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029 幼女と学ぶ自然の摂理

 ハープの都、それは、女の子達の誰もが住みたいと憧れる乙女の園。

 都中が可愛い物でいっぱいで、目に映る全ての物に目移りしてしまう。

 それは、住宅やお店も例外では無く、可愛らしいデザインの建物が立ち並んでいる。


「ほら、あそこ。私達は今あそこの宿で寝泊まりしてるのよ」


 ハープの都に入ると、プルソンさんが指をさして説明した。

 指をさした方へ視線を向けると、出入口のすぐ側に、ハープの宿と看板に書かれた大きな宿屋さんがあった。


「丁度今さっき、そこの宿から出て来た所だったのよ。そうしたら、何だか騒がしい声が聞こえてきて見に来たら、まさかここでジャスミンちゃん達に会うとは思わなかったわ」


「そうだったんだぁ。助けてくれてありがとー」


「いいのよ。むしろ、助ける必要が無かった位よね」


「そんな事ないよ」


 私がそう言って笑顔を向けると、プルソンさんも私に微笑んでくれた。

 するとその時、セレネちゃんに背中をつつかれる。


「どうしたの?」


 私は振り向いて首を傾げる。

 すると、セレネちゃんが顔を青ざめさせて、私の腕を掴んだ。


「ヤバい。マジヤバいって!」


 本当にどうしたんだろう?

 怯えてる?


「何が乙女の園よ! そこ等中オカマだらけじゃん!」


 セレネちゃんが大声で叫び、道行く人達が私達に一瞬視線を向けた。


「あ、本当だ。女の子がいないね」


「あら? 知らなかったの? ここは私みたいに、間違えて男の子の体で生まれてきちゃった乙女が住む都よ」


「そうだったんだぁ」


 どうやら、ここハープの都は乙女の園と言われているが、実際に暮らしているのは体が乙女な人達では無いようだ。

 ここは、中身、要するに心が乙女な男の人達が集う楽園だったのだ。

 と言うか、私は周囲にある可愛らしいデザインの建物とかに気を取られていて、全然気がつかなかった。


「聞いてない! 私こーいうのダメなんだってば!」


 あぁ、だからオネエさんに警戒してたんだね。

 うーん。

 差別は良くないと思うな。

 前世おっさんだった中身おっさんな私が言っても、説得力に欠けるけど。


「男なんて糞みたいな連中ばかりだから良いじゃない。私はこの世の男全てが、ここの乙女達と同じになれば良いと思うわ」


 リリィ、糞とか言わないで?

 って言うか、偏見が過ぎるよ?


「リリさん。主様のパパさんは良い人なんだぞ」


 プリュちゃんの一言で、リリィは何故か顔を真っ青にさせる。


「ごめんなさいジャスミン! 私、そう言うつもりじゃなかったの!」


「え? なんだ、そんな事気にしちゃったの? しょうがないなぁ。大丈夫だよ」


 私はそう言ってリリィに笑顔を向ける。


 もう、リリィってば、そんなの私気にしないのに。

 何だか可笑しい。


「まあ、ハニーが焦るのも無理ないッスよね。ご主人は極度のファザコンッスから」


「最近は毎日一緒にお風呂入ってたです」


「いつも頭を洗って貰ってるんだぞ」


「ジャチュ、パパだいちゅき」


「それ以上言わないで!」


 私は顔を真っ赤にさせながら、両手で顔を隠す。


「わ~、マジ引くわ~」


「そうかしら? 良いじゃない。ジャスミンちゃん位の女の子なら、結構普通よ。将来はパパのお嫁さんって子だっているわ」


「ご主人はこんな見た目でも十歳ッスよ? 流石にいないんじゃないッスか?」


「ジャスミンは私のお嫁さんよ!」


「リリーには悪いが、ジャスミン様は妾の嫁にするつもりぢゃ」


 リリィとフォレちゃんの視線がぶつかり火花が散る。

 と言うか、この話はそろそろ終わってほしい。

 などと私が考えていると、ハープの都の出入口が、何やら騒がしくなってきた。


「あ、あいつ等……」


 リリィは出入口に視線を向けて呟いて睨む。

 私も視線を向けて、騒ぎの原因を見つけた。


 そこには、私達を外で囲んで来たモヒカンおじさん達が入って来ていて、女がいないと騒いでいたのだ。


「いい加減に鬱陶しい連中ぢゃのう。どれ、妾が地に返してやるかの」


 え!? 地に返す!?

 それって、殺すって事だよね!?


 私は慌てて、猫耳フードから飛び出したフォレちゃんを止めようとしたその時、モヒカンおじさん達がオカマのオネエさん達に囲まれる。

 そして……。


「な、なんだてめーら! やろーってのか!?」


「まあ、やだわ~。やりたいだなんて! 良いわよ。私が相手をしてあげる。丁度近くにホテルもあるし、昼間っからハッスルしちゃうわよ」


「な、なんだこいつ!? 話が通じねえ!」


「あら、私こっちの男、結構好みだわ。ねえ、あなた、今から私とカフェでお話しましょう?」


「誰がするか!」


「何なんだこいつ等! こうなったら、汚物は消毒してやるぜ!」


「まあ! あなた、とっても大胆ね! 良いわよ。私を消毒して、あなただけの綺麗な乙女にして頂戴」


「ぎゃー! 助けてくれー!」


 等々と、一人、また一人と連れ去られていく。


 私はそれを微笑みながら見守り、そして、プルソンさんに視線を向けた。

 と言うか、見なかった事にする。


「オネエさん、私達、まずはお風呂に入りたいんだけど、良い所無いかな?」


「あらそうなの? それなら、とってもお肌に良い効能があるお風呂に連れてってあげる」


「ありがとー」


 私はお礼を言って、歩き出すプルソンさんの後ろについて行く。


「ご主人、ヤバいッス。ボク、笑いすぎてお腹痛いッス」


「あいつ等皆バカです」


「皆仲良しなんだぞ」


「がお」


「プリュイにラーヴ、アレをどう見たら、そんな風に見えるんぢゃ?」


「全くよ。ホント無い。でも、あの男共は、ざまぁないわね」


「良いじゃない。女は女同士で、そして、男は男同士で愛し合うのが、自然の摂理せつりだと思うわ」


「やだわ。リリィちゃん。私達は、体は男でも、心は乙女なのよ」


「あら、ごめんなさい。そうよね。悪い事を言ったわ」


「良いのよ。それに、女は女同士、男は男同士で愛し合うのが自然の摂理。とっても素敵な言葉だわ」


 リリィとプルソンさんが微笑み合う。

 それはまるで、理解し合う仲の良い親友同士が、心を通わせているかの様に……。

 私は、そんな2人が微笑み合う姿を見て、心の底から思いました。


 それは自然の摂理では無いと思うよ?

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