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163 幼女のパンツは命より重い

「村には私だけで戻る? 何言ってるのリリィ?」


「ごめんね、ジャスミン。今回は本当に危険だと思うの。今までと違うわ……」


「そんなのっ……。それなら、尚更リリィに一人でなんか行かせられないよ!」


「大丈夫よ。行くのは一人だけど、村に行けば、アマンダとナオ、それに……頼りにならないけれど、スミレだっているわ」


「そう言う事じゃない! リリィ、リリィだってゼウスさんの攻撃で、大怪我したばかりなんだよ!? それなのに――」


「お願いジャスミン! 私はジャスミンを危険な目に合わせたくないのよ!」


「そんなの、そんなの私だって同じだよ!」


 リリィと真剣な面持ちで見つめ合い、私の瞳からは自然と涙が溢れ出てきた。

 私は泣くのは卑怯だと涙を拭って、グッと堪える。


「主様もリリさんも落ち着くんだぞ。喧嘩してる場合じゃないんだぞ」


「ジャチュ、リリ……ケンカちないで?」


 プリュちゃんとラヴちゃんが、私とリリィを心配そうに眉根を下げて見つめる。


「ジャスミン様、心配するでない。リリーと一緒に妾も村へ向かう。ジャスミン様がリリーを大切な存在としておる事位、妾にもわかっておる。例え妾の命尽きようとも、リリーは決して殺させたりせぬのぢゃ」


「フォレちゃんまで……っ。そうじゃない。そうじゃないんだよ。私は、私は誰にも死んでほしくないの! フォレちゃんが死んじゃうのも嫌なんだよ!」


「ジャスミン様……」


 我慢しても、涙が勝手に溢れてくる。

 わかってるんだ。

 こんな我が儘な事を言って、こんな場所で言い争ってる場合では無い事なんて。

 でも、それでも私はリリィに行ってほしくなかった。

 どうしても、どうしても昨日の悪夢が私に恐怖を与えてくる。

 リリィだけじゃない、皆にもしもの事があったらと考えると、涙が止まらないんだ。


「全く、ジャスミンくん。私の発明を忘れてもらっては困るな~」


「サガーチャちゃん?」


 涙を拭いながらサガーチャちゃんに振り向くと、サガーチャちゃんはニマァッと笑みを浮かべて話し出す。


「確かに、今のゼウス神の、リリィくんにすらダメージを与えることわりを超える力は困ったものだよ。だが、私を舐めて貰っては困ると言うものさ」


 サガーチャちゃんが銀色の玉を取り出して、私に見せる。


「今こそこの【空間隔離装置アイソレーションくん四号】を使う時。これの性能を舐めないでもらいたい。理だか何だか知らないが、それはこちらも同じだ。魔科学に常識なんて通用しない。見事にゼウスを別空間に送り込んでやるさ。そして、ジャスミンくん、それにリリィくんも何を卑屈になっているんだい? 二人共らしくないじゃないか」


「らしくないって、簡単に言ってくれるわね。あのね、私はこれでも毎日毎日ジャスミンの事を考えて、日々どうすればジャスミンと幸せな結婚生活が出来るか考えているのよ? それなのに、あのゼウスって奴に力の差を見せつけられたの。今回ばかりは命の危険くらい感じても仕方が無いでしょう?」


「ははは。これは傑作じゃないか。リリィくん、君は何か勘違いをしているね」


 サガーチャちゃんがわざとらしく笑って、リリィが苛立った様子でサガーチャちゃんを睨む。

 サガーチャちゃんはリリィに睨まれても気にせずに、お話を続ける。


「私はこれでも君達の事を見ていたから知っている事だけど、リリィくんは結局の所、まだ本気を出していないじゃないか」


「何言ってるのよ。流石にそれは無いわよ。私はいつでも本気よ」


「それなら聞こう。ジャスミンくんのパンツを見る為にスカートを捲ろうとした時と、先程ゼウス神に挑んだ時と、どちらの方が本気だったのかを」


 サガーチャちゃんの言葉を聞いたその時、リリィの頭上に、何故か目に見えるいかづちが落ちる。


 私? 私は、はい。

 なんか、リリィがこんな時に結婚生活とか言いだした辺りから、ちょっと困惑していた。


 って言うか、サガーチャちゃんもサガーチャちゃんで、何言ってるのサガーチャちゃんって感じだ。

 流石にその2つを比べるのは、間違いなくおかしいよね?


「くっ……。痛い所をついてくるわね。サガーチャ、アナタの言う通りだわ。ジャスミンのスカートを捲る時程の全力は出していなかったわ」


 知ってた。

 何故か雷が落ちたの見えたんだもん。

 うんうん。

 そんな事だろうと思ったよ。


「ジャスミンくんとリリィくんとは、一度一緒に冒険をしたからね。その時に何度も見せてもらった熾烈しれつな戦いを見てしまったら、さっきのゼウス神に飛び込んだリリィくんには違和感しか残らない。リリィくん、君はジャスミンくんが人殺しをしてほしくないと願うあまり、いつも手加減しているのだろう?」


「まいったわね。まさか、サガーチャにそこまで見抜かれていたなんて思わなかったわ」


「リリィくん、君の気持ちは分かる。だが、君はジャスミンくんのスカートを捲る時と同じ力を、ゼウス神にぶつけるべきだ」


 あの、あのね? サガーチャちゃん。

 凄く真剣な顔でおバカな事言わないで?

