026 幼女に無理なご褒美の要求をしてはいけません
セレネちゃんのお家を出て、私達はモーフ小母さんのお話を元に自称勇者が向かったとされる都、ハープへ向かう事になった。
実は、これには理由がある。
セレネちゃんがお家を出てから、「都に行こ」と言い出したのだ。
と言っても、セレネちゃんが言いださなくても、私はそのつもりだったから内心拒まれないか気になっていたので安心した。
でも、あんなに神様を殺すーなんて言ってたセレネちゃんが、何で自称勇者が向かったハープの都に行こうなんて言い出したのか、私には凄く不思議だった。
それで、セレネちゃんに何故なのか聞いてみたら、成程な答えだった。
「自称勇者ってさ~。神が連れて来たんだと思うのよね~」
セレネちゃんはそう言って、どういう事なのか説明してくれた。
どうやら、アレースさんか他の神様が、この世界に連れて来た者が自称勇者の可能性が高いらしい。
私が前世で読んだり見たりしていた転生ものの作品の主人公達の様に、神様から力を授かった人は本当に存在するみたいでびっくり。
神様達はそれを暇つぶしの一環としてやってしまう様で、今回もその可能性があるとかないとか。
セレネちゃんは、その事をお家に帰るまでは忘れていた。
だけど、お家で私達に自分の事を話していた時に思い出したのだとか。
そんな大事な事を忘れていたの?
って感じだよね。
リリィもそう思ったらしくて、セレネちゃんに訊ねていた。
「何でそんな大事な事を忘れてたのよ?」
「えー? そんな暇つぶし感覚でお遊びの一環でやる様な事、一々覚えてらんなくない? ちょーどうでもいいっしょ?」
「まあ、アンタには期待してないから良いわよ」
リリィが呆れながら喋ると、セレネちゃんは「何それー?」なんて言いながら、楽しそうに笑っていた。
そんなこんなでとにかくだ。
村に甚大な被害を与えた自称勇者を懲らしめるべく、私達は満場一致でハープへ向かう事になった。
ハープの都かぁ。
えーと……たしか、ハープの都って、別名が乙女の園だったよね?
お話でしか聞いた事が無くて、行った事が無いから楽しみだなぁ。
どんな所なんだろう?
私はまだ見ぬハープに胸を躍らせながら、東へと進んで歩いて行く。
ちなみに、ハープは徒歩で約二日程かかる距離にある場所で、まだまだ到着まで先が長い。
途中で一休み出来そうな村も無いから、正直飛んだ方が良いのだけど……。
「マジ無理。もう無理。高いとこ嫌ーっ!」
どうやら、セレネちゃんは高い所が苦手らしい。
我慢する事は出来るから、高い所に行って叫んだりとかはしない。
だけど、それは我慢しているだけで平気なわけでは無いから、好んで高い所には行こうと思わないのだとか。
それで、結局今まで我慢していたわけど、流石に限界を迎えたようだ。
精霊の里に向かった時も、村に戻って来た時も、飛んで連れまわしていたので、悪い事をしたなぁと私は感じた。
今思えば、ドリちゃんに木の根っこで持ち上げられた時に、それっぽい感じではあったのだ。
あの時のセレネちゃんは、最初は慌てていたのに、その後は降ろしてもらえるまで黙り込んでしまっていた。
あれは、高い所が苦手だから我慢してたんだなぁと、今の私になら分かる。
そう言う理由もあって、セレネちゃんに合わせようと言う事になり、ハープには徒歩で向かう事になった。
「そー言えば、今から向かうハープの都って、どーいうとこ?」
「え? セレネちゃん知らないんだ?」
「まーね。私って元々神だったわけじゃん? よーするに偉くて偉大な存在なわけよ。そんな私が、下等な人間共の住む都なんて、知りたいと思うわけないっしょ」
「人間が下等な一族と言う事に関しては、確かに妾も同意するが、神と言っても所詮は俗物よのう。そんな事も解らぬとは」
フォレちゃーん!
何でそこで煽っちゃうの!?
「はあ!? マジで何なの!? アンタちょームカつくわね! 喧嘩売ってんの!?」
ほらぁ。
「喧嘩? むしろ妾は哀れんでおるのぢゃ。其方のその悲しい程の無知さ加減にのう」
「はい決定。殺す。マジ殺す」
「2人とも落ち着いて!?」
私が慌てて2人を落ち着かせようと合間に入ると、それを見ていたリリィからもの凄く悍ましい不のオーラの様な物が飛び出した。
な、何事!?
出てる!
