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045 幼女の熱い戦いが今始まる

『ジャスミン様、ハッカがジャスミン様の為に、先程のパンツを親に頼んで大量生産してくれるらしいのぢゃ』


 私がトンちゃんからプリュちゃんの居場所を聞いて、お風呂屋さんに向かっている途中で、マッサージ店で大精霊ノームと戦っている筈のフォレちゃんから加護を使った通信が入った。

 それで、開口一番に出た言葉がこれである。


『え? あ、うん。……え? フォレちゃん?』


『うむ。ジャスミン様のフォレちゃんぢゃ』


『フォレ様どうしたッスか? ノーム様と戦ってたんじゃないんスか?』


『もう終わった。と言いたいが、追い出されてしまってのう』


 追い出された?

 え? 何で?


 私が首を傾げると、トンちゃんも不思議に思った様で聞き返す。


『追い出されたんスか?』


『うむ。ジャスミン様が立ち去った後に、アプロディーテーが騒ぎを聞きつけてやって来てのう。店を壊すなと自称勇者とノームが怒られたのぢゃ』


 え? 何それ?

 いや、でも、うん。

 そうだよね。

 あそこ、お店の中だもんね。

 床とかすっごいボコーンって豪快に壊しちゃってたし、うん。

 怒られちゃうよね。


『妾はハッカと一緒に、とりあえず邪魔だからと言われてのう。ハッカは自称勇者の仲間ぢゃが、マッサージ店とは関わりが殆どない様ぢゃな。アプロディーテーに店を追い出されて落ち込んでおる』


 そうなんだ?

 ちょっと可哀想。

 って、驚きすぎて、さっき聞き流しちゃったけど……。


『ハッカさんが私のパンツをいっぱい作ってくれるって本当?』


『うむ』


 わぁ。

 凄くありがとーだよぉ。

 今度ハッカさんに会ったら、いっぱいお礼を言わなきゃ!

 あ、それと、私からも何かプレゼントしよう!


『ところでジャスミン様、今は何処におるのぢゃ?』


『えっとね、ハープに着いてから最初に行ったお風呂屋さんがあるでしょう? 今そこに向かって……あ。今着いたとこだよ』


『プリュイの所か。成程のう。流石はジャスミン様ぢゃ。妾も今から向かうとしよう』


『うん。わかったよ。それじゃあ、また後でね』


『うむ』


 私はフォレちゃんとの通信での会話を切ると、目の前に建つお風呂屋さんを見上げた。


 最初に来た時から大分時間も経っていて、既に今は夕暮れ時。

 その為、お風呂屋さんには結構な数のお客さんが集まって来ていた。


「ねえ、ジャス~。我慢大会やってんだって~」


「え?」


 セレネちゃんに話しかけられて振り向くと、お風呂屋さんの出入口に看板が立てかけてあって、そこには【我慢大会開催中! 景品・牛乳各種詰め合わせセット】と書かれていた。


 何これ?

 えーと……。


 看板の詳細を詳しく見ると、我慢大会とは、サウナで誰が一番長く入っていられるかの我慢大会らしい。


「今は一次予選をしているみたいですね」


「うん……」


 リリィが私と一緒に看板を見て呟き、私が返事をすると、トンちゃんが看板に指をさした。


「プリュが出てる大会ッスね」


「へぇ、そうなん……え?」


 聞き間違いかな?

 うん。

 そうだよね。

 聞き間違い聞き間違い。

 プリュちゃん通信を入れてきた時、凄く鬼気迫った感じだったし、そんなわけないよね?


「がお。プユ、ジャチュに牛乳プレデントちゅるって言ってた」


 あ、おはようラヴちゃん、よく眠れた?

 って、え?

 本当にそうなの?


 ポーチの中で眠っていたラヴちゃんが、おめ目を擦りながら説明してくれて事情は解ったのだけど、私は困惑して冷や汗を流す。


 あれぇ?

 じゃあ、さっきのプルソンさんが意識不明の重体って何だったんだろう?

 あっ、もしかして、サウナに長時間入ってて倒れたって事?

 ……って、それはそれで一大事だよ!


「とにかく早く中に入っちゃおーよ。まだ予選の受付やってるみたいだし、我慢大会ってのに出ればいんでしょ?」


「え?」


 いやいやいや。

 出る必要は無いと思うよ?


「でるー!」


「え! ラヴちゃん!?」


 ラヴちゃんがセレネちゃんの質問に元気に答えたので、私は驚いてラヴちゃんに視線を向けた。


 か、可愛い。


 ラヴちゃんはポーチの中で、もの凄くやる気満々な感じで目を輝かせて、口を栗の様な形にしてバンザイをしていた。


 こんなに可愛いラヴちゃんのやる気を落とさせる様な事したくない!

 よーし!

 エントリーするぞー! 

 って、その前にだよ。


 私はお風呂屋さんの中に入って行くセレネちゃんとリリィの後ろを歩きながら、もう一度プリュちゃんに通信を送ってみる。


『プリュちゃん、プリュちゃーん』


『あ、主様? どうしたんだぞ?』


 うん。

 やっぱり大丈夫そうだね。

 さっきのは何だったんだろうって感じもするけど、プリュちゃんが無事みたいだし、考えなくてもいっか。


『さっきプルソンさんが意識不明って言ってたけど大丈夫?』


『ごめんだぞ。話すのを忘れてたんだぞ。今は意識も取り戻して、お水を飲んで横になってるんだぞ』


『そっか。それなら良かったよぉ』


『だぞ。……主様、ごめんなんだぞ』


『え? 急にどうしたの?』


『主様への日頃の感謝をしようって、皆と話し合って、アタシがプレゼントを用意する事になったんだぞ。それで、我慢大会に出て優勝賞品をプレゼントするつもりだったんだぞ。でも、予選で負けちゃったんだぞ』


『プリュちゃん……』


 通信を通して、プリュちゃんのすすり泣く声が聞こえてくる。

 そして、それは通信だけじゃない。


 私は既に我慢大会の受付を済ませていて、選手控室まで来ていた。

 そう。

 私は、私に気がついていないプリュちゃんの背中を前にしていたのだ。


 私はプリュちゃんの頭にそっと触れて、優しく撫でる。


「プリュちゃん、ありがとーだよ。プリュちゃんの気持ちだけで、私は凄く嬉しいよ」


 プリュちゃんが私に振り向いて、大粒の涙を流し出す。


「主様……っ」


 プリュちゃんが涙を流しながら私に飛びついて、私はプリュちゃんを抱きしめた。


「私が、プリュちゃんの仇を取ってあげるからね!」


 こんなにも私の為に頑張ってくれたプリュちゃんの優しさに応える為にも、絶対に優勝してみせるんだから!


 私はこの時、かつて無い程の闘志を燃え上がらせた。

 例えどんな強敵が待ち受けていようと、今の私なら絶対に負けない自信がある。


 こうして、私のサウナで我慢大会が始まった。

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