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044 幼女は大好きなシリーズを手に入れる

 ハッカさんがレオを睨み、レオが懐に入れた私のパンツを取り出した。

 この場の緊張が高まり、私が私のパンツの行方を見守る中、レオが私のパンツを床に叩きつけた。


「その場の雰囲気につい流されちまったが、何で俺がこんなガキのお子様パンツに動揺しなきゃいけねえんだよ!」


 うぅ、酷い。

 私のパンツがぁ……。


「レオ! 何て事をするのよ!?」


「うるせえ黙れ! お前こそどういうつもりだハッカ! 何故魔性の幼女のパンツを欲しがる!?」


「愚問ね。それは、これと交換して手に入れる為よ!」


 ハッカさんがレオの言葉に答えて、パンツを取り出した。


「それは!?」


 私は思わず声を上げて驚いた。

 すると、ハッカさんが私に振り向いて、取り出したパンツを私に差し出す。


「良ければ使って?」


 私はハッカさんから差し出されたパンツを受け取り、両手で広げて眺めた。


「わあ……」


 私は感動した。

 そのパンツは、純白のパンツ。

 パンツには天使の羽と、その中心には天使の輪では無く、デフォルメされたジャスミンの花のイラストがプリントされていたのだ。


「ジャスミンちゃんの為に、ロンデの馬鹿を入院送りにして、超特急で作って来たの」


「ありがとー! ハッカさん!」


 私は嬉しさのあまり、ハッカさんに抱き付いた。


 大好きなデザイナーさんが、私の為に考えて作ってくれたなんて嬉しすぎるよ!

 決めた!

 やっぱり私は、このシリーズのパンツを穿き続けるよ!


「さらっと入院送りとか物騒な事言ってるッスよ?」


 トンちゃんが何か言っているけど、きっといつもの毒舌だから気にしなくて良いに違いない。

 私はハッカさんから体を離して、ハッカさんの顔を見上げて笑顔を向けた。


「ハッカ。お前、何をやってるのかわかってんだろうな? これはアプロディーテー様への反逆行為だぞ!」


「レオ、私は反逆するつもりはない。ただ、ジャスミンちゃんを妹にしたいだけよ」


 ハッカさんとレオが睨み合い、二人は剣を抜いて構え合う。

 かと思いきや、レオが剣を床に刺して、ニヤリと笑った。


「レオ! あんたまさか!?」


「そのまさかだ」


 まさか?

 なんだろう?


 私が頭にハテナを浮かべて首を傾げたその時、ゴゴゴと地鳴りの様な音が響いて、大地が揺れ始める。


 地震!?


「ひいーっ! 何なのよもー! いきなり地震とか信じらんない最悪じゃん!」


「きゃっ」


 リリィ!


 体を丸くして怯えるリリィの所まで私は急いで魔法で飛んで行き、リリィを護るように抱きしめる。


 ドドドと低く鈍い音が鳴り、レオの立つ位置から少しズレた横の床が音を上げて、下から強い衝撃を受けて噴水の水が噴き出す様に飛び散った。

 そして、そこから、もの凄いマッチョな筋肉全開で上半身が裸な、茶色い髭を生やしたお爺さんが飛び出した。


 マッチョなお爺さんが飛び出すと地震はおさまり、静寂がこの場を支配する。

 その静寂を打ち破ったのは、突然現れたマッチョなお爺さんだった。


「がっはっはっはっ! 若造、呼んだか?」


「ああ。大精霊ノーム。仕事だ」


 大精霊ノーム!?

 ノームさんって精霊さんとは思えない程のマッチョさんだったんだね。

 精霊の里では会えなかったし、初めて見たけど、何だか濃いなぁ。

 このハープの都は筋肉凄いオネエさん達でいっぱいだけど、そのオネエさん達を上回る筋肉だよ。


「ノームよ。久しいのう」


 フォレちゃんが私の前に出て微笑する。


「その声、成程。姿は違うが、ドリアードか」


「左様。ぢゃが、今はフォレ=リーツと名乗っておる」


 フォレちゃんとノームさんが会話すると、レオが眉根を上げて眉間にしわを寄せて、額を押さえながらノームを睨んだ。


「無駄口叩くんじゃねーぞ大精霊。こいつ等を皆殺しにしろ」


「せっかちな若造だ。だが、聞き入れよう」


 ノームさんがレオに答えて、フォレちゃんを睨みつけた。

 フォレちゃんもノームさんに睨まれると、冷たい表情でノームさんを見た。


「ヤバいッスとご主人! 大精霊同士の戦いなんて、巻き込まれたら洒落にならないッス!」


「うげっ。それマジ? ちょー最悪じゃん。早く逃げるわよ」


「う、うん。リリィ、行こ! ハッカさんも!」


「はい!」


「ごめん、ジャスミンちゃん。私はあの馬鹿を止めるわ」


 ハッカさんが眉根を下げながら、私に優しく微笑んだ。

 私はそれを見て、自分の気持ちを抑えて頷いた。


「うん。気をつけてね」


「ええ」


 私はリリィを引っ張って、ここまで来た道を急いで戻る。

 フォレちゃんを置き去りにする事は、勿論心配でしたくなかったけど、今はリリィとセレネちゃんを安全な所に避難させてあげたかった。


 私はリリィとセレネちゃんを安全な所まで避難させた後に、またここに直ぐ戻って来るつもりでいた。

 だけど、どうやらそれは出来そうにない。


 屋上へ向かう私の頭の中に、突然、プリュちゃんが加護の力を使った通信で話しかけてきたからだ。


『主様! 主様! 大変な事になっちゃったんだぞ!』


『ぷ、プリュちゃん!? どうしたの?』


『プルソンさんが、意識不明の重体になっちゃったんだぞ!』


『ええっ!?』


『主様、このままじゃ、このま――』


 プリュちゃんの言葉が突然消える。


『プリュちゃん? プリュちゃん、プリュちゃん!』


 ダメだ。繋がらない。

 何があったの?

 

 私は急遽、トンちゃんからプリュちゃんが何処にいるのか聞き出して、突然応答が無くなってしまったプリュちゃんのもとへ向かう事にした。


 ごめんねフォレちゃん。

 プリュちゃんを連れて、絶対に戻って来るから!





 ここは、私が最初に訪れたお風呂屋さん。

 ここでは今、私との通信を切ってしまったプリュちゃんが、未曽有の危機に追い詰められていた。

 プリュちゃんは男湯のサウナの中で、今まさに、アプロディーテーさんの配下の勇者の一行の一人と戦っている真っ最中。

 そしてその一人とは、私がマッサージを受けた時に、アプロディーテーさんと一緒に私のお尻を触っていた変態だった。


「ふふっ。魔族と言えど、私には敵わなかった様ね。精霊さん、あなたもそろそろ限界なのではないかしら?」


「そ、そんな事、無いんだぞ」


 プリュちゃんは横で倒れるプルソンさんを見つめながら、朦朧とする意識を振り払う為に首を激しく横に振る。


「ふふっ。そのわりには、大分限界の様だけど? でも無理もないわ。私はアプロディーテー様に仕える勇者一行の中でも最強の情熱家。サウナのヒート。人は私をそう呼ぶわ。サウナの我慢大会で、私の右に出る者はいないんですもの」


「ま、負けないんだぞ。絶対にこのサウナの我慢比べに勝って、主様に賞品の牛乳詰め合わせをプレゼントするんだぞ」


「ふふっ。脱水症状で、倒れない様に気をつけてね」


 プリュちゃんの限界は、刻一刻と迫っていた……。

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