037 幼女も驚く都に隠されたおバカな過去
リリィと一緒におトイレに行った後、私達はアプロディーテーさんの情報を集める為に動き出した。
集める情報は、この都に住んでいる人達から見たアプロディーテーさんの評判だったり、好きなものや嫌いなもの。
それに、どうしてこの都に住むようになったのかだ。
セレネちゃんからは、そんなのどうでも良いから作戦会議をしようと言われたのだけど、私は結構重要だと思っている。
本来は、そう言う事は周りから聞いて回る様な事では無いのだけど、今はそんな事を言っている場合じゃない。
それに、私は命を狙われているから少しでも早く情報を手に入れないと、知る前に殺されちゃいましたじゃお話にならないと考えたのだ。
そんなわけで、情報収集中に見つけた民芸品の出店のオネエさんに、気になる事を教えて貰った。
「え? ウェヌスさんって、ハープの都を救った人なの?」
ウェヌスとは、本人が言っていたけど、アプロディーテーさんがこの都で名乗っている名前である。
さて、そんな事よりだ。
私は驚いて聞き返す。
すると、オネエさんは頷いて答える。
「ええ、そうよ。ウェヌスさんがいなかったら、当時村だったハープは、十年前の戦争で滅んでいたわ」
「そうだったんだ……」
「それは初耳ぢゃのう。しかし、まさかここ等一帯で戦争があったとはのう」
フォレちゃんが呟くと、オネエさんが苦笑する。
「知らなくても無理ないわよ。あれだけ酷い戦争だったのに、他国には相手にされていなかったんだもの」
「ふーん。で? 戦争を止めたのが、アプロディ……ウェヌスってわけね~」
「ええ。ウェヌスさんは、当時村だったこのハープで、戦争をする愚かな男達を美しくする事で、戦争を止めたのよ」
そっか。
ウェヌスさんは男の人達を美しくして戦争を止めてくれたんだね……うん?
「美しく?」
私は思わず聞き返す。
すると、それを聞いてオネエさんは微笑んだ。
「ええ、美しく。当時、男達が戦争を起こしたのは、亭主関白な男に愛想をつかした一人の女が村から出て行った事で起きた戦争。それがきっかけで男と女が話し合い、結果として男達が女が悪いと決めつけて、女が全員村から出て行った。そして、独り身の男が怒り、所帯持ちだった男達と戦争を始めたの」
……うん。
凄くくだらないよ?
どうしよう?
思っていたのと違う。
「何それ? 馬鹿じゃん。って言うか、話し合いの時に男が女に悪いって言ったのって、何処をどーとらえて言った言葉なの? 亭主関白だなんて今時流行んないじゃん」
「確かに言う通りよ。亭主関白なんて今時流行らないわ」
え、えっと、流行る流行らないの問題じゃ……って、いやいやいや。
気になったのそこ?
そこなの?
「でもね、当時の最初に村を出て行った女が言ったのよ。玉子焼きに砂糖を使ったら、俺は塩派だと旦那に言われたって。それがきっかけで、女は出て行ったの。だから、話し合いの場で男が禁断の言葉を言ってしまったのよ」
どうしよう?
本当にどうしよう?
亭主関白関係ないし、村を出た理由がおバカすぎる。
って言うかだよ?
あるある話すぎて話が見えてきちゃったよ。
どうせ、そこで男の人達が、そんなのくだらないーだとか、味付け変えればいい話だろ的な事言ったんだよね?
「朝食は目玉焼きだろって」
ええぇぇぇ……。
味付けの話ですらなかったの?
「女達はそこで思ったのよ。ああ、こいつ等、私の好みを解って無いな。朝は玉子焼きかスクランブルエッグでしょってね」
えっと……うん。
他国が戦争に無関心だったのも頷けるよ。
もう、何でもいいや。
「私はゆで卵派」
うんうん。
ゆで卵も美味しいよね、セレネちゃん。
「妾はそもそも卵をあまり食さぬ」
フォレちゃんはそうだよね。
いつも野菜とかばかり食べてるもんね。
「私は、私の為に作ってくれた物なら、それだけで嬉しいし何が良いとかは無いです」
流石リリィだよ。
こう言う事を言ってくれる相手には、逆に凄く美味しい料理を作ってあげたくなっちゃうんだよね。
それに、味の好みだって、相手の好きなものを作りたくて調べちゃう。
って、脱線しすぎだよ!
「ねえ、戦争を止めたきっかけの美しくしてって、結局どういう意味なの?」
「ああ。そうだったわね。ごめんなさい」
オネエさんは苦笑して、私と目を合わせて言葉を続ける。
「男達、いいえ。私達を今の私達にしてくれたのよ」
……うん?
