171 幼女が今日も悲鳴を上げる
今日は待ちに待ったスピリットフェスティバル。
そして今は後夜祭。
目に映るのは、満月の夜に、底の浅い綺麗に輝く川の上で舞い踊る精霊さん達。
川は、まるで鏡の様に、幻想的に精霊さん達の舞いを映す。
蛍の様な淡い光が周囲を照らし、私はリリィと一緒に踊りを眺めていた。
私は精霊さん達が楽しく踊る姿を見ながら、静かにリリィに話しかける。
「ねえ、リリィ。本当に断って良かったの? 不老不死にしてくれるって言うセレネちゃんとの約束」
「良いのよ。だって、ジャスミンの提案の方が魅力的だもの」
「そっか……あっ。トンちゃん達が出て来たよ」
「うふふ。そうね。しっかり見てあげないとね」
「うん!」
私とリリィがお喋りしていると、トンちゃんとラテちゃんとプリュちゃんとラヴちゃんが可愛らしい衣装に着替えて、他の精霊さん達と一緒に川の上にやって来た。
トンちゃんもラテちゃんもプリュちゃんもラヴちゃんも皆違う衣装を着ていて、それぞれ各属性のイメージカラーの衣装だった。
そして、その姿はもの凄く可愛くて、今直ぐギュウッて抱きしめたくなる程だ。
トンちゃん達はぺこりと可愛らしくお辞儀をして、早速楽しそうに踊りだす。
お辞儀をする時にラヴちゃんだけ少し遅れて慌てていたのが、申し訳ないけど凄く可愛くて、私は思わず顔をニヤけさせてしまう。
「フォレとウィルとシェイドは最後だっけ?」
「うん。元のサイズにならずに、私と一緒にいる時のサイズで頑張るんだって、張り切ってたよ」
「ドゥーウィン達に対抗心燃やしちゃったのね」
「そうかも」
私とリリィはクスリと笑い合う。
トンちゃん達の舞いは、とても華やかで、とても綺麗で可愛かった。
全ての精霊さん達が宙を舞い、宙を舞う淡い光を風が運び、川の水が精霊さん達を中心に弧を描き、小さく綺麗な打ち上げ花火が精霊さん達を明るく照らす。
皆が凄く輝いていて、私は思わず目を奪われた。
トンちゃん達の舞いが終わると、今の内にと立ち上がる。
「リリィ、フォレちゃん達の出番が来る前に……しよっか」
「そうね」
リリィも返事をすると立ち上がり、私はリリィと手を繋いで歩き出した。
とくに何処か目的の場所があるわけでは無かったけど、何となく、人気の無さそうな所を求めて歩く。
「そう言えば、ジャスミン。ドゥーウィンとプリュから聞いたのだけど、あの後、神とお友達になったって本当?」
歩いている途中にリリィが話しかけてきて、私は振り向かずに、そのまま歩きながら答える。
「うん。次の日に、セレネちゃんが友達になるんでしょって言って、ゼウスさん達をお家に連れて来てくれたんだよ」
「はあ? 何よそれ? 小母様と小父様にご迷惑じゃない」
「えー? そんな事ないよぉ。パパもママも大歓迎だったんだから~」
「流石はジャスミンのお母様とお父様ね。宇宙より心が広いわ」
「あはは。それは言いすぎだと思う」
でも、パパとママが褒められて、凄く嬉しいけどね……って、あ。
そう言えばだけど。
「ゼウスさんが結婚を前提にお友達からとか言いだした時は、流石にパパとママも困ってたなぁ」
「ジャスミンごめんなさい。少し急用が出来たわ」
「え!?」
振り向くと、リリィの顔がもの凄く怖い鬼の様な形相をしていた。
と言うか、今にも走り出しそうだ。
私は慌ててリリィの手を握る手を離して腕を掴んで、リリィが走りださない様に腕を抱きしめる。
「待ってリリィ!」
「止めないでジャスミン。ただの老害駆除を思い出しただけだから」
「そんな害虫駆除みたいな言い方しないで! って、それより、私との約束の方が大事でしょ!」
「……そうね。ごめんなさい。後にするわ」
結局後から行くんだね……。
私は何だかドッと疲れを感じながら、再び歩き出した。
すると、少し他より高い丘の様な所を見つけて、そこに登った。
「わあ、綺麗だね」
「本当ね」
登った先は、辺り一面の景色を一望出来る様になっていて、スピリットフェスティバルで踊る精霊さん達の姿も見える素敵な場所だった。
暫らくの間リリィと一緒に景色を眺めて、私はごくりと唾を飲みこんで、リリィに体を向けて真剣に話しかける。
