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番外編 幼女のドキドキバレンタイン! ミルクな当日

※今回ちょっと長めです。


 バレンタインデーの日がやってきた。

 精霊さん達にお家でお留守番してもらって、日頃お世話になっている皆に、私は感謝の印にチョコを配り歩いていた。

 そうして、最後にやって来た近所に住むお兄さんのお家。

 たっくんのお家にチョコを渡しに来た私は、面倒事にまき込まれる事になってしまった。


「ジャスミン。オぺ子ちゃんは誰にチョコを渡すと思う?」


 日頃、本当の兄のようになって私を可愛がってくれるたっくんにチョコを渡して、早く帰って精霊さん達と一緒にリリィのお家に行こうと考えている時だ。

 たっくんが真剣な面持ちで、突然そんな質問を私に投げた。


「え?」


 オペ子ちゃんと言えば勿論リリオペで、可愛い男の娘。

 そのオペ子ちゃんの好きな人と言えば……。


 う、うーん……。

 渡すとしたらラーク以外ありえないと思うけど、言わない方が良いよねぇ。


 そんなわけで質問の答えなんて答えられる筈も無く、私は投げられた質問を受け止めずに、避ける選択をする事にした。


「えっとぉ……誰だろうね?」


「俺は義理で良いから貰いたい」


「そうなんだ……?」


 たっくんが私を真剣な眼差しで見つめて、顔を近づける。

 って言うか、もの凄く近い。怖い。


「ジャスミン、オぺ子ちゃんと仲が良いよな? ちょっと聞いて来てくれないか?」


「え?」


「ほら、俺から義理でも良いからチョコがほしいだなんて、恥ずかしくて言えないじゃないか」


「はあ……」


 生返事をしながら、たっくんの横にある山に視線を向ける。


 私の身長の高さほど積まれたそれは、全部バレンタインチョコだ。

 はい。

 そうなのです。

 たっくんは見た目イケメンのロリコン……もといショタコン……あれ?

 いつも思うけど、たっくんは好きなオぺ子ちゃんが男の娘って知らないわけだから、やっぱりロリコンであってるのかな?

 うーん……でも、オぺ子ちゃんは女の子じゃなくて男の娘だからショタなわけで……うん。

 考えるのは辞めよう。

 とにかくだ。

 たっくんは見た目イケメンなので、村の女の子達に非常にモテるのだ。

 最近では今は亡きカジノや大繁盛中の猫喫茶のおかげで、村の外から来る女の子達からもモテまくりで、ファンクラブまでいる程だ。

 そんなたっくんだからこそ、この様に、バレンタインデーにチョコを沢山頂いていたわけなのだけど……。


 私は若干呆れながら、たっくんの顔を見上げた。


「これだけチョコ貰っておいて、今更恥ずかしいって……」


「ジャスミン、勘違いするな。これは、俺がほしいと言って貰ったチョコでは無い」


「どっちでも良いよそんなのぉ……」


 めんどくさいなぁ。

 うぅ……早くお家帰りたい。

 たっくんのお家を最後にして正解だったよぉ……。


「あっ。今、面倒臭いとか思っただろ?」


「うっ……」


「良いかジャスミン? よく聞け。こう言うものはな、自分からほしいと言うには、かなりの勇気がいるんだぞ。前世で男だったお前なら、その位は解かるだろう?」


 解りません。

 そもそも、前世ではチョコなんて、お婆ちゃんからしか貰った事ないです。

 うっ……。

 思いだしただけで心の古傷が……。


「とにかくだ。俺はオぺ子ちゃんのチョコがほしい! 頼むよ! 力を貸してくれ!」


「えぇ……」


 残念すぎるよこのイケメン!

 そんな事、私みたいな幼い女の子に普通は頼まないよね?

