167 幼女と百合は気持ちを一つにして微笑み合う
「な、な、な、な、な、なあー!? え? あれ? え!?」
ここにいない筈、と言うか、さっきまで本気で死にかけてたリリィが私の横に立っていて、私は語彙力を失う程驚いた。
それは精霊さん達も同じな様で、大きく目と口を開けて驚き、おもいっきり言葉を失っていた。
すると、リリィは眉根を下げて苦笑する。
「ジャスミン? どうしたの?」
ドウシタノ?
…………っ!
いやいやいやいや!
「どうしたの? っじゃないよ! な、ななな、何でリリィがここに? この空間には決まった人数しか来れないんだよ?」
「あ~、その事ね。そんなの、ジャスミンがここにいるからに決まってるじゃない」
「そっかぁ……って、そうじゃなくてぇ!」
「そうね~。ほら、よく考えてみて? 例えば、レストランに行った時、席が一つしか空いてなかったとするじゃない?」
「え? レストラン? う、うん?」
「そんな時は、一つの椅子に、私とジャスミンが一緒に座れば良いじゃない。要はそれと一緒よ」
「なぁんだ。そう言う事かぁ」
……って、いやいやいや!
「色々おかしいよ! って言うか、あれ? リリィ? 傷跡無くなってない?」
よく見ると、何故か突然現れたリリィの傷や爛れた皮膚は、綺麗さっぱり無くなっていた。
と言うか、むしろツヤツヤになっていて、どっかの温泉にでも入って来たの? と言いたくなる位に、もの凄く良いお肌になっていた。
「そうね」
「そうねって……。ねえ、リリィ? 何で傷跡まで――」
私がリリィに傷跡が消えた理由を訊ねようとしたその時だ。
ゼウスさんが私達の会話を待ってくれる筈も無く、私達を睨みつけて、魔法を放とうとしていた。
「オオオオオオオッッッ!!」
「ご主人ヤバいッス! さっきのハニーが受けた魔法の時より、強力な魔法がくるッス!」
「――え?」
ゼウスさんが魔法を放ち、再びリリィが私を護る為に前に出た。
その魔法は、先程リリィが受けて命を落としそうになった魔法より、強い威力を持った恐ろしき光線。
私でも、それが星すらも吹き飛ばしてしまいそうな程に危険な物だと、見てわかる程の強力で恐ろしい魔法だった。
そんな!
せっかくリリィが無事だったのに!
私はリリィをまた!
「リリィッ!」
私はリリィの名を叫んだ。
リリィはゼウスさんの魔法を食らって……食ら…………あれ?
「邪ぁ魔っ……よおっ!!」
リリィは叫びながら、ゼウスさんの魔法を両手で受け止めて、明後日の方向へ弾き飛ばした。
「ったく、鬱陶しいわね! 今ジャスミンとお話しているのだから、黙って待ってなさいよ!」
え、ええええええぇぇぇっっっ!?
リリィ凄っ!!
まさかのリリィの功績に、私は驚き、精霊さん達も驚愕して言葉を失った。
そして、魔法を放ったゼウスさんも、魔法が弾き飛ばされた方に視線を向けて驚いていた。
「はあ。それにしても、流石にきついわね。おかげで少し火傷してしまったわ」
や、火傷?
あんな星が丸ごと消えそうな魔法を受け止めて、火傷で済んじゃうの?
「あ、そうだわ。ジャスミン、これよ」
私が驚いていると、リリィが私に手の平を見せた。
訝しみながらリリィの手の平に視線を向けて、私の額に一粒の汗が流れる。
「え? 回復してってる?」
そう。
リリィの手は、回復の魔法を使ってもいないのに、みるみると治っていっていたのだ。
「なんと言う再生の速さぢゃ。これ程の再生、妾も初めてみたのぢゃ」
「ほんとだ~。おいたんもびっくり」
「生物の常識を超えているの」
「これのおかげで、さっきのも治ったのよ」
「へえ、そうなんだぁ……」
わぁ、凄ぉい。
大精霊のフォレちゃんとウィルちゃんとシェイちゃんのお墨付きだなんて、なんて素敵な再生能力ぅ……って、いやいやいや。
あのぅ……リリィ?
