159 幼女がキレるとマジでヤバい
アマンダさんとサガーチャちゃんを早く追いかける為に、お着替えする場所を探している場合ではないと考えた私は、簡易更衣室を作ろうと思いつく。
床の材質は木で間違いない。
それなら!
魔力を両手に集中して、一気に解き放つ。
使う魔法は植物を操る事が出来る生物魔法。
床から木の芽を発芽させて急成長させて、私の周囲を木の枝や葉っぱで覆う。
簡易的な更衣室の完成だ。
よし!
後は着替えるだけ!
しかし、事件は起こる。
あれ?
パンツが無いよ?
ポーチに入れてあった収納用の小瓶の中には、何十枚にも及ぶパンツが一枚も入っていなかった。
そんな筈はないと探すけど、私が今日ここで脱いだパンツ1枚すら見当たらない。
私は一旦お洋服に着替える事にした。
ひざ丈が短い白色のワンピースに、赤色のカーディガン。
白色のガーターベルトに、白色のガーターストッキング。
残るは行方不明なパンツだけだ。
着替え終えると、私はパンツを再び探し始めた。
何でないんだろう……?
そう言えば、ラークが持ってたんだよね?
このポーチと小瓶……。
「ラーク! 聞こえる!? 私のパンツ何処にあるの!?」
大声を上げてラークに訊ねると、ラークから恐ろしい言葉が返ってきた。
「あー、忘れてた! 対リリィ用に一つだけ残して全部燃やした! 許せ!」
「えええええぇぇぇぇぇっっ!?」
も、燃やしたー!?
嘘でしょう!?
あ、でも、1枚残したって事は、何処かにあるって――
「残りの一つは、お前の水の精霊に持たしたはずだぞ!」
え?
私はプリュちゃんに視線を向ける。
プリュちゃんは首を傾げて、自分が着ている旧スクを脱いでお股を見る。
「無いんだぞ?」
「何脱いで確認してるッスか? プリュはハニーとこっちに来る前に、ウェイトレス用の服を脱いで着替えてたッスよね?」
「そうだったんだぞ……」
え? 何それ?
プリュちゃんのウェイトレス姿とか凄く見たいんだけど?
プリュちゃんが眉根を下げながら旧スクを着直す。
「ジャスミン様の下着なら、リリーが持っておるではないか」
「え? リリィ?」
「あー、そう言えばそうッスね。プリュが操られている時に、ご主人のパンツを使ってハニーに攻撃してたッスね」
私のパンツを使って攻撃?
何それ?
意味がわからないよ?
でも、そんな事より……。
「ねえ? トンちゃん、プリュちゃんが操られてたって何?」
「何って、言わなかったッスか? プリュが海猫神に操られて、ボク等を攻撃させたッスよ」
「そうなんだぞ。そのせいで、アタシがリリさんに、沢山酷い事しちゃったんだぞ……」
プリュちゃんがうるうると瞳を潤ませて、悲しそうに俯いた。
「そう落ち込むでない。リリーも気にするなと言っておったぢゃろう。其方は何も悪くないのぢゃ。それに、一番辛かったのは其方ぢゃろう」
「そうッスよ。だからプリュも泣くのはもう無しッス。泣いたら、ハニーが今度は海猫神を本気で殺しそうッス。まあ、ボクはそれでも構わないッスけど」
「何を言うておる。今度プリュイに手を出そうものなら、今度は妾があの愚かな神を血祭りにあげてやるのぢゃ」
「二人共、ありがとうなんだぞ」
そうか、そう言う事か。
私はリリィ達がポセイドーンに厳しい理由を理解した。
「プリュちゃん、ポセイドーンにはちゃんと謝ってもらった?」
「もらってないんだぞ?」
「あの状況だとそんな暇もないし、悪いとも思って無さそうだし謝罪なんてあるわけないッスよね? プリュ」
「で、でも、アタシはリリさんに助けてもらったから、気にしてないんだぞ」
「そっかぁ。ふーん……そうなんだねぇ」
「ご、ご主人?」
「主様?」
「ジャスミン様?」
不意に、トンちゃんとプリュちゃんとフォレちゃんの声が重なった。
簡易の更衣室を解いて、倒れているポセイドーンを見てから、ナオちゃんと戦っているハデスに視線を向ける。
ハデスに向かって右手をかざし、加護を魔力に変換させて、右手に魔力を集中する。
「我が刃は神域を越え、全ての災害を突き破る一本の水の矛。今こそ血塗られし魂を宿す悪しき神を貫き、魂をあるべき器へと誘う道しるべとなれ」
かざした右手の前に、青色の魔法陣が浮かび上がる。
「主様!?」
「魂奪水槍」
魔法陣から水の槍が放たれて、それはハデスのお腹を突き刺した。
「な……に…………っ!?」
「にゃあっ!?」
ナオちゃんとハデスが驚いて私に視線を向けたけど、既に私はそこにはいない。
素粒光移を使ってハデスの目の前に飛んで、ハデスのお腹に刺さる水の槍を手に取って引き抜く。
「ぐぁ……っ! 海神の加護で護られた私にダメージを与え、痛みを――痛みを感じない!?」
