158 幼女も失敗して痴女になる
私が自分の今のバニーガールな姿に恥じらいを感じて、お着替えしようと決意したその時だった。
「貴様は早く始末するべきな様だな! 魔性の幼女!」
ハデスが怒鳴る様に声を上げて、殺気を私に向け、自分の周りに黒く光る魔法陣を幾つも浮かび上がらせた。
「消し飛べ!」
魔法陣から黒く光る光線が私に向かって大量に放たれる。
「ふん! そのような事、妾がさせると思うたか?」
私の目の前にフォレちゃんが飛び出して、グルグルと渦巻く木の根っこを張り巡らせて盾を作り上げ、黒く光る光線を防いだ。
だけど、ハデスの狙いは別にあった。
「がら空きだ」
私の背後に突然ハデスが現れて、私の首目掛けて大きな鎌を振るう。
「ジャスミンに物騒な物振り回さないでもらえる?」
リリィが大きな鎌ごとハデスを蹴り上げ――れてない!
ハデスを大きな鎌と一緒に蹴り上げたと思ったけど、蹴り上げたのは大きな鎌だけだった。
ハデスだと思っていたそれは残像で、蹴り上げられたと同時に消え去った。
「本命はこいつだ」
「――っ!?」
フォレちゃんと私の間、私の目と鼻の先にハデスが現れて、ハデスが私の首元にあるリボンに降れる。
その瞬間に、突然そこから黒炎の炎が発生して、私の全身は黒い炎に包まれてしまった。
「このっ!」
リリィが今度こそハデスを蹴り飛ばす。
ハデスは蹴り飛ばされたけど、直ぐに近くに着地して、血反吐を吐いてからニヤリと笑った。
「思った通りだ。ゲホッゲホッ……。確かに貴様の強さは人間にしては異常だが、我等神を……殺すまでに値しな……ゲホッゲホッ……い」
「全然大丈夫に見えないよ!? 血いっぱい吐いてるけど大丈夫!?」
「じゃ、ジャスミン!?」
血反吐を吐きながら話すハデスに、ついつい声を上げてしまった私にリリィが驚いて視線を向けた。
とりあえず水の魔法で水を浴びて、私は黒い炎を消す。
突然燃やされる物だから、ちょっとびっくりしてしまった。
って、そんな事よりだ。
流石に私も、突然こんな事されたから言いたい事がある。
「狙うなら私だけにしてよ! 火を使ったら、精霊さん達が火傷しちゃうかもしれないでしょう!」
「ホントッスよ。ご主人のポーチに急いで入らなかったら、丸焦げだったッス」
「トンペットは飛んで避ければ良いです! 狭いからさっさと出るです!」
「ポーチの中に六人はきついんだぞ……」
「がお~、ぎゅうぎゅう」
「ぐへへへへ。ジャスミンたんの匂いがいっぱいするよ」
「記憶を見た時に、一度この中に入ってみたかったの~」
「さっさと皆出て行くです! ポーチの中が狭いです!」
「いや、ラテもボクと同じで飛べるんだから、それ言いだしたらポーチに入るのはプリュとラーヴだけで良いと思うんスけど?」
「ラテは出来るだけ楽な方を選ぶです!」
「ええー。自己中すぎるッス……」
「そんなに怒ってると可愛い顔が台無しになっちゃうよ~。ぐへへへへ」
「ウィスプ様は黙ってるです!」
「ウィルは気持ち悪いからさっさと出て行くの~」
「ラーヴ~、プリュイ~、皆がおいたんをいじめるよ~」
「が、がお……」
「皆仲良くするんだぞ」
何だかポーチの中が大変な事になっているけど、とりあえず皆無事な様で安心だ。
「な、何故私の獄炎の炎が通じない!? 大精霊の魂を吸収した私の炎、食らったら最後、一瞬で灰になる炎だぞ!」
何やらハデスが驚いているけれど、負けず劣らず私も驚かずにはいられない。
「魂を吸収!?」
そこで私は気がついた。
いつの間にか、ウンディーネ以外の気絶していた筈の大精霊3人の姿が消えていたのだ。
そして、更にその驚きを超える出来事が起こってしまった。
「ジャスミン、ごめんなさい。私は……ここまでの様だわ」
「リリィ!?」
突然リリィが倒れて、リリィが倒れた場所から血の池が出来上がった。
まさか、そんな……リリィがやられた!?
いつの間に!?
まさか、さっきハデスに攻撃した時にカウンターを食らってたの!?
