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170 幼女は鼻歌を歌いパンケーキを焼く

 死にかけで泣いているゼウスさんを治療し終えると、セレネちゃんがもの凄く不機嫌な顔で私を睨んだ。


「ジャス、何でパパを殺さなかったの?」


「何でって……そんなの可哀想だし、ダメだもん」


「何それ? マジありえないし」


「仕方が無い! 甘狸だからな!」


「父親に死ねば良いのにって思う気持ちは分かるけど、ジャスミンを責めるのは筋違いよ」


「リリィもセレネちゃんも、パパを大切にしてあげようよ」


「いくらジャスミンの頼みでも、それは出来ないわね」


「そーそー。パパとかちょーウザいだけだし」


 リリィとセレネちゃんが、うんうんと頷き合う。

 するとその時、私達のお話を聞いていたゼウスさんが号泣して、突然私の手を握った。

 私が驚いてゼウスさんに視線を向けると、ゼウスさんが号泣しながら話し出す。


「なんて心の優しい幼女なんだ。儂は感動した。流石は最年少天才魔性のバニー幼女ディーラー……いいや、女神ジャスミンちゃんだ!」


「は、はあ……」


 私が困惑していると、サガーチャちゃんがゼウスさんに話しかける。 


「ゼウス神。それは今更と言うものだよ。我がドワーフの国では、ジャスミンくんは【パンツの女神】と同胞達から崇められているのだよ」


 うっ。

 嫌な思い出が……。


「なんと!?」


 ゼウスさんが驚き、ごくりと唾を飲み込んで、真剣な面持ちで呟く。


「確かに、先程助けてもらおうと必死に足を掴み、ジャスミンちゃんの顔を見上げた時に見えたおパンツ。まさに、あれは【パンツの女神】の名に相応しい神々しさがあった。あのおパンツを見たおかげで、儂は己の過ちに気付けたと言っても、過言では無い!」


 真剣な顔で何言ってるの?

 って言うか、絶対過言だよ?

 女の子のパンツ見て過ちに気付くって、むしろその行為が過ちを犯してるよ?

 

「ジャスのパンツ見て興奮するとか、パパサイテー。マジキモい。早く死ね」


「羨ましすぎる! おいたんもまだジャスミンたんのパンツを覗いた事ないのに!」


「いつでも見れる私は高みの見物なのよ」


「全く、アンタ達全然わかって無いわね。恥ずかしがるジャスミンのパンツを見るからこそ、価値があるんじゃない」


「うむ。ただ見るだけでは、本来の魅力の八割しか堪能出来ぬのぢゃ」


「八割って、結構高いッスね」


「何言ってるのよドゥーウィン。百パーセントでないと、意味が無いじゃない」


「す、凄い。なんてかっこいい考え方だよ~。おいたん、リリィ隊長についていきます!」


 ……うん。

 とりあえず、この変態達は放っておこう。

 そんな事より、パパとママはどうなったんだろう?


「サガーチャちゃん、私のパパとママって、今何処にいるの?」


「ああ、ジャスミンくんのご両親かい? それなら、今はハッカくんとレオくん、それに大精霊達と一緒にカジノ跡地に行っているよ。アレースが村の住人が無事か確認する為に、人を集めているんだ」


「そうなんだ……って、カジノ跡地?」


 カジノ跡地って、どう言う事だろう?

 ……あ、そっか。

 裁判で中身が無くなっちゃったもんね。


 と、私は考えたのだけど、どうやら違うらしい。


「ジャスミンくんに渡した【空間隔離装置アイソレーションくん四号】は、急ぎで作ってしまったせいで、欠陥が他にもあったんだ」


「欠陥?」


「ああ。実は別空間で発生したエネルギーの受け入れ先を、こちら側で作る必要があってね」


「あ、わかったです。その受け入れ先がカジノだったです?」


「ラテールくん、正解だ。その通りさ。おかげで、カジノは跡形も無く消えてしまって、今あそこには何も無いんだよ」


 ……うん。

 ラーク、流石にごめんねだよ。

 後で謝ろう。


「ガーチャ、ちょっと質問するの~」


「何だい? シェイドくん」


「我達が別空間に入ってから、こっちではどの位時間が経っているの~?」


 え?


「ああ、よく気がついたね。実は、それも欠陥の一つなんだよ」


「がお?」


「ジャスミンくん達が隔離された空間に行ってから、こちらでは三時間程度の時間が流れていたんだよ」


 3時間!?