「リリィ、約束……」
「ええ」
リリィも私に体を向けて、静かに返事をして、柔らかく微笑んだ。
私は一度大きく深呼吸して、真っ直ぐとリリィの顔を見つめる。
リリィと目がかち合い、私はリリィの胸の中心に右手を当てて、ゆっくりと言の葉を紡ぐ。
「この先何があっても、我等は共に生き、共に歩み、共に終わりを迎える事を約束しよう」
私が右手で触れたリリィの胸の中心が淡く光り、周囲を照らす。
「何千何万の時が流れようと、変わらず我と共に生きる証を、今ここで汝に刻む」
リリィの胸の中心に、淡く光るジャスミンの花の絵が刻まれた。
そしてそれは、淡く光る光と共に静かに消えていった。
「契約完了。でも、本当によかったの?」
「良いのよ。セレネに不老不死にしてもらうより、こっちの方が良いに決まってるじゃない」
「そっか……」
私がリリィに使ったのは、私が死ぬまで、リリィもずっと今と変わらず生き続けると言う契約の魔法。
正直、呪いに近いものがある。
だけど、リリィは単純に不老不死になるより、私と一緒に同じ時を同じだけ生きた方が良いと受け入れてくれた。
「私ね、嬉しかったのよ」
「え?」
「以前、ジャスミンが一度命を落としそうになった事があったでしょう? あの時は、本当に絶望していたのよ。もう、世界の終わりとさえ思える程にね」
「なんとなく、わかるかも……」
暴走したゼウスさんにリリィが殺されそうになった時、私も本当に辛くて悲しかった。
実は言うと、あれがあったからこそ、私はリリィと契約する魔法を思いついたのだ。
「結局神を相手にしてしまえば、不老不死なんて全く役に立たないし、実際にジャスミンがいつ死んでもおかしくなかったでしょう?」
「うん」
私が今も無事でいられるのって、リリィと皆に護られたおかげだもんね。
「私は思っていたのよ。不老不死にしてもらった所で、もしそれでジャスミンが先に死んでしまったら、生きていく意味があるのかどうかって」
「リリィ……」
「勿論ドゥーウィン達もいるし、きっとあの子達が一緒にいてくれるだろうけど、ジャスミンがいない世界なんて耐えられそうにないわ」
それは私も一緒だった。
「私もリリィがいなくなっちゃったら、辛いって思ったよ」
私とリリィは見つめ合い、柔らかく微笑んだ。
そして……。
「あ、いたッス! まったく~、探したッスよ! 皆こっちッスー!」
「と、トンちゃん!?」
声に驚き振り向くと、トンちゃんとラテちゃんとプリュちゃんとラヴちゃん、そして。
「でかしたぞ! これで怖いものは何も無いわ!」
「ま、マモンちゃん!?」
マモンちゃんが直ぐ側までやって来ていた。
リリィがあからさまに嫌そうな顔をマモンちゃんに向ける。
「何でアンタがここにいるのよ?」
「アスモデの、猫喫茶を消したお仕置きから逃げて来たらしいです」
「そうだぞ! リリィ=アイビー! 猫喫茶が吹っ飛んだのはお前のせいだから、お前が責任取れー!」
「はあ? そんなのポセイドーンの馬鹿にさせればいいでしょう? 私はとらないわよ」
「そのポセイドーンが何処にもいないんだ!」
「そ、そうな――」
「あ~、あのエロ猫なら天界に帰ったよ」
「――んひゃあっ!? せ、セレネちゃん!?」
突然背後からセレネちゃんが現れて、私は驚いて振り向いた。
「ちょーキモイし、ちょーど良かったっしょって、どったんジャス? 変な声出して」
「何でセレネちゃんがここにいるの? ゼウスさんに神様に戻して貰ってって、あれ? 元に戻ってる……?」
ゼウスさんを私の家に連れて来たセレネちゃんは、ゼウスさんに神としての力を完全に戻して貰っていた。
だから、セレネちゃんはアルテミスの姿になり、神様達が暮らす天界と言う所に戻った筈なのだ。
だけど何故か今まさに私の目の前にいて、しかも、ロリっ子な小さな姿のまま立っていた。
「ん~。あっちにいてもつまんないし、もー少しジャス達と一緒にいるよてーに、へんこーしたの」
セレネちゃんはそう言うと、ニッと笑って可愛らしい八重歯を見せた。
「そ、そっか……」
い、良いのかなぁ?