人間やめちゃったの?
って、それは前からかぁ。
あはは~。
私が考えるのをやめた時、リリィが頬を赤く染めた。
「うふふ。これもジャスミンのおかげなのよ」
「え? 私?」
「そうよ。ジャスミンがさっき、私にキスしてくれたでしょう?」
「え? あ、うん」
「ジャスミンから、あんな事されちゃったから、興奮で目が覚めてしまったわ。それに、ずっと一緒って言ってくれたでしょう? それって結婚しようって言う、ジャスミンのプロポーズだもの。おちおち死んでなんていられないって思ったわ。そしたら、そう思った途端に、ジャスミンの愛を一身に受けた私の傷が癒えたの。きっと、ジャスミンの愛の口づけと甘い言葉で、私の細胞が活性化したのよ」
あぁ、なるほど、なるほどだよぉ。
うんうん。
そっかそっかぁ………………って、いやいやいや。
おかしいおかしい。
って言うかだよ?
「り、リリィ、あのね? ごめんねだけど、ずっと一緒にって、そう言う意味で言ったわけじゃないんだよ?」
「もう、ジャスミンったら。照れなくて良いのよ。うふふ」
どうしよう?
信じてくれない。
「ご、ご主人、良かっ……ぷぷぷ。ッスね。ぷぷぷ」
こら、そこ。
笑わない。
「もうどうでも良いです。リリィは結局リリィです。心配する方がバカです」
どうしよう?
擁護できない。
「主様とリリさんの愛は無敵なんだぞ!」
プリュちゃん、そんな純粋な曇り無き眼で言わないで?
グサグサくるの。
「愛ってちゅごい!」
うぅ……お願いラヴちゃん。
変な影響だけは受けずに育ってね。
「オオオオオッッ!!」
うひゃあ!
ゼウスさんの存在忘れてたよ!
すっかり存在を忘れてしまっていたゼウスさんが雄叫びを上げながら、私達に向かって雷を放ち、強力な雷が私達を襲う。
「もう少し待ってなさい……っよ!」
リリィが叫びながら雷を蹴り飛ばし、雷が軌道を変えられて空中で四散する。
う、うわぁ。
今のも結構凄い雷だったのに、流石はリリィだなぁ。
「流石ハニーッスね」
「リリさん凄いんだぞ!」
「と言うか、リリィは本当に人間です?」
「何言ってるのよ。人間に決まってるでしょう? それとも何? ラテには、私が天女にでも見えたの?」
何故そこで天女?
まあ、確かにリリィは天女って言うか、顔は凄く綺麗で可愛いくて天使みたいだけど……。
「おいたんとしては、天女より天使の方が好きだな~」
「誰もそんな事聞いてないの~」
「そうです。ウィスプ様は黙ってるです」
「二人共わかって無いわね。ウィスプはこう言いたいのよ」
リリィが一度目をつぶり、真剣な面持ちで目を開けた。
「ジャスミンは天使。そして、私はその天使に寄り添う女。略して天女。ウィスプは、私よりジャスミンの方が好きと言いたいのよ」
リリィの言う天女って、そう言う意味なの?
って言うか、あはは。
リリィってば、やっぱりチートだなぁ。
何だか急に可笑しくなってきて、思いがけずに笑いが込み上げた。
私はクスクスと笑いながら、リリィに話しかける。
「もう、リリィ、本当に心配したんだからね」
「それは私もよ。私を置いて、こんな別空間に行こうとするなんて」
「えー? うーん……まあ、いっか。それなら、お互い様だね」
「そうね」
私とリリィは両手で手を取り合って、一緒になって微笑み合う。
そして、顔から血管が浮き出て激怒する暴走化したゼウスさんに視線を移した。
不思議な気持ちだった。
あんなに怖かったのに、あんなに不安だったのに、今は全然そんな事が無かった。
今なら、どんな相手にだって負けない気がする。
だって、私の側にはリリィがいてくれるのだから!
「ところでジャスミン。頬っぺたにキスしてくれたのは嬉しいのだけど、どうせするなら、お口にしてほしかったわ」
「あはは……」
うん。
私の予想通りだね。
やっぱり言われたよ。




