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168 幼女が困惑する最後の希望

 ゼウスさんが雄叫びを上げながら、私達に向かって飛翔する。


「オオオオオオッッッ!!」


 リリィがゼウスさんに飛びかかって、リリィの蹴りとゼウスさんの拳がぶつかり合い、大気が震えて大地が割れる。


 私は両手に魔力を集中しながら、サガーチャちゃんから貰ったサーチリングをゼウスさんに使う。

 そして、映し出されたゼウスさんの情報量に驚いた。


 何これ!?


 天神の加護、封眠の方舟、記憶復元、戦神の加護、雷神の加護、海神の加護、生命操作、魂吸力操、冥神の加護、戦友の盃、永眠爆睡、炎神の加護…………。

 数えきれない程の加護と能力が表示され、私は途中で見るのをやめる。


 あはは。

 思わず笑っちゃうよ。

 だって、ゼウスさんも、リリィとは別方向でチートなんだもん。

 でも、私だって負けてられないよ!


 両手を前に出して、赤色の魔法陣を浮かび上がらせる。

 そして、両手に集中していた魔力を一気に解放する。

 使うのは炎の魔法。

 一瞬で灰になる程の灼熱の炎が、真っ直ぐとゼウスさんに向かって飛んで行く。


 ゼウスさんが炎を避けて、瞬きする間もなく私に一瞬で接近する。


「ジャスミン!」


 リリィが私の名前を叫んで、私を護る為に走り出すけど、間に合いそうにない。

 だけど、心配ご無用。

 私だって、いつまでも護られているばかりじゃいられないのだ。


 目の前に魔法で光の壁を作りだし、ゼウスさんの攻撃を――


「きゃああっ!」


 ゼウスさんの攻撃から身を守ろうとしたのだけど、ゼウスさんは攻撃なんてしてこなかった。

 ゼウスさんが取った行動はスカート捲り。

 もの凄い速度で私の背後に回り、ワンピースのスカートを手で掴み、おもいっきり捲ろうとしてきたのだ。

 おかげで光の壁なんて全く意味も無く、悲しくも光の壁はそのまま儚く消え失せる。


「な、何でぇえええー!?」


 私は直ぐに魔法を使ってスカートを硬化させる。

 そして、もちろんそれだけじゃない。

 スカートが私の太ももから離れない様に、もの凄く強力な重力を太ももとワンピースのスカートの間に発生させた。


「コノ罪深キ世界ニイイイイッッ! 死ヲオオオッッッ!!!!」


「言ってる言葉とやってる事が全然かみ合ってないよ! 滅茶苦茶だよーっ!」


「ウオオオオオオオオオオッッッッ!!!」


「いいぃぃぃやあああっっっ!!」


 本当に何なのこの神様!

 本当に神様なの!?

 って言うか、いい加減スカート離してよ!


「離れなさいよ!」

れ者が!」


 ゼウスさんに向かって、リリィが回し蹴りをして、フォレちゃんがゼウスさんに丸太をぶつけて吹っ飛ばす。

 ゼウスさんは数十メートル先で転がって、直ぐに拳で地面を殴って、その反動で跳んで立ち上がった。


「あの老害、どう言うつもりよ?」


「わからぬ。ゼウスは何故ジャスミン様の下着を狙うのぢゃ?」


 リリィとフォレちゃんが真剣な面持ちで話すと、トンちゃんが答える様に呟く。


「パンドラの箱の話を聞いてから、ボクはずっと考えていた事があるッス。それはパンドラの箱の最後の希望ッス」


「何? 最後の希望ぢゃと? 何かわかったのか? 申してみよ」


「はいッス」


 トンちゃんが真剣な眼差しを、一度私に……私のワンピースのスカートに向けてから頷く。


「パンドラの箱の最後の希望、それは、ご主人のパンツッスよ!」


 トンちゃんがおバカな事を真剣な面持ちで話して、その途端に、何故か雷がリリィとフォレちゃんに落ちる。


「な、なんですって!?」

「な、なんぢゃと!?」


 リリィとフォレちゃんが驚愕の眼差しをトンちゃんに向けて、ごくりと唾を飲み込んだ。


「よく考えても見るッス。老害神の行動は、パンドラの箱に残った最後の希望を得ようとする、暴走化した老害神の本能なんスよ。老害神は、ご主人のパンツを手に入れる事で、パンドラの箱の中身を全てを得ようとしているッス!」


「なんて事なの!? そう言う事だったのね! ドゥーウィンの言う通りだわ!」


「妾とした事が盲点ぢゃった! まさか、奴の行動に、そんな深い意味があったとは!」


 あのぅ……。

 ちょっと良い?

 おバカすぎて、もう何からつっこめば良いのかわからないよ?

 トンちゃん、あのね?