私は嬉しいけど……ゼウスさん寂しがりそう。
何だかんだ言って、凄く溺愛してたもんね。
「主様、リリさんと契約を終わらせたのか?」
「え? うん。さっき済ませたよ」
「残念だぞ。見たかったんだぞ」
「がお」
プリュちゃんとラヴちゃんがおめ目をうるうると潤ませる。
「ご、ごめんね」
私は悪い事をしたなと思って、2人の頭を撫でてあげた。
「お前等! 私の話を無視するなー! ちゃんと真剣に話を聞けー!」
「一々煩いわね。あんたの話なんて誰も聞きたくないのよ」
「何をーっ!? もう怒ったぞ! リリィ=アイビー!」
「ねえ、ジャス。マモンって、いっつも怒ってない? しょーじきウザい」
「確かにいつも怒ってるけど、ウザいは言いすぎだよ」
「ラテもウザいと思ってるです」
「ラテちゃんまで、そう言う事言わないで?」
「主様、もう直ぐで大精霊様達の出番なんだぞ」
「あっ! 早く戻らなきゃ!」
フォレちゃんとウィルちゃんとシェイちゃんの踊りもきっと可愛いんだろうなぁ。
なんて呑気な事を考えていると、いつもの様に事件が起こってしまう。
「今日こそ決着をつけてやるぞ! リリィ=アイビー! 甘狸のパンツをどちらが先に脱がせるか勝負だ!」
「え!?」
「ふん。良い度胸ね、マモン。その勝負、乗ったわ!」
「乗らなくていいよ! って言うか、フォレちゃんとウィルちゃんとシェイちゃんの踊りが始まっちゃうよ!」
「大丈夫よジャスミン。一瞬でケリをつけるわ!」
「全然大丈夫じゃな――って、きゃあああっ! ちょ、ちょっと待って、ちょっと待ってってば! 今それどころじゃって、マモンちゃん本当に待って! 何これ!? 凄いヌルヌルするよ!?」
突如始まるおバカな戦い。
私に降りかかるよく分からないヌルヌルした液体。
これからフォレちゃん達の踊りを見に行かなくてはいけないと言うのに、もの凄くお風呂直行なヌルヌルベタベタな状態になってしまった。
と言うか、本当に勘弁してほしい。
「どうだ甘狸! これでパンツが脱げやすくなっただろ!」
「くっ! やるわね、マモン! だけど、私だって負けないわ! それを利用して、必ずジャスミンのパンツを脱がしてみせる!」
「利用しなくていいよ!」
「ご主人、ボク達は先に行ってるッス」
「え!? トンちゃん!?」
「おバカにはつきあってられないです」
「ラテちゃん待って!?」
「ラーヴ、アタシ達も邪魔したら悪いから、先に行くんだぞ」
「がお」
「待って!? プリュちゃん! ラヴちゃん! むしろ邪魔して!?」
「ジャス、精霊達は私がめんどーみてあげるから、安心して良いよ」
「セレネちゃんも爽やかな顔してないで止めてよぉ! 待って!? お願いだから行かないでーっ!? って、ちょっ――嘘でしょう!? 何それ!? そんなのそんな所に入らないよぉ! お願いっ! ダメだってば! え!? ちょ、ちょっと待って!? 本当に待ってってば! 何でリリィもマモンちゃんも、2人で力を合わせてる感じになっちゃってるの!? 本当にお願い! 脱げちゃう! 本当に脱げちゃうから! やめ――――きゃああああああっっっっ!!」
~ あとがき ~
『幼女になったので不老不死になりました~神々残滅大作戦?ううん。お友達大作戦だよ!~』は、今回が最終話になります。
今作は前作より短くなってしまいましたが、書き始めた当初から考えていたお話を、全て書く事が出来ました。
これも、ひとえに応援して下さった皆様のおかげだと思います。
最後まで読んで下さり、皆様本当にありがとうございました。




