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039 幼女を怒らせてはいけません

 突然舞い降りたトンちゃんが、私と私に抱き付くハッカさん、そして私を睨むロンデさんを見て首を傾げた。


「ご主人、どういう状況ッスか?」


「えーと……」


「風の精霊!? 火の精霊や木の精霊に飽き足らず、風の精霊までとは、やはり話は本当の様ですね!」


 私がトンちゃんの質問に答えようとした時、ロンデさんが大声を上げた。

 そして、ロンデさんは杖を取り出して構えて、私を睨んだ。


「精霊を洗脳し、無理矢理戦場に連れ回す野蛮で愚かな振る舞い! わたしは貴女の非道な行いを決して許さない!」


 そんなの事してないよ?

 って言うか、どうしよう?

 今ので思い出したけど、マッサージ店に入って行ったラヴちゃんを助けなきゃだよ!

 音信不通だし、絶対何かあった筈だもん。


 私は、やっとラヴちゃんの事を思い出して焦りだす。

 正直な気持ち、最早アプロディーテーさんの情報収集なんてどうでもよくなっていた。

 ラヴちゃんの無事を祈るばかりだ。


「待ちなさいロンデ! この子の瞳を見なさい! もの凄く可愛いわ! じゃなかった。もの凄く綺麗な瞳をしているのよ! 私にはこんなに綺麗な瞳をしている子が、本当にそんな事をするとは思えないわ!」


「ハッカ、貴女は洗脳されてしまったのです!」


「違うわ! 私は洗脳なんてされてない!」


 うんうん。

 と言うかだよ。

 むしろ、洗脳されてるのはロンデさんだと思うんだよね。


「さっきから黙って聞いておれば、全く、なんと愚かな小僧ぢゃ。このハッカと言う娘は無礼ではあるが、貴様と比べれば幾分かマシに思えるのう」


 フォレちゃんが木の根を張り巡らせながら私の前に出て、ロンデさんを睨みつける。


「木の精霊よ。わたしが今直ぐその身を解放してあげましょう」


 フォレちゃんとロンデさんの言葉のキャッチボールは成り立たない。

 2人はお互い睨み合い、それぞれ魔力を集中する。


 そうして2人が睨み合っていると、トンちゃんは私の耳元まで飛んで来て、こそこそと話し出す。


「ご主人、ラーヴの事はフォレ様から聞いてるッスか?」


「え? うん」


「実は、ラーヴの事が心配で様子を見に行ったんスよ。そしたら、大変な事になっていたッス」


「大変な事!?」


 私は思わず大声を上げた。

 私の大声に驚いて、ここにいる全員が私に注目する。

 トンちゃんは耳を塞ぎながら、私に非難の目を向けて、今度はこそこそでは無く普通に言葉を続ける。


「ラーヴは、今大量の料理を食べさせられるという拷問を受けているッス」


「そんなっ!? 大量の……え? 料理を食べさせられてるの?」


 それって、拷問なの?

 いやでも、考え方によっては拷問……なのかなぁ?


「拷問? 人聞きが悪い。聞き捨てなりませんね」


 ロンデさんがトンちゃんを睨む。

 しかし、トンちゃんはロンデさんを無視して、眉根を下げながら私の質問に答える。


「そうッスよ。とても精霊が食べきれる量じゃない料理の数だったッス。窓の外から見ただけッスから、話の内容までは分からなかったッスけど、ラーヴが泣いてたッス」


「え?」


 ラヴちゃんが泣いてた?


「それは忌々しき事態ぢゃ。早くラーヴを助けに行くべきぢゃな」


「そうッスね。ラーヴがいた部屋には結界が張られていたし、多分、ラーヴは自力で出られないんスよ」


「ま、待ってよあなた達。私達は勇者とその仲間よ。精霊を結界の中に閉じ込めるだなんて、そんな酷い事するわけ――」


「いいえ。ハッカ、相手は精霊とは言え、魔性の幼女に洗脳されているのです。恐らくレオが結界を張ったのでしょう」


「そんな……」


「何も悲しむ様な事はありません。先程泣いていたと仰いましたが、大方、自分が愚かにも魔性の幼女についてしまっていた事に嘆いていただけでしょう。哀れな精霊です」


 結界で閉じ込めて、ラヴちゃんを泣かせた?

 哀れな精霊?


「ぷぷ。ご主人、ここでも魔性の幼――ご、ご主人!?」


 トンちゃんが私の顔を見て、顔を青ざめさせながら距離を置く。

 私の怒りは頂点に達していた。


 ラヴちゃんを泣かせるなんて許さない!


「魔性の幼女にいい様に使われていた事に涙し、レオに料理を振るまわれていたと考えられます。さあ、魔性の幼女、わたしが貴女を――」


 私は魔力を集中して、ロンデさんに向かって右手をかざす。

 そして、宙に緑色の魔法陣を浮かび上がらせて、一気に魔力を解放して風の魔法を放つ。

 その魔法は、空気を圧縮した風の魔法。

 地面を抉り突き進み、勢いよくロンデさんに飛んで行く。


「――っ!?」


 ロンデさんに私の魔法が命中して、その瞬間に、圧縮された空気が破裂した。

 忽ち砂煙が周囲を包み込み、ロンデさんの姿が見えなくなる。


「え? 嘘?」


 その様子を見ていたハッカさんが、目と口を大きく開いて驚き呟いた。

 私は驚いて力が抜けたハッカさんから体を離して、ゆっくりとロンデさんに向かって歩く。


 砂煙が晴れていき、ロンデさんの姿が見え始める頃には、私はロンデさんの目の前に辿り着いていた。

 ロンデさんは、もの凄い顔を真っ青にさせて、肩で息をしながら私を見る。

 そんなロンデさんを見上げながら、私はニッコリと笑顔を向けた。


「ラヴちゃんの所まで案内して?」


「は、はい」

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