034 幼女のお尻を執拗に求めてはいけません
「ねえ、フォレちゃん。本当にこんな所にラヴちゃんはいるの?」
「うむ。ここで見たと連絡が入ったでのう」
フォレちゃんの答えを聞き、私はドッと疲れが出るのを感じた。
私達は今、フォレちゃんの案内で何故かマッサージ屋さんに来ていた。
そして私はと言うと、何故か横になってマッサージをしてもらっている。
私の横ではリリィとセレネちゃん、フォレちゃんまでもがマッサージをしてもらっていて、とても気持ちが良さそうにしていた。
って、いやいやいや。
何やってるの!?
本当に何やってるの私達!?
マッサージを受けてる場合じゃないよね!?
ラヴちゃんを捜さないとだよ!
「お客さま、凝ってますわね~。凄く堅くなってますわ」
「うむ。この体には妾もまだ慣れていなくてのう。よって凝りやすいのぢゃ」
「まあ、それは大変ですわね」
「そうなのぢゃ」
マッサージ屋さんにいた精霊の店員さんとフォレちゃんが楽しくお喋りして……して……って、あれ!?
「フェルちゃん!?」
「何ですの?」
「何ですの? っじゃないよ! 何でフェルちゃんがここにいるのー!?」
私は大声を上げて驚いた。
そこにいたのは、地の精霊のフェールちゃんだったからだ。
皆さん覚えているだろうか、中止となったスピリットフェスティバル当日に消えたのが、大精霊だけじゃない事を。
そう。
ここに何故かいるフェルちゃんも、大精霊と同じく行方不明になっていたのだ。
サガーチャちゃんはフェルちゃんが消えてしまった事を報告する為に国に帰った。
まさか、こんな所でフェルちゃんに会うなんて、誰が予想できただろうか?
だからこそ私は驚き、そして動揺した。
フェルちゃんって、サガーチャちゃんから聞いたお話だと行方不明の筈だよね?
私、聞き間違えて無いよね!?
「ジャスミンったら相変わらずですのね。わたくしは先程からいましたわよ。ねえ?」
フェルちゃんがフォレちゃんに視線を向けると、フォレちゃんはこくりと頷いた。
「そうぢゃな。妾も少々驚いたが、無事な様ぢゃし、特に問題は無いと判断した」
問題だらけだよ!
って、落ち着け私!
今は驚いて動揺している場合じゃないよ!
「でも、こうしてゆっくりお話するのは、ドワーフの国以来ですわね。精霊の里では、あまりお話出来ませんでしたし、色々とお話がしたいですわ。ところで……」
フェルちゃんがフォレちゃんに視線を向けて首を傾げる。
「どちら様ですの? わたくし達、以前何処かでお会いしたかしら?」
「其方、まさか地の精霊ぢゃというに、妾の事が分からぬのか?」
「……もしかして、ドリアード様ですの?」
「左様。そして今は身分を隠す為に、フォレ=リーツと名乗っておる。好きに呼べ」
「そうでしたのね。全然気が付きませんでしたわ。流石はドリアード様、いいえ、フォレ様ですの」
「うむ」
フォレちゃんちょっと照れてる。
可愛いなぁ。
って、ん?
その時、私は気付く。
フォレちゃんとフェルちゃんが可愛すぎて、目を奪われていて今まで気がつかなかったけど、私はお尻を凄く触られていたのだ。
あれ?
マッサージってこんなんだっけ?
なんだか凄く触り方がいやらしい様な?
私は疑問に思いながらも、マッサージをしている女の店員さんに視線を向ける。
ひぃっ……。
私は驚き、一瞬だけぶるっと身を震わせた。
なんと、店員さんはもの凄く鼻息を荒くして、私のお尻を舌なめずりをしながら触っていたのだ。
しかも目が怖い。
そして、私の反応で店員さんが手を止めて、視線をお尻から顔に移動させる。
「お客様。どうされました?」
ひいぃー! 怖い怖い!
