024 幼女が知る悪魔の秘密
私達は、セレネちゃんが住んでいたお家へとやって来た。
セレネちゃんのお家は、小さくて、外観は不思議な形をしていた。
例えるなら、羊の毛の様なモコモコした感じの見た目で、凄く可愛い。
「可愛いー」
「でしょー? これ、私のデザイン」
私が心の赴くままに声を上げると、セレネちゃんはそう言ってから、ニッと笑って八重歯を見せた。
その顔は、少しだけドヤ顔をしていて可愛くて、私は思わず顔を綻ばせる。
そうして、お家の中に入ってみると、中はワンルームにユニットバスの作りになっていた。
少し驚いたのが、何故かお家の中は日本式で、玄関には靴を脱ぐ場所と靴箱が設置されていた。
私は玄関で靴を脱いで、首を傾げていたリリィに、ここで靴を脱ぐ事を説明して部屋に入る。
すると、部屋の中は、思ったより豪華だった。
高そうでお洒落なインテリア。
ベッドにはバラの柄のクッションが二つ置いてあり、レースの付いたベッドカバーがとても可愛らしい。
ベッドの上からも、レースのカーテンがかかっていて凄く可愛い。
ドレッサーや床に敷かれたマット、それにベッドに置かれた物とは違うクッションもあって、そのどれもが全部可愛いデザインだ。
まるでお姫様の部屋に入った様な気分になって、私は目を輝かせる。
「てきとーに座って~。そこ等辺にあるクッション使っちゃっていーから」
「うん」
私は返事をして、お言葉に甘えて床に置いてあるクッションの上に座る。
すると、リリィが少し驚いて戸惑いながら、私の横にクッションを置いて座った。
そこで私はふと思う。
あ、そっかぁ。
この世界って、基本は靴を脱がないもんね。
そう。この世界では、お家の中でも靴を脱がないご家庭が殆どなのだ。
脱いだとしても、ちゃんとお家の中用の靴があるし、そうで無くても、汚れを落とす用のマットが玄関にある。
私は前世の記憶を思い出してからというもの、お家の中では靴を脱いでスリッパとかに履き替えていたのだ。
気にした事がなかったから、私は今までなんとも思わなかった事だった。
と言っても、気にしなさ過ぎて、たまにその事を忘れて裸足や靴下のままでいるけども……。
とにかくだ。
この世界ではお家の中でも普通は靴を履くので、日本特有の靴を脱いで床に座ると言う感覚は無い習慣なのだ。
リリィが戸惑うのも無理ないよね。
でも、戸惑ってるリリィって、なんだか可愛いかも。
「どうしたの?」
「ううん。何でもないよ」
私がリリィを見てニヤニヤしていたのか、リリィが苦笑して訊ねるので、私はニコニコ笑顔で答える。
「えーと……あ、あったあった」
セレネちゃんがぶつぶつと呟くので、私はセレネちゃんに視線を向ける。
セレネちゃんは、これまた可愛らしいデザインの小さなテーブルを持ち上げて、私とリリィの目の前に置いた。
それから、流し台の所にある小さな扉を開けて、その中からお菓子を取り出す。
「食べていーわよ」
そう言って、セレネちゃんは取り出したお菓子をテーブルに置く。
置かれたお菓子を見て、私は驚いた。
何故なら、そのお菓子はポテトチップだったからだ。
この世界にも、ポテトチップがあったんだと私は驚いたわけだ。
「いただくッス~」
「いただきますです」
「いただくんだぞ」
「いただきまちゅ」
トンちゃんとラテちゃんとプリュちゃんとラヴちゃんは、そう言ってポテトチップに飛びついた。
私が4人の様子を、可愛いなぁと思いながら見ていると、セレネちゃんがテーブルに紅茶を並べ始める。
セレネちゃんって、凄くしっかりしてるなぁ。
私なんかよりよっぽどだよぉ。
あ、このコップも可愛い。
などと私が考えていると、フォレちゃんが私の肩の上に座って、耳元で話し出す。
「ジャスミン様、もしやあれは、ジャスミン様が前世で食したことがある芋の素揚げかのう?」
「うん。ポテトチップだよ。ジャガイモを薄く切って、揚げた物だね」
「おお」
私の説明を聞くと、フォレちゃんはテーブルに飛び乗って、一枚取ってパリッと小気味良い音を食べて食べる。
「美味ぢゃ」
「とーぜんよ」
セレネちゃんは鼻を高くしてそう言うと、テーブルを挟んで私の前に座った。
そして、一口紅茶を飲んで、ゆっくりと話し出す。
「私の姿は全部で三つ。この世界での本来の姿である悪魔、吸血鬼の姿と、今私がなっている人間の姿。そして、神の姿。でも、この世界では神の姿は危険でしょ? だから、普段はならない様にしてるってわけ」
「危険ッスか?」
「そーよ。この世界には悪魔が干渉してる。神は悪魔から恨みを買いやすいから、とばっちりで命を狙われちゃうかもしれないじゃん」
そうなんだ?
って、あ。そうそう。
「気になってたんだけど、魔族と悪魔って違うものなの?」
私が疑問に思っていた事を聞くと、セレネちゃんだけでなく、トンちゃん達精霊さんも私に驚いた顔を見せる。
え?