 凄ぉく真剣な顔で、そんなおバカな事言わないで?

 って言うか、そんなわけないでしょう?

 深いどころか浅すぎるよ?


「主様のパンツが、最後の希望だったんだぞ!?」


 プリュちゃん、真に受けないで?


「ジャチュのパンチュ、ちゅごい!」


 ラヴちゃんも真に受けないで?


「おいたんは最初から分かっていたよ。ジャスミンたんのパンツが最後の希望だって」


 ウィルちゃん、珍しく真面目な顔でキリリとして可愛いけど、言ってる事が凄くおバカだよ?


「ジャスのパンツが最後の希望なわけないです! バカな事言ってる暇無いです!」


「ラテールの言う通り、バカな事を言ってる暇は無いの~」


 ラテちゃんとシェイちゃんが私の前に出た。

 そしてその瞬間、いつの間にか接近していたゼウスさんが、私に向かっていかづちを飛ばした。


「グラビティシールドです!」

「護るの~! ダークシールド!」


 ラテちゃんが作りだした重力の盾と、シェイちゃんが作りだした黒い靄が集合した盾が、ゼウスさんの雷を受け止める。


「ジャスミンのパンツを死守するわよ!」


「無論ぢゃ!」


 フォレちゃんが魔法で地面から木の根を大量に出現させてゼウスさんを縛り、リリィがゼウスさんに蹴りかかる。


「オオオッッ!」


 ゼウスさんが咆えて木の根を力づくで引き剥がし、リリィの蹴りに合わせて蹴り返した。

 リリィとゼウスさんの蹴りがぶつかり合い、大気と地面の両方が割れる。


 う、嘘でしょう!?

 空気が割れた!?

 って、私も驚いてる場合じゃないよね!


 魔力を両手に集中して、ゼウスさんに狙いを定めて、目の前に水色の魔法陣を浮かび上がらせる。


 よぉし、氷の魔法で動きを……って、あれ?

 消えた?


 ゼウスさんに狙いを定めた瞬間に、ゼウスさんが姿を消してしまった。

 私はゼウスさんの姿を捜す為に、慌てて周囲を見回した。


「主様! 下なんだぞ!」


「下? って、きゃあああっっ!」


 プリュちゃんに言われて下を見たと同時だった。

 地面からゼウスさんがアッパーするかの様に現れて、私の下半身……スカートを狙う。


 ま、またーっ!?


「コノ罪深キ世界ニ死ヲオオオッッ!」


 ゼウスさんの手が私のワンピースのスカートを掴み、勢いに任せて捲り上げようとするが、そんな事はさせない。

 私は先程と同じ魔法にプラスして、風の魔法を使って真上から強力な風を発生させる。

 本来であれば、建物すらも吹き飛ばすほどの風……いいや、嵐がゼウスさんのスカート捲りを妨害し、そして、リリィがゼウスさんを数十メートル先まで蹴り飛ばした。


「危なかったわね、ジャスミン」


「う、うん……」


 って言うか、もうこれ本当に、ゼウスさんただの変質者の痴漢野郎だよ!

 この罪深き世界に死を、じゃないよ!

 罪深いのはゼウスさんだよ!


「それにしても、サガーチャの言う通りだったわ」


「え?」


「言っていたでしょう? スカートを守る時と同じ力を出せって。まさにその通りじゃない」


「あ、うん。そうだね……」


 って、いやいやいや。

 サガーチャちゃんは、別にそう言う意味で言ったわけでは無いと思うよ?


「皆で力を合わせて、主様のパンツを守るんだぞ!」


「ふふっ、言う様になったじゃない、プリュ。そうね、皆でジャスミンのパンツを守りきりましょう!」


「うむ。これは世界を、人々を護る為の戦いでは無い! ジャスミン様の下着……パンツを守る為の戦いぢゃ!」


「がおー!」


 何だこれ?


 私は困惑しながら、まともなラテちゃんとシェイちゃんに、淡い期待を抱いて視線を向ける。


 あっ……。


 残念な事に、ラテちゃんとシェイちゃんは諦めてしまったらしい。

 呆れた顔で、おバカなリリィ達に視線を送っていた。


 まあ、そうなっちゃうよね。


 なんて私が考えていると、トンちゃんが私の肩の上に座って呟く。


「ご主人、いい加減覚悟を決めるッスよ。ボクは既に頭空っぽにして、考えるのをやめたッス。フォレ様の言う通り、人の命じゃなくて、もうご主人のパンツを守る為の戦いで良いッスよ」


 あ、うん。

 何となく、そうなんじゃないかなぁって思ってたよ。

 って、そんなの出来るわけないでしょう!?

 諦めないでトンちゃん!

 だいたい、私のパンツを守る為の戦いって何? って感じだよ!

 護るのは皆の命の方だよ!


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