね、おさわりの様に直接誰かに触れるのは禁止だけど、触れなければ何をやっても禁止じゃないのよ」
「え?」
私が首を傾げたその時、ヒートさんが両手を広げた。
「私の能力は【灼熱体温】。己の体温を上昇させて、周囲の気温にも変化を与える能力よ」
ヒートさんを中心に、どんどんと気温が上昇していく。
まさにその能力の名前の通りに、サウナの中は最早灼熱地獄だ。
決勝戦に残っていた他の参加者3人が次々に倒れていく。
え? 待って?
倒れた人達がヤバいよ!
私は倒れた人を外に運ぼうと思って触れようとして、思いとどまる。
助けようとした場合でも、失格になっちゃうのかな?
でも、そんな事気にしてなんかいられないよね。
助けなきゃ!
私が再び倒れた人に触れようとしたその時、突然プリュちゃんから通信が入る。
『主様! 魔法を使うんだぞ!』
私はプリュちゃんの言葉でハッとなり、急いで水の魔法で倒れた人達の体を水で包み込む。
『プリュちゃん、ありがとー!』
だけど、これだけじゃ駄目だ!
この暑さだと、水だけじゃ熱で沸騰しちゃう。
氷で覆うんだ!
熱で水が沸騰しない様に、次々と氷の魔法を使っていく。
ヒートさんは灼熱体温と言う能力を使って、どんどん気温を上昇させていった。
そうして、私が何度もヒートさんの能力に対応する為に魔法を使っていたら、ヒートさんが顔を顰めて私を見た。
「何で、ジャスミンちゃんは自分には魔法を使わないの?」
「え? 何でって……」
不意に話しかけられて、私は魔法を使う手を休めずに、顔だけヒートさんに向けて言葉を続ける。
「全然暑くないからだよ。私は火の加護を受けているから、溶岩の中だって平気だもん」
「……は?」
ヒートさんが驚き口を開け、その瞬間に能力が止まった。
そして、小刻みに首を横に振り、私の顔を信じられないものを見る様な目で見つめた。
うーん……あ、そうだ。
実際に見せてあげよう。
ヒートさんが能力を使うのを止めてくれたので、まずは気温を下げる為に、サウナの中に氷の霧を魔法で発生させた。
気温が下がるまで、それを何度も繰り返し、下がってきた所で倒れた人達に使っていた水の魔法を解く。
それから、火の魔法を使って溶岩を作り出し宙に浮かせて、私はそれに触れた。
「ね? 大丈夫でしょう?」
私が笑顔でそう言うと、ヒートさんは、ペタリと床に座る。
そして、肩を落として呟いた。
「相手が悪すぎよ。熱が効かないどころか、私でも触れる事なんて出来ない溶岩なんかに触れるこんな子に、私が勝てるわけないじゃない」




