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156 幼女が暮らす村の秘密

「私が聞きたい、じゃないです! しっかり答えるです!」


 頭の上にラテちゃんが座って、私の頭をペチリと叩く。


「あ、ラテちゃんおはよー」


「おはようです……そうじゃないです! 答えるです!」


「え、えぇと……」


 答えるですと言われても、本当に私が聞きたいくらいだし……。


「がおー」


「ラヴちゃんもおはよー」


 ラヴちゃんもトテトテと私の許までやって来たので、私はラヴちゃんを抱きかかえる。


「よく寝たの~」


「シェイちゃんもおはよー」


「ジャスミンたん、おいたんの寝顔可愛かった?」


「ウィルちゃんもおはよー。可愛かったよ」


 気がつけば、フォレちゃん以外の契約した精霊さん達が勢ぞろいして、トンちゃんが驚く。


「ご主人、いつの間にウィルオウィスプ様とシェイド様とまで契約してたんスか!? フォレ様と合わせて大精霊三人と契約なんて凄すぎッス!」


「主様、凄いんだぞ!」


「えへへ。そうかなぁ」


 成り行きで契約しただけだし、とくに凄いとも思わないけど、そう言われると流石に照れてしまう。

 私が照れて顔をニヤニヤとさせてしまっていると、リリィとフォレちゃんが戻って来た。

 リリィは私の頭の上に座るラテちゃんを見て、微笑んで話しかける。


「ラテ、起きたのね。ラテのおかげで猫喫茶では助かったわ。ありがと」


「言ってる意味がわからないです」


「わからなくて良いのよ」


 リリィの言葉に私もラテちゃんと一緒に首を傾げる。

 そこで、トンちゃんが私の肩の上に座って、リリィとフォレちゃんに訊ねる。


「あれ? 老害神はもう片付いたんスか?」


「うむ。奴なら目を回して気を失っておるわ」


「あの程度でジャスミンに言い寄るなんて、身の程をわきまえた方が良いわね」


 ゼウスさんの方に視線を向けてみる。

 ゼウスさんは頭を床にめり込ませて気絶していた。

 そしてその上で、セレネちゃんがこれでもかと言うくらいに、ぴょんぴょこ可愛らしくジャンプしている。


 わぁ、可愛い。

 やめてあげて?


 と、私は考えたのだけど、実はそれだけではない。

 気絶していたラークが目を覚ましていて、ご立腹な顔をしてゼウスさんの埋まっている頭の上に座っていた。

 そんなラークの側には、透明な箱から解放されて目を覚ましたリリオペがいて、ラークに「そんな所に座ったらダメだよ」なんて事を言っている。


 と言うかだ。

 改めて周囲を見てみると、凄い事になっていた。

 ゼウスさんに操られていた大精霊のサラマンダーとシルフとノームさんも、既にアマンダさんとナオちゃんによって気絶させられていた。

 マモンちゃんは何があったのか知らないけど、うつ伏せに倒れていて、目を覚ましたハッカさんとレオさんの2人にツンツンと指先で突かれていた。


「全部片付いた様だね。こいつは必要なかったみたいだ」


 サガーチャちゃんがそう言って、私にペットボトルのキャップサイズの銀色の玉【空間隔離装置アイソレーションくん】を見せた。

 私は苦笑して頷く。


「そうだね。って言うか、もう新しいの出来てたんだ? 凄い」


「そうでもないんだ。ジャスミンくんの戦いに間に合う様にと思って、製作を早く済ませてしまったから、恥ずかしながら人数制限付きなんだよ」


「人数制限?」


「そう。ジャスミンくんと契約精霊五人分と、リリィくんに責任者の私と、対決する相手の合わせて九人さ。と言っても、ジャスミンくんは更に精霊と契約を交わしてしまっているから、どちらにしても人数も足りなかったみたいだけどね」


「あはは。そうだね」


 私とサガーチャちゃんは顔を見合わせて笑い合う。


 兎にも角にも思ったよりスムーズに何事も無く、ゼウスさんとの戦いが終わって良かったなぁと、心からそう思う。


 ゼウスさんから突然裁判にかけられた時は、本当にどうなる事かと思ったけれど、皆のおかげで無事に――


「てめえなにしやがる!」


 突然ラークの怒声が聞こえて振り向く。


 リリオペが血を流して床に横たわっていて、振り向いた直後に、ラークがハデスに殴り飛ばされて床に転がる。


「っくぁ! ……くそ」


 ラークが血反吐を吐いて立ち上がる。


 ハデス!?

 戻って来て……ううん。

 そんな事より、ラークはとりあえず大丈夫そうだから、早くリリオペを!


「貴様等全員動くな!」


 直ぐにリリオペを回復しようと魔法を使おうとしたけど、ハデスが大声を上げて止められた。

 ハデスはセレネちゃんに大きな鎌の刃を向けていて、私だけでなく、ここにいる全員が動けなくなってしまった。


「まったく、随分好き放題やってくれたものだ。だが、それもここまでだ」


 ハデスがリリィに視線を向けて、ニヤリと笑う。


「貴様のおかげで、この村が始まりの地だとわかった。その功績には褒めてやろう」


「どう言う意味よ?」


 リリィが睨んで訊ねると、ハデスはゼウスさんを持ち上げながら答える。


「貴様もこの村に住んでいるなら、この村の名前は知っているな?」


「はあ? 知っているけど、それがどうしたってのよ?」


 リリィが苛立ちながらハデスを睨み、ハデスは下卑た笑みを浮かべた。

 そんな中、私の頭の上にいるラテちゃんがボソリと呟く。


「ヤバいです。この村の秘密がバレたです」


 この村の秘密?


「幼女先輩の村の名前って、確かトランスファだったなのですよね?」


「え? うん……」


 スミレちゃんの問いに答えると、それを聞いたハデスが笑う。


「はははははっ! そう! この村の名前は【トランスファ】だ。かつて、災いをもたらす【パンドラの箱】と呼ばれた呪われた地を隠す為に、この地に住む事を決めた人間達から付けられた名前だ!」


 パンドラの箱!?

 それって、開けると悪いものがいっぱい出て来て、最後に希望が残るって言うあのパンドラの箱の事!?

 な、何かよくわからないけど、とんでもない事になってきたかも? 


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