私変な事言っちゃった?
セレネちゃんやトンちゃん達の反応に私が困惑していると、リリィが顔を顰めながら訊ねる。
「アンタ達には常識なのかもしれないけれど、ジャスミンと私には常識ではないのよ。良いから答えなさい?」
「ふむ。確かに、そうかもしれぬのう。妾達と違い、魔族と悪魔の関係を知らぬ人間は多い」
「そうなのか? アタシ達は生まれて直ぐに世界の理を教えてもらうから、皆そうだと思ってたんだぞ」
「あれ? ラテが契約する時には、ジャスにもその情報はあった筈です」
精霊さんと契約を交わすと、対価の一つとして、己の記憶を全て見せるという物がある。
だから、精霊さん達は契約をすると、その主となる者の記憶を全て知る事が出来るのだ。
私の記憶を知るラテちゃんがそう言ったのには、そういう理由があった。
「え? そうだっけ?」
うーん。
そんな事聞いたかなぁ……。
でも、言われてみると、聞いたような、聞いてないような……。
「ジャチュ、フェニックスから聞いた」
フェニックス、たっくんから……?
私は考える。
フェニックスとは、私を不老不死にしてくれた近所に住むお兄さんのたっくんの事である。
そのたっくんから聞いた事。
正直思い出せない。
「ボクの知らない情報ッスね」
「当たり前です。トンペットと契約をした後で、ラテとは契約をする前だったです。それに、トンペットはその場にいなかったです」
トンちゃんと契約してから、ラテちゃんと契約する前……あ。
私は思いだす。
そう。あれは、ラテちゃんと契約を交わす前。
たっくんから確かに聞いていたのだ。
魔族は悪魔に魂を売った者の事だと。
すっかり忘れてたよ。
「その顔を見るに、思い出したです?」
「うん。魔族が悪魔に魂を売った者って聞いてたよ」
「つまり、どういう事?」
リリィが顔を顰めて訊ねると、トンちゃんがリリィを見て答える。
「じゃあ、ボクから説明するッスよ」
トンちゃんが宙を舞い、テーブルの真ん中の上を飛びながら、私に視線を向けて言葉を続ける。
「まず、一度ご主人にボクからも説明した事があるッスけど、魔族は転生者の成れの果てッス。何故成れの果てと説明したかと言うと、悪魔に魂を売った者の結果が魔族だからッス。だから、ついつい人間達は一緒にしがちッスけど、全く別の存在なんスよ」
そっかぁ。
そういう意味だったんだね。
と言うか、今更だけど少しびっくりだよね。
気にした事が無かったから、魔族と悪魔は、てっきり同じだと思ってたよぉ。
「でも、そうだとしたら、セレネが言った命を狙われるって変よね? 私は悪魔なんて、今まで見た事ないわよ」
うんうん。
「そりゃそーよ。悪魔ってのは神と違って、自分の事を悪魔だなんて言わないからね。あいつ等マジで陰湿よ。何処に潜んでるか分かんないうえに、転生者の魂を狙ってんの。マジキモいわ」
何処に潜んでるか分からないんだ?
だから、セレネちゃんは神様の姿にはならないんだね。
「って、そんな事より、話を続けるわね。悪魔に生まれ変わった私は、自分が悪魔の吸血鬼になっていた事に酷く悲しんだわ。でも、おかげで悪魔の事情も知って、神だった時より世の中に詳しくなったわけ。で、私には他種族に変身する力がある事を知ったのよ」
「それが神の加護ね」
「そーよ。リリーの言う通り、神の加護が転生後も残っていた私は、その力を使って復讐しよーと考えたの。まあ、結果は見ての通りだけどね~」
「ボクからも質問良いッスか?」
「いーわよ」
「魔法の属性はどうなってるんスか?」
「あー、まあ、気になるわよね」
え? どう言う事?
「私の魔法の属性は、悪魔と人間と神のそれぞれの姿で異なるわ。悪魔の時は闇で、人間の時は土、そして神の時は光。と言っても、実は元が悪魔だから、本質的には闇の属性が濃くて、光の属性は強力な魔法が出せないけどね~」
「つまり神の姿になっても、姿が神なだけで、本質は悪魔って事かしら?」
「残念だけどそーなのよ。やんなっちゃうわ~」
えーと……。
私は考える。
と言うか、情報量が多くて頭がパンクしてしまいそうだ。
私なりにお話をまとめると、セレネちゃんは悪魔に転生した転生者。
人の姿と神様の姿に変身出来るけど、本質が悪魔だから、実は姿が変わっただけで中身が変わらない。
だけど、使える魔法は姿によって違う。
そして、神様の姿は悪魔から命を狙われちゃうから、基本なりたくない。
なるほど……。
何となくだけど、分かったかも。
でもそっかぁ。
神様の姿を見れるかもって思ってたから、見れなそうで残念だなぁ。
と、私が考えていたその時、突然セレネちゃんが立ちあがる。
そして、深く深呼吸をして私に視線を向けた。
「ジャス、特別に見せてあげる」
「え?」