私にも見える禍々しい何かが、リリィから出てるよ!?
リリィがセレネちゃんとフォレちゃんを睨む。
セレネちゃんとフォレちゃんは、まるでヘビに睨まれたカエルの様になって、顔を真っ青にさせて大量の汗を流し出す。
「もう我慢出来ないわ。私のジャスミンを、いったい何回喧嘩で困らせれば気がすむのよ? そんなに喧嘩したいなら、ジャスミンに迷惑かけない所でやりなさい。次ジャスミンの目の前で喧嘩して困らせたら、ただじゃ済まさないわよ」
「し、しょーが無いわねー。リリーに免じて――ひーっ! 許して下さいー!」
「な、何を怯えておる。しかし妾も子供では無い。妾も――すまぬのぢゃ! もうしないのぢゃ!」
わぁ。凄ーい。
さっすがリリィ。
ほら見て?
あんなに仲が悪かった2人が、仲良く怯えて抱き付き合ってる。
怯えた顔が可愛い。
って、そんなわけないでしょう!
「リリィも落ち着いて!? 二人が可哀想だよ! 生まれたての小鹿よりプルプルしてるよ!」
「大丈夫よジャスミン。今回は半殺しで済ませるわ」
「大丈夫じゃないよ! って言うか、暴力反対!」
「仕方が無いわね。アンタ達、ジャスミンに感謝しなさいよ」
「する! 感謝する! ありがとうジャス!」
「ジャスミン様、この恩は一生忘れないのぢゃ」
「う、うん」
2人共、トラウマにならなければ良いんだけど……。
って言うか、ねえ、リリィ。
私思うんだ。
私を困らせるのが許せないって気持ちは嬉しいよ。
でもね、でもだよ?
そう思うなら。
「リリィ、どさくさにまぎれて、私のスカートを捲るのを止めてくれないかな?」
私は魔法でスカートを硬化させて、捲れない様に強化する。
「え? でも、二人を止めたご褒美を貰っても良いと思うの」
「ご褒美を上げるのは良いけど、スカートを捲るのは良くないよ!」
私とリリィの戦いが再び始まると、トンちゃん達が私から離れて、地面に座りながら会話を始める。
と言うわけで、私とリリィが死闘を繰り広げている間は、可愛い精霊さん達の会話をご堪能ください。
「ここで休憩ッスね」
「ほらほら、セレネもフォレ様もこっちに来るです」
「え? うん」
「わ、わかったのぢゃ」
「主様! その魔法は使っちゃダメなんだぞ! 大洪水が起きるんだぞ!」
「がお!?」
「プリュは相変わらず心配性ッスね」
「放っておけばいいです。何をやってもリリィには無駄です」
「ボク、最近思うんスけど、いつもいつも同じ事やってよく飽きないッスよね」
「本当です。ラテとしては、ジャスはいい加減諦めれば良いと思うです」
「ちょっとねえ!? 凄い事になってるわよ!? 何あれ? 津波!? 竜巻!? って言うか地震が起きて大地が割れ、って、ヤバいヤバい! 溶岩、溶岩が出てきたー! ヤバいって!」
「いつもの事ッス」
「あ、そう言えば、ラテがハープについて教えてあげるです」
「え!? 今!? マジヤバくない? そんな事話してる場合じゃないっしょ!?」
「いつもの事ッス」
「あれも!? あれもいつもなの!?」
「ハープの都は、乙女の園と言われる女の楽園です」
「え!? マジで説明始まんの!?」
「ハープに立ち寄った冒険者や商人達は、新しい自分と出会える素晴らしい場所だと皆言うです」
「新しー自分?」
「そうです。でも、それが何なのかは、ハープに行った人にしかわからない不思議な場所です」
「何それ? ちょー怖いんですけど? それヤバくない? 嫌な予感しかないわよ」
「そうなんスよね~。だから、ボクは少し行きたくない気持ちがあるッス」
「ラテはそうでもないです」
「えー? 怖くないのー? 行った人にしかわかんないって、結構ヤバいよ」
「そうです? 目の前の、ジャスとリリィの夫婦漫才よりは大丈夫だと思うですよ?」
「……あ~うん。なんか、私も大丈夫な気がしてきたわ~」
「アレと比べるのは卑怯ッスよ」
さて、どうやら、トンちゃん達の会話も一区切りついたみたい。
丁度良いのか悪いのか、そんなタイミングで私とリリィの戦いも決着がつきました。
勝敗は勿論……。
「きゃーっ!」
私の惨敗です。
と言うか、いつも通りに服も脱がされました。