 まあ、でも……。


「良いよ。いつもたっくんにはお世話になってるし、手伝ってあげる」


「流石はジャスミンだ! 愛してるぞ!」


「うぅ……愛が重い~」


 私の頭をわしゃわしゃと撫でるたっくんに呆れながら、私は肩を落として呟いた。





 たっくんのお家を出た私は、たっくんのお願いの為に、早速オぺ子ちゃんに会いに行く。

 と言っても、今日はオぺ子ちゃんは猫喫茶で働いている筈なので、私は2日続けて猫喫茶に足を運ぶ事になってしまった。


「いらっしゃいませ~。って、あ。ジャスミン、いらっしゃい。ジャスミンのお気に入りの、三毛猫のミケちゃんは今日はお休みなんだ」


「あ、オぺ子ちゃんだ。そうなんだ? 残念って、そうじゃなくて、丁度良かったよ~。今日はオぺ子ちゃんにお話しに来たの」


「え? 僕に?」


「うん」


 私が頷くと、可愛いウェイトレス姿のオぺ子ちゃんが、目をパチクリとさせた。


「休憩時間って、もう終わったの?」


「まだだよ。本当は後一時間後位なんだけど……そうだね。マモンさんに頼んで、休憩を今から取れないか確認してくるよ」


「本当? ありがとー」


 お礼を言うと、オぺ子ちゃんはお店の奥の方まで行ってしまった。

 それにしてもと、私は考える。


 いつももの凄く滅茶苦茶なマモンちゃん。

 だけど、意外と責任者としては出来る子らしくて、何だかんだと言って皆から頼りにされていたりする。

 魔族ケット=シーちゃん達のまとめ役のリーダーだったり、漫画の編集長的な事もやっていた事あったし、やれば出来る子なんだなぁって感じだ。


 そんな感じな事を考えながら待っていると、オぺ子ちゃんが戻って来た。


「お待たせ。マモンさんが気を利かせてくれて、もし良かったら好きな席でお喋りしてて良いってさ」


「本当? ありがとー」


 そんなわけで、私はオぺ子ちゃんと一緒に席に座って、お話をする事にした。

 オぺ子ちゃんは仕事をしていたので、ご飯をまだ食べていないらしくて、もの凄く大量のサラダを注文して食べ始めた。

 と言うか、家庭用のお鍋に山盛りになる位の量で、正直驚く。


「凄いね……」


 私が顔を引きつらせて呟くと、オぺ子ちゃんが口に含んでいた野菜をごっくんしてから、苦笑しながら答える。


「今ダイエット中なんだ。だから、せめて野菜だけでも沢山食べたいなって思ってね」


「え? ダイエット中なの?」


 少し驚いて訊ねる。

 すると、オぺ子ちゃんは頬をほんのりと赤らめて、私から目を逸らして答える。可愛い。


「ええっと、さ。今日って、バレンタインデーでしょ? だから、ラークに手作りしたチョコをプレゼントしたくて……も、勿論、友達として、うん。友達としてなんだけど、せっかくだし美味しいって思って貰えたらって思って、ちょっと前から練習を始めたんだ。それで、練習で作ったチョコの食べ過ぎで……ははは。馬鹿みたいな話だろ?」


 可愛い! ホントに可愛い!

 オぺ子ちゃん可愛すぎだよ!

 思わずキュンキュンしちゃうよ!

 って、あっ。


「オぺ子ちゃん。あの、あのね?」


「うん?」


「そのぅ……、ラーク以外にチョコを渡すご予定は?」


「え? ラーク以外? 今の所無いけど?」


「……そっか」


 たっくん、どんまい!