目が凄く怖いよ!?
あれは獲物を目の前にした野獣の眼光だよ!
私は涙目になり何も言い返せない。
すると、リリィが店員さんの腕を掴んだ。
り、リリィ!?
「すみません。ジャスミンちゃんが怯えています。その手、離して貰えますか?」
やだ。
リリィったらイケメン。
「お客様困ります。こんな可愛らしい幼女のお尻を目の前にして、理性を保てるわけがないじゃないですか。お客様こそ、その手を離して下さい」
ちょっと待って?
今変な事言わなかった!?
さり気にどころか、思いっきり変な事言ったよね!?
リリィと店員さんが睨み合い、そして、私のお尻が揉まれる……揉まれる!?
増えてる!?
見ると、リリィをマッサージしていた店員さんまでもが、私のお尻を揉み始めていた。
ひぃーっ! なんで増えたの!?
普通、他の店員さんはお客さんに失礼な事するなって止めるでしょう!?
あれ?
ちょっと待って?
マッサージを受けてるのは、私とリリィだけじゃない。
セレネちゃんもいる!
私は焦る。
まさか、あんなに幼いセレネちゃんまでもが、マッサージ店員の餌食になってしまってるのではと視線を向ける。
「ジャスの顔って見てると、ホントおもろいよね。マジ飽きないわ~」
えぇぇぇ……。
私はドッと力が抜けるのを全身から感じた。
セレネちゃんは、マッサージを受けていなかった。
それどころか、マッサージの台の上に座って紅茶を飲んでいたのだ。
近くには、精気を抜かれたような表情の店員さんが、直立不動で立っている。
まさか……。
「セレネちゃん、もしかして、吸血の能力使ったの?」
「そそ。私のプリケツ触ろうとしてきたから、容赦なんていらないっしょ」
プリケツて……って、そんな事よりだよ。
この際、背に腹は代えられないよね!
「セレネちゃん、私のお尻を触ってる店員さんにも、少しの間だけ能力を使ってほしいんだけど良いかな?」
と言うかだ。
私は今自力で脱出出来ない。
何故なら、私の背中でフォレちゃんとフェルちゃんがお座りしているからだ。
2人は私がお尻を触られて慌てている間に、いつの間にか背中に乗っていて、2人で楽しそうにお喋りをしている……いや。違う。
確かにお喋りはしているけど、座ってなんかいなかった。
フォレちゃんが、フェルちゃんにマッサージの仕方を教わっていた。
「日頃、ジャスミン様のお世話になっておるからのう。妾がジャスミン様をマッサージするのぢゃ」
きゃーっ!
可愛いよぉーっ!
可愛すぎだよフォレちゃん!
フォレちゃんがフェルちゃんに笑顔で説明した言葉を聞いて、私は最早萌え死に寸前である。
と言うか、こんな可愛らしいフォレちゃんを、私の為に一生懸命頑張ってくれているフォレちゃんを、お尻を触られたくないなんてつまらない理由で退かすなんて私には出来ない。
私のお尻より、フォレちゃんの優しさを優先したいと思っても、これは仕方がない事なのだ。
だけど、だからと言って揉まれ続けるのも嫌なので、セレネちゃんにお願いした。
だと言うのに、セレネちゃんはリリィと睨み合う店員さんに視線を向けて、無表情で答える。
「ムリムリ、ちょームリ」
「え? 何で?」
私が聞き返すと、セレネちゃんは眉根を下げて、冷や汗を流しながら紅茶をすすった。
そして、一息ついてから、私と視線を合わせて答える。
「あの女、よく見たらアプロディーテーだわ」
「え?」
「アプロディーテーも私みたいに、まさか神以外の姿だなんてね~。あはは、ごっめーん。直ぐ気付かなくて、めんごだわ~」
「えええええええぇぇーっ!?」