「そんなに経ってたんだぞ!?」


「いや~、本当にすまない事をしたね。私も、これに気がついたのはジャスミンくん達が戻って来てからなんだ。向こうでは、そこまで時間が経っていなかったんだろう?」


「うん。多分1時間どころか、30分も経ってないかも」


「だろうね。これの動作時間を見たら、丁度その位だったよ」


 サガーチャちゃんはいつの間にか【空間隔離装置アイソレーションくん四号】を回収していた様で、私にそれを見せて苦笑した。


 成程、そう言うのもわかるようになってたんだね。

 でも、何だか納得したよ。

 私達が別の空間に行ってから、そこまで時間が経ってない筈なのに、意外と皆が結構元気だったから不思議だったんだよね。

 サガーチャちゃんとアマンダさん以外は気を失っていたのに、目覚めたばかりとは思えない程な感じだし。

 3時間もあれば、気絶から目を覚ましたり、他にも色々変化があってもおかしくないもん。

 って、そう言えばだけど、セレネちゃんが時間かかりすぎだって言ってたけど、そう言う事だったんだね。


「ジャスミン」


 アマンダさんに声をかけられて振り向いて、私は驚いてきゅんきゅんする。

 アマンダさんはいつの間にか猫ちゃんと海猫ちゃん達に囲まれていて、頭だったりメイド服だったりに、しがみ付かれていて可愛い事になっていた。

 正直言ってかなり羨ましい光景に、私は尊敬の眼差しをアマンダさんに向けた。


「ごめんなさいね。今からこの子達を、飼い主の所に連れて行くから、暫らくここを離れるわ」


「ニャーも姉様について行くにゃ」


「私も行きたい!」


「ジャスは駄目です」


「えー!? 何で?」


「忘れたですか? シェイクをテイクアウトしに行くです!」


「あっ……」


 そう言えば、そうだったね。

 って、うん?


「でもラテちゃん、カジノ無くなっちゃったし……」


 私が言い淀むと、ラテちゃんが不敵に笑い、ドヤ顔を私に見せる。


「その事なら心配ご無用です。シェイクを作った人に、作って貰えばいいです!」


「え? えぇっと……う、うん」


 どうしよう?

 多分機械的な物で作ってる筈だから、そんな人いないと思うだなんて言えない。

 でも、今言わないと、ラテちゃんが期待に胸を膨らませた状態で悲しむ事になっちゃう。

 そんなの可哀想だよ。

 うぅ……。

 でも、何て言えば……。


「そろそろ、行って来るわね」


「あ、うん」


 アマンダさんとナオちゃんが猫ちゃんと海猫ちゃん達を連れて行ってしまった。

 私は後ろ姿を見送りながら、何て説明しようか悩む。


 うぅ……。

 本当にどうしよう?


 残念ながら、どうすればいいのか、全く思い浮かばない。

 だけどそんな時、サガーチャちゃんが私に提案する。


「ジャスミンくん、シェイクを作る装置なら、私が作ろうか?」


「え? 本当?」


「元々、あの装置は私が作ったものだからね。必要な材料さえあれば、あの程度なら直ぐ作れるよ」


「ありがとー! サガーチャちゃん!」


「流石博士です」


 良かったぁ。

 一時はどうなる事かと思ったよ。

 よーし!


「それなら、私もパンケーキを作らないとだね!」


「マジッスか? やったッス~」


「主様のパンケーキ、久しぶりなんだぞ~」


「がおー!」


「ジャシーのパンケーキ、ちょっと気になってたから楽しみにしてたの~」


「私も早速シェイクを作る装置の作成に取り掛かろう」


「あら? なあに? ジャスミン、パンケーキを作るの?」


「甘狸のパンケーキは美味いからな! 食べてあげるわ!」


「おいたんはジャスミンたんのお尻のパンケーキを食べたいな~」


「ウィスプ様の分は無いから安心するです。そしてどっかに行くです」


「ラテちゃん辛辣なのよ」


「気にするでない、スミレ。ウィルオウィスプが愚かなだけぢゃ」


「では頂くとしよう。我等が【パンツの女神】様のパンケーキとやらを」


「は? パパの分があるわけないっしょ。ずーずーしすぎ」


 皆が楽しくお喋りを始めて、私はパンケーキを作りだす。

 せっかくだから、沢山作って村の皆にも食べて貰おう。


 次第に、私が作るパンケーキの甘い匂いが村中に漂い始めて、気がつけば村の子供達や観光に訪れた親子連れが集まりだす。

 私は鼻歌まじりに楽しくパンケーキを作り、皆にパンケーキをご馳走して振る舞った。

 気が付くと、アマンダさんとナオちゃん、それに猫ちゃんや海猫ちゃん達が戻って来ていた。

 そして、思いがけずに、素敵な猫喫茶が出来上がる。


 メニューは私の作るパンケーキと、サガーチャちゃんのシェイク。

 疲れた心を癒してくれるのは、可愛い猫ちゃんと海猫ちゃん達。

 精霊さんやリリィ達も私を手伝ってくれて、私の作ったパンケーキや、シェイクを集まってくれた皆に運んでくれる。


 何だか私が思っていたのとは違う形になってしまったけど、大好きな人達や可愛い猫ちゃんと海猫ちゃん達に囲まれて、私は楽しく猫喫茶を堪能する事が出来たのでした。


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