「あ、そうだ。でも、結構張り切ったせいで作りすぎちゃってさ。良かったらジャスミンも貰ってよ」


「え? 本当? やったー! ありがとー! それなら、私もオぺ子ちゃんにあげるよ」


 本当は、オぺ子ちゃんには渡すつもりは無かったんだけど、そう言う事ならいいかなぁ。


 チョコを渡すつもりが無かったと言うのも、実は理由がある。

 オぺ子ちゃんは、この通り恋に恋する女の子。あ、男の娘。

 万が一オぺ子ちゃんにバレンタインチョコを渡している所を、あのバカなラークに見つかりでもしたら、変な方向に勘違いをされてしまう可能性が十分にあるからなのだ。

 ちなみに、同じ様な理由で、私はラークには絶対渡さない。

 あんなおバカに渡したら、勘違いして、また俺に惚れたのかとか言われてムカつくだけに決まっているのだ。


「友チョコの交換だね」


 私とオぺ子ちゃんは微笑み合うと、そこでママがやって来た。


「ジャスミン、チョコはもう配り終わったの?」


「あ、ママ。うん、終わったよ」


 ママは猫喫茶の厨房の責任者でここにいてもおかしくないのだけれど、わざわざ客席に何をしに来たのだろう? と、私は不思議に思って首を傾げる。


「そう。なら良かったわ」


「え? 何で?」


 私が更に首を傾げると、ママがとんでもない事を言いだした。


「今日はルピナスちゃんが朝からの仕事だったのだけど、早くチョコを渡したいって言っていたのよ。だから、行って来ていいわよって言って、渡しに行かせてあげたの。それで、お昼前に戻ってねって約束もしたのだけど、まだ帰って来ないのよ」


「えーっ!? そうなの!?」


 驚いてオぺ子ちゃんに訊ねると、オぺ子ちゃんは苦笑しながら頷く。


「誰にとかは聞いてないから、誰に会いに行ったのかは分からないんだ」


 えらいこっちゃ!

 えらいこっちゃだよ!

 ま、まままま、まさか!?


「ルピナスちゃんが大人の階段上っちゃう!」


 私は勢いよく立ち上がり、ルピナスちゃんを捜しに行……行こうと思ったのに、ママに肩を掴まれて止められた。


「なあに? ママ。今私は忙しいの!」


「そうね。そう言うわけだから、手伝って?」


「え?」


「獣人は十歳で大人。そして、ルピナスちゃんも十歳になれば、獣人だから大人になるでしょう? 好きな男の一人や二人、いたっておかしくないもの。だから、そっとしてあげないといけないでしょう?」


「一人はともかく、二人はおかしいと思……って、そうじゃなくて、手伝ってってどう言う事? と言うか、ルピナスちゃんは私の1つ下だから、まだ子供だよ! 大人じゃないもん!」


「子供とか大人とかは置いておいて、とにかくジャスミン、人手が足りないのよ。手伝ってくれるわよね?」


「ええーっ!」


「副店長……マモンちゃんも言っていたわ。問題無いって」


「問題大ありだよ!」


「でも、困ったわねぇ。ジャスミンは皆から優しい良い子だって噂されているみたいだし、もし断られたら、本当は優しくない悪い子だって噂になっちゃうわ」


「良いよそれでー。そんなの、私には関係ないもん」


「そう、それなら仕方が無いわね」


 ママが諦めてくれたようなので、私はオぺ子ちゃんにお礼を言ってから、お店を出ようと歩き出す。

 すると、私がお店を出る直前で、ママからの痛恨の一言を食らってしまった。


「はあ。きっとパパが悲しむわ。娘が悪い子になっちゃったって。パパ、ジャスミンが皆から褒められていて、凄く喜んでいたのに」


 …………もおおおおおおおおっっっっっ!!

 パパを引き合いに出すなんてズルい! ママ嫌い!