 結構おバカな方向で凄ぉく酷い事言ってるよ?


「そうね。目が覚めたわ。いつでもジャスミンのスカートを捲れる様にと、いつもの様に力を温存している場合では無いわよね」


 待って?

 ちょっと待って?

 スカートを捲れる様に力を温存って何?

 いつもそんなおバカな事考えてたの?

 って言うか、何で2人とも凄く穏やかな顔してるの?

 あのね?

 良い雰囲気みたいな感じになってるけど、言ってる事が凄くおバカだよ?


「ご主人、ボクは何だか、途端にどうでも良くなってきたッス」


 わかるなぁ。

 私も今そんな感じだよ。

 あ……何か怖いの少し無くなったかも。

 クスッ、変なの。


 何だか可笑しくなってきて、クスクスと笑いが込み上げてきた。

 すると、サガーチャちゃんが今度は私に【空間隔離装置アイソレーションくん四号】を差し出した。

 私はそれを受け取ると、サガーチャちゃんがニマァッと笑みを浮かべた。


「もう大丈夫なようだね」


「うん。ありがとー」


「なに、気にする事ないさ。使いどころはジャスミンくんで決めてくれ。本来は私が責任を持って管理するべきだが、私では足手纏いになってしまうからね」


「サガーチャちゃん……」


「しかし、私の話はまだ終わっていないよ」


「え?」


「ジャスミンくん、君も君だ。リリィくん同様、君だってスカートを捲らせない様に、いつも全力を出しているだろう?」


「た、多少は……」


 不意にサガーチャちゃんから目を逸らす。

 すると、サガーチャちゃんが首を軽く横に振った。


「多少? そんな筈はないさ。君は間違いなく本気だ」


「博士はどうしてそう思ったんだぞ?」


「簡単さ。どんな魔族や神様相手でも、確実に一撃で仕留めてきたリリィくんが、ジャスミンくんのパンツ見たさに本気でスカートを捲っている。これがどういう事だかわかるかい?」


「ジャチュも本気!?」


「そう。それこそ、加護を使って、この世界の四大元素の力を最大限に引き出しているんだ」


「成程のぅ。其方の言う通りやもしれぬ。ジャスミン様のスカートはまさに鉄壁。難攻不落の城塞ぢゃ。少なくとも、妾では越えられぬ。リリィだからこそ陥落出来る不動のスカートぢゃ」


「そうね。ジャスミンのスカートは、流石に私も本気を出さなくちゃ捲れないわ。私の持てる全てをぶつけて挑まないと、絶対に敵わないもの」


「おいたんも、実は何度かジャスミンたんのスカートの中を覗こうとしたんだけど、あまりの鉄壁具合に諦めたんだよ~」


 あのぅ……皆、そろそろその辺でお話やめよう?

 何だか私、凄く居た堪れないの。

 そんな風に改めて言われると、おバカすぎて恥ずかしいの。


「ジャスミンくん。君が本気を出せば、スカートを守る様に人々だって……人の命だって護れるさ」


「サガーチャちゃん……」


 私はサガーチャちゃんと目を合わせて微笑む。


 あのね? サガーチャちゃん。

 認める。

 本気だったって認めるから、スカートを捲る捲られないのおバカなお話と、人の命を一緒にしないで?


「そうね。私もようやく気付けたわ。ジャスミンのスカートは人の命よりも重いって」


 重くないよ!

 ねえ、リリィ?

 間違いなく私のスカートより人の命の方が重いよ?

 って言うか、そもそもスカートの重さって、どう考えても命の重さとは別の意味の重さだよね? 


「ハニー。それを言うなら、ご主人のパンツが人の命よりも重いッスよ。だから、命より重いパンツを見る為に、スカートを捲るんスよ」


 トンちゃんまで何言ってるの?

 って、あ!

 凄くどうでも良さそうな顔してる!

 この顔は、真面目な事を考えるのをやめた時のトンちゃんの顔だよ!


「一理あるわね」


 無いよ!


「ジャス、そろそろ村に戻るです」


「我もラテールに同意するの。早く戻った方が良いと思うの~」


 皆の滅茶苦茶な発言に困惑していると、呆れ顔のラテちゃんとシェイちゃんに声をかけられた。


「あ、うん。そうだよね」 


 すっかりお話が長くなってしまったけど、こうしている間にも、村が大変な事になっているかもしれない。

 こんな所で、お話している場合で無いのは分かっていた事なのに、本当に何やってるんだかって感じだ。


 正直言って、雰囲気が変わってしまったゼウスさんの事はまだ怖い。

 だけど、体の震えはもう止まっている。

 怖いけど、でも、今は皆のおかげで怖くない。

 そんな矛盾だらけの不思議な気持ちが、私に勇気をくれていた。


「リリィ、一緒に行こう? 私達で、ゼウスさんを止めよう!」


「ええ、そうね。ジャスミン」


 私とリリィがお互い顔を見て、目をかち合わせて微笑んだ。

 すると、そんな私達の様子を見て、サガーチャちゃんがニマァッと笑みを浮かべた。


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