「ほう。つまり、其方は当時戦争をしていた男だったという事か?」
フォレちゃんが質問すると、オネエさんはこくりと頷いた。
「ええ。本当に今思うと愚かな事をしていたわ。そして、今だからこそわかるの。玉子焼きの味付けなんて好きにすれば良いって。いいえ。むしろ、自分の為に作ってくれた相手に合わせるべきなのよ。勿論、朝食が目玉焼きである必要も無いわ」
うん。そうだね。
って、なるほどだよ。
私は理解した。
アプロディーテーさんは、どうやってかは謎だけど、戦争をしていた男の人達を全てオネエさんにしてしまったのだ。
恐らくだけど、オネエさんになった男の人達は心に乙女を宿す事によって、女の気持ちが解るようになったのだろう。
だからこそ、くだらない事で争いをしてしまっていた事に気がついて、戦争が終結したのだ。
と言っても、この考えが本当かどうかは確認してみない事にはわからないけど、凄くどうでも良かったので確認する必要も無いなと私は思いました。
でも、そんなアプロディーテーさんは、何でアレースさんの戦争に賛同してるんだろう?
本人は男を消すみたいな事を言ってたけど、同じ様に世界中の男の人を皆オネエさんにすれば……あれ?
それはそれで不味い様な……うん。
考えるのはやめよう。
私はお話を聞かせてもらったお礼に、オネエさんが出店で売っていた民芸品を一つ買って、その場を後にする。
私が買った民芸品は、楽器のハープの形の木彫りの置物だ。
大きさは、大人の男性が拳を作った時位の大きさで、可愛らしい天使のような羽が一つくっついていた。
この民芸品は、アプロディーテーさんがハープを救った時から生まれた民芸品らしい。
実は、この都がハープと言う名前になったのも、アプロディーテーさんに救われてからなのだとか。
ハープって、天女が弾いてる楽器のイメージがあるし、アプロディーテーさんにぴったりだよね。
アプロディーテーさんは天女じゃなくて、女神様だけどね。
私がハープの置物を見ながら歩いていると、リリィがボソリと疑問を口にする。
「でも、何故アプロディーテーはハープを救ったのでしょう?」
その疑問を聞いて、フォレちゃんとセレネちゃんも「確かに」と考える。
だけど、私だけ、何でそんな風に思ったのか疑問に思った。
何故なら……。
「困っている人を助けるのに、理由なんて必要ないよ」
確かに理由を求める人はいるかもしれないけど、逆に必要無い人だっている。
私だって、特に理由を見つける必要は無いと思ってるくらいだ。
私が思った事を口にすると、リリィは少し驚いた表情を見せてから、柔らかく微笑んだ。
「そうですね。ジャスミンちゃんの言う通りです」
「いやいや。理由とかちょー大事っしょ。なんで見ず知らずの連中を、理由も無しに助けなきゃいけないっての。馬鹿じゃん。お人好しすぎー」
「ううむ。ジャスミン様の考えは、妾も大変素晴らしいものだと思うのぢゃが、少々人が良すぎると思うのう」
どうやら、悲しい事に、私の考えを理解してくれるのはリリィだけらしい。
いつも喧嘩ばかりのセレネちゃんとフォレちゃんが、仲良く顔を顰めて私を見た。
もう。
セレネちゃんとフォレちゃんって、こういう時は仲良しさんなんだもん。
考え方は人それぞれで良いと思うけどなぁ。
と、私が考えながら歩いている時だった。
「覚悟!」
突然声が聞こえて、私が持っていたハープの置物が爆ぜる。
「きゃっ!」
私は驚いて尻餅を突く。
そして、見知らぬお姉さんが私の目の前に現れた。
その見知らぬお姉さんは、だいたい高校生くらいの見た目のお姉さん。
薄紫色の髪の毛は腰まで届くロングヘアーで、整った顔立ちに、鋭いつり目に瞳の色は綺麗なアメジスト。
軽鎧を着ていて胸は大きくなかったけれど、足に履いたニーソックスが太股を強調するかのように見せていて、何だかとてもエッチな感じがした。
お姉さんは手に長剣を持っていて、私を見下ろしながら剣先を私の顔に向けた。
「本当にこの子がジャスミンって子で間違いないんでしょうね!?」
「ええ。間違いありません。お風呂で男風呂に侵入した子供、我等が女神アプロディーテー様の抹殺を計画している野蛮で下衆な子供に間違いありません」
お姉さんが大声を上げて質問を投げると、お姉さんの背後に、お風呂で会ったメガネを掛けていた男の人がそう言って現れた。
メガネの男の人、確か名前はロンデだっただろうか?
ロンデは魔法使いの様な服装で、足元が見えないくらいの大きなローブを羽織っていた。
と言っても、魔法使いと聞くとイメージするような、大きな帽子は被っていないけれど。
アプロディーテーさんを抹殺!?
そんな事……あっ、セレネちゃんはそうだったね。
あ、でも、もしかして、これってチャンスなのかも!
今はアプロディーテーさんの情報収集真っ最中。
つまり、アプロディーテーさんと近しい仲のこの2人から、情報を聞き出せば良いのだ。
よーし。
頑張って聞き出すんだから!