 そんなわけで、オぺ子ちゃんが苦笑する中、私は泣く泣くママの許に戻って手伝うと言ったのでした。





 つ、疲れたぁ……。


 ママのせいで猫喫茶でお仕事を手伝う事になってから数時間後、既に陽が沈みかけていて、周囲は夕焼けに染まっていた。

 結局ルピナスちゃんは猫喫茶に帰って来ず、私はこんな時間までお手伝いをさせられてしまったと言うわけだ。


 やっと解放された私は、たっくんにオぺ子ちゃんから貰ったチョコを自慢して、お家に帰る所だ。

 自慢したと言っても、羨ましがって項垂れていたたっくんに、ちゃんとオぺ子ちゃんからの義理チョコを渡してあげたけどね。


 お手伝いが終わってから、オぺ子ちゃんにたっくんに会いに行く事を伝えたら、もし良ければと受け取っていたのだ。

 流石にラーク以外の男の人に、義理チョコ……じゃなかった。

 友チョコとは言え、同性相手に渡すのは、少し恥ずかしいようだった。


 さて、それはさておきとしてだ。

 本当に疲れ果てた私は、既にルピナスちゃんの意中の人を捜しに行く気力も無くて、トボトボとお家に帰る。

 それに……。


 リリィにチョコ、渡しそびれちゃった。

 うぅ……、リリィのチョコも楽しみにしてたのに……。


 そんな事を考えながら、どんよりと玄関の扉を開く。

 すると……。


「あ、ジャスミン。お帰りなさい」


「リリィ!?」


「ジャスミンお姉ちゃん、お帰りー!」


「ルピナスちゃんも!?」


 玄関を開けて目の前に立っていたリリィとルピナスちゃんに驚いて、私がその場で動けなくなると、精霊さん達も玄関までやって来た。


「ご主人、遅かったッスね」


「何処で寄り道してたです?」


「主様、お帰りなさいなんだぞ」


「ジャチュー。おかえりー」


「ジャスミン様、お帰りなさいませなのぢゃ。夕飯の準備は出来ておるぞ」


「おかえり、ジャスミンたん。おいたんも手伝ったんだよ~」


「ウィルはお皿を並べていただけだったの~」


「皆ただいま!」


 うう! 何これ!?

 嬉しすぎて元気が出て来たよ!

 今日は色々と大変だったけど、そんなのもうどうでも良いや!

 って、あれ?

 そう言えば……。


「ルピナスちゃん、いつから私の家にいたの?」


 私が不思議に思って質問すると、ルピナスちゃんははなまる満点素敵な笑顔で答える。


「朝からだよ!」


 や、やっぱり!?

 あれ?

 待って!?

 じゃ、じゃあ、じゃあじゃあもしかして!?


「ジャスミンお姉ちゃん、バレンタインチョコだよ!」


「ジャスミン、はい。私からも」


 リリィとルピナスちゃんが同時に、可愛く綺麗にラッピングされたチョコを私に差し出す。

 私はそれを受け取ると、溢れだす感情が抑えられなくなってしまった。


「あ、ありがどおおおおおっっ!」


 嬉しさのあまり感極まって、私は号泣しながら、リリィとルピナスちゃんに思いっきり抱き付いた。

 突然号泣して抱き付いた私に、リリィとルピナスちゃんが眉根を下げて困惑する。


「もう、どうしたのよ?」


「ジャスミンお姉ちゃん、泣かないで?」


 2人に頭を撫でられて、私は涙を拭いながら体を離した。


「うん、ごめんね。あ、そうだ。2人のチョコ、どんなのか見ても良い?」


「ええ。勿論よ」


「いいよ」


 2人から許可も貰えたので、まずはルピナスちゃんから受け取ったチョコのラッピングを丁寧に外していく。

 丁寧にラッピングを外すと箱が出てきたので、私はドキドキしながら箱を開けた。

 そして、箱を開けて私の目の前に現れたのは、とっても素敵なワンちゃんと猫ちゃんの顔のチョコだった。

 すっごく可愛くて、食べるのがもったいないくらいだ。


「可愛い。ありがとー、ルピナスちゃん!」


「うん!」


 私とルピナスちゃんは微笑み合い、それから、私はリリィから貰ったチョコのラッピングも丁寧に外す。

 リリィの方はラッピングを外すと透明な箱が現れて、箱に入ったままでも中身が確認できた。


「わあっ。綺麗……」


 透明な箱に入っていたのは、とても綺麗なジャスミンとリリィの花の形をしたチョコだった。

 そのチョコを見た瞬間に、私の心は奪われた。

 ジャスミンとリリィの花の形をしたチョコはもの凄く細密で、まるで本物の様に美しい。

 その2つの花が綺麗に重なり合い、とても素晴らしい芸術作品の様だった。


「うふふ。気に入ってくれて良かったわ」


「うん、うん。2人とも、本当にありがとー。凄く、すっごく嬉しいよ!」


 今日は素敵なバレンタイン。

 女の子にとってドキドキで、ちょっと勇気が出る不思議な日。

 大好きな人やお世話になってる人、それに一緒に笑い合える大切なお友達にチョコをプレゼントして、自分の気持ちに正直になれる素敵な一日。


 私も大切なお友達と精霊さん達に囲まれて、一緒に笑って素敵なバレンタインの日を過ごす。

 今日も周りから一日中振り回されちゃった私だけど、皆のおかげで、とっても楽しい思い出がまた一つ増えました。


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