「感じるわけないよ」
驚いているハデスを一瞥して、私はハデスを刺した水の槍を持ったまま、ポセイドーンに近づき水の槍を刺す。
「傷口が無い!? どう言う事だ!?」
「にゃ~。結局、ジャスミーに全部させちゃったみたいだにゃ~。どうするにゃ? まだやるかにゃ?」
ナオちゃんが戦闘態勢を崩して、ハデスに訊ねた。
ハデスは驚いたまま、自分の刺されたお腹を見て手で触れて、力無く項垂れた。
「止めておく。ここまで力の差を見せつけられて戦いを続行する程、私は愚かでは無い。認めようではないか、負けを」
「それが良いにゃ」
ハデスが戦う意思を無くしたと同時だった。
私に水の槍を刺されたポセイドーンが目を覚まし、水の槍が刺さったまま起き上がる。
「ワテはいったい……」
ポセイドーンが目をパチパチとさせてから、ポセイドーンの側で立っている私と目を合わせた。
「おのれは魔性の幼女! よくも――」
「謝って!」
「――はあ?」
「プリュちゃんに今すぐ謝って!」
「な、なんや急に! 何でワテがそないな事せなあかんのや! 誰が精霊なんぞに謝るかい! ええかげんにせ――っ!?」
ポセイドーンの顔色が急に変わる。
突然顔を真っ青にさせて、ガタガタと震えだし、尻尾を足の間に挟んで土下座した。
「すまんかったあーっ!」
突然の変わりように私は少し驚いたけど、とりあえず謝ったので、プリュちゃんに視線を向ける。
プリュちゃんはポセイドーンには目もくれず、私の顔を見て顔を青ざめさせていて、ちょっとだけ涙目だった。
「謝りが足りないみたいだけど? プリュちゃんが泣いてるでしょう? 怖がらせないでもらえるかな?」
「ホンマ許してんか? ワテが悪かった!」
プリュちゃんを見る。
さっきより涙目で体を震わせていた。
「ねえ? 土下座とかいらないから、プリュちゃんの目を見て謝ってよ」
「はいー!」
「あの、ご主人? プリュはご主人に怯えてるだけだと思――何でもないッス」
失礼しちゃうなぁ。
何でプリュちゃんが私を見て怯える必要があるの?
って感じだよね?
「すういませんっしたーっ!」
プリュちゃんを見る。
可哀想に、おめ目がもの凄くウルウルとしていて、首を縦に振った。
きっと、まだ信じられないと言う合図に違いない。
ほら、いくら優しいプリュちゃんだって酷い事されたんだから、信じられなくなって当たり前だもん。
神様だからって、何をしても良いだなんて思わないでほしいよね。
プリュちゃんを泣かせた罪は重いんだから、ちゃんと謝ってほしい。
リリィが私の代わりに怒ってくれたんだから、私は何もするつもりないけど、反省はして貰いたいもん。
「本当の本当に申し訳ございませんでしたーっ!」
プリュちゃんを見る。
未だに私を見て、ポセイドーンを見ようとしない。
「ジャス、いい加減にするです!」
ペチリと、ラテちゃんが私の頭を叩く。
「どう見ても、プリュイはジャスを見て怯えてるで――何でもないです」
ラテちゃんまで失礼な。
そんな事ないよ。
全く、場を和ませたいのはわかったけど、今はそう言うのいらないよ。
「ジャスミンたーん!」
ラテちゃんにホームランされたウィルちゃんが戻って来たようなので、私は一度ウィルちゃんと目を合わせる。
「戻って来た――」
「おかえり、ウィルちゃん」
「――よ゛っ!? あれ? おいたん何か悪い事した?」
え?
どうしたの急に?
お顔が真っ青だよ?
「それはいつもの事なの~。ジャシーは別の事で怒ってるの~」
「やだなぁ、シェイちゃん。私は怒ってないよ」
「が、がお……」
「ホンマのホンマに、申し訳ございませんでしたあああああっっっ!」
プリュちゃんの涙目は変わらない。
きっと、ポセイドーンが本心で言ってないのに気づいていて、酷い目に合わされたことを思い出して出る涙に違いない。
と、考えていると、トンちゃんとラテちゃんがプリュちゃんに近寄って、こそこそと何か耳元で内緒話をした。
どうしたんだろうと思って首を傾げていると、プリュちゃんがハッとなった顔を見せて、大慌てした様子で私に視線を向けた。
「あ、主様、アタシはもう大丈夫なんだぞ!」
「え?」
「ポセイドーンさんも、もう良いんだぞ。仲直りだぞ」
プリュちゃんが眉根を下げてポセイドーンに苦笑すると、ポセイドーンの目から涙が溢れだす。
「なごぉおおん! おおきに! ホンマおおきに! すまんかったなあ!」
え!?
な、泣きだした!?
「流石は幼女先輩なのです! 神をも震え上がらせる眼力の持ち主なのですよ!」
「あのポセイドーンを目力だけで怯えさせて泣かすとか、マジでヤバいっしょ」
え?
ちょっと待って?
私の目って、そんなに怖かったの!?