「じゃ、ジャスミン様、その、なんぢゃ……。流石の妾も、そんな其方の姿を見れば、頭がくらくらするのぢゃ」
「え?」
私は首を傾げて視線を自分の体に向ける。
「…………っきゃあーっ!」
なんと言う事でしょう。
さっきの黒い炎を浴びたせいで、辛うじて下着が残っただけの、ほぼ全裸な姿になっていました。
恥ずかしさで顔から火が出るんじゃないかと思えるくらい顔を熱くして、大事な所を手で隠してしゃがみ込む。
「って言うかご主人、何スかそのパンツ? どうやってくっ付いてるんスか?」
シーストリングだよ!
恥ずかしいから聞かないで!?
「これを着ければ、バニーガールになっても安心だって言って着けてたです」
「ジャスミンたん、おいたん我慢出来ないよ。ぐへへへへ。ペロペロしてあげるねー!」
私に飛びかかるウィルちゃんに、ラテちゃんが魔法で鉄バットを作りだしてホームランする。
「うぃ、ウィル様が吹っ飛んで行ったんだぞ!?」
「が、がお」
「いつもの事だから気にしなくて良いの~」
「幼女先輩がシーストリングを着けていた事は、私には分かっていたなのです」
「どう言うことぢゃ、スミレ?」
「うわっ、いつの間に来たッスか!?」
「バニースーツを身に着けると、流石にお子様パンツは穿けないなの。だけど、シーストリングなら穿けるなのよ」
「成程のぅ。確かに其方の言うとおりぢゃ」
「ボクの質問には無視ッスか?」
「何言ってるです。スミレも一緒に着けてたです。知ってて当然です」
「ラテちゃん、それは言わない約束なのよ」
「そんな約束してないです」
「って言うか、おっぱい女はパンツ丸見え出来る能力持ってるッスよね? その能力を使えば、どっちにしても知ってて当然ッスね」
「トンちゃんも手厳しいなのよ」
恥ずかしがって蹲る私の周りで皆が騒いでいると、ハデスが怒りをあらわに怒鳴りだす。
「答えよ! 私の炎をどうやって防いだ!?」
「闇魔法の黒い靄をもの凄く薄くしたのを、私の全身に発生させて防いだだけだよ。薄すぎて、残ったのが下着とポーチだけになっちゃったけど……」
仕方が無いので、ぐすん。とハデスの問いに涙目で答えて、何処か着替えれそうな所がないかと周囲を見回す。
うぅ……。
失敗しちゃったよぅ。
咄嗟だったからって、もっと黒い靄を厚くすれば良かった。
でも薄くしないと、それこそ炎ごと靄の中に入れちゃって、私も燃えてたかもだろうし……。
そんなわけで、私はハデスの黒い炎を、色んな物を飲みこめる黒い靄で防いでいたのだ。
ただ、黒い靄を薄くした状態で私の全身を覆わせたせいで、薄すぎた結果バニースーツが守れずに全焼してしまった。
おかげで私は、腰かけポーチとシーストリングと呼ばれるパンツ代わりの物を身に着けているだけの、殆ど全裸な姿になってしまったと言うわけだ。
咄嗟の事とは言え、とんだ大失敗をしてしまった。
これでは痴女と言われても、これに関しては甘んじて受け入れるしかない。
嫌だけど……。
リリィが倒れて血の池を作りだしてしまったのも、これが原因で間違いない。
と言うか、倒れているリリィの顔をよく見ると、とても幸せそうな顔で気絶していた。
それはともかくとして、私の答えを聞いたハデスは、もの凄く怒った顔で私に殺気を放っている。
ハデスは今にも私を襲って来そうだけど、今の私はそれどころでは無い。
早くお着替えしたいのだ!
そんな時、ナオちゃんが私とハデスの間に立った。
「ジャスミー、お願いがあるにゃ」
「え? お願い?」
「にゃー。ニャーがハデスをどうにかしておくから、ジャスミーは早く着替えて、姉様を追ってほしいにゃ」
「アマンダさんを追う?」
ナオちゃんに聞き返すと、セレネちゃんが私の疑問に答える。
「さっきウンディーネがパパを連れて逃げた時に、白衣を着た女の子と一緒に追ってったわよ」
「白衣を着たって、サガーチャちゃんも!?」
「間違いないなのですよ。私も二人がウンディーネを追いかけて行った姿を見たなのです」
「ニャーは姉様に、ハデスの相手を頼まれたから残ったにゃ。だけど、ウンディーネは水の大精霊で、同じ水の魔法を使う姉様には分が悪いにゃ。だから、姉様の後を追いかけてほしいにゃ」
「うん。わかったよ!」
恥ずかしがってる場合じゃない!
2人を早く追いかけなきゃ!




