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153 幼女も言葉を失う神殺しの真相

 セレネちゃんが目を覚ましてゼウスに怒鳴りつけると、ゼウスが長話を中断してセレネちゃんに視線を向けた。

 二人の目がかち合い、セレネちゃんはゼウスを睨みつける。

 ゼウスはその場で眉根を下げて首を横に振って、ため息まじりに話し出す。


「なんと嘆かわしく愚かな娘よ。その醜い姿になっても尚、その性格が治らなかったか」


「はあ!? マジでムカつくんだけど! って言うか、もーわかってんのよパパ! 私を殺したのパパっしょ!?」


 セレネちゃんがゼウスに指をさして大声を上げると、ゼウスは顔を顰めて頷いた。


「そうだな」


 え!?

 セレネちゃんを殺したのって、ゼウスだったの!?


 私は驚いてゼウスに向けていた視線をセレネちゃんの顔に移した。

 セレネちゃんは少しだけ眉根を下げて、目を潤ませていた。


「何で、何でパパが私を殺したのよ! そんなに私が憎いの!?」


「セレネちゃん……」


 私はセレネちゃんの手を取って、ギュッと握り締めた。


「何故? そうか……。アルテミスよ、あの時の事を覚えていないのか」


「あの時の事? そんなの知るわけないじゃん! 死んだ時の記憶がないのもパパのせーっしょ!?」


 セレネちゃんが私の手を力強く握り返して、ゼウスを睨む目の鋭さが増す。

 ゼウスは悲しげな表情を見せて、ゆっくりと話し始める。


「アルテミス、あれはお前が暇つぶしで下界に遊びに降りた時だった。あの頃のお前は、本当に神として相応しくない愚かな性格だった……」


 そう言って、昔何があったかを聞いた私は、そのあまりにも酷い話に驚愕して言葉を失った。





 その昔、まだ、セレネちゃんが神様だった頃。

 セレネちゃんは凄く我が儘な神様で、気に入らない存在は全部消すと恐怖を振り撒いていた。

 人々はセレネちゃんの放つ【疫病の矢(プレイグアロー)】に怯え、逆らう事を許されず、言われるがまま奴隷のように扱われていた。


 ある日、セレネちゃんがいつもの様に我が儘三昧をする為に、下界に降りた時の事だった。

 丁度その頃はゼウスさんもセレネちゃんの非行に頭を悩ませていて、いい加減に止めないとダメだと考えたゼウスさんが、セレネちゃんを追って下界に降りた。

 セレネちゃんは相変わらず人々に我が儘を言っていて、やつれて疲れ切った人々の前にゼウスさんが立ち、ゼウスさんがいい加減にしろと説教を始めた。


 説教を聞かされたセレネちゃんは、勿論気分が悪くなった。

 そして、苛立ち激昂げっこうしたセレネちゃんは、あろう事かパパであるゼウスさんに向かって【疫病の矢(プレイグアロー)】を放ってしまったのだ。

 だけど、ゼウスさんは矢を避けたので、その矢が当たる事は無かった。

 そして、標的を失った矢は地面に転がった。


 ここからが、私が驚愕して言葉を失う出来事の始まりだった。


 皆さん、カラスの好物、と言うか習性をご存じだろうか?

 そうです。

 光り物です!


 矢の先端はそれはもう綺麗に輝いていて、たまたま通りかかったカラスがそれを見つけてしまったのだ!

 カラスが【疫病の矢(プレイグアロー)】を拾い上げ、それを持ったまま空高く羽ばたいた。

 そして、そこに別のカラスが沢山やって来て、カラス達は上空で矢の取り合いを始めてしまったのだ。


 正直そんな馬鹿なって感じだけど、実際に起きてしまったのだから仕方が無い。

 と言うか、そんな事が自分達の頭上で繰り広げられているなんて、ゼウスさんとセレネちゃんだって想像出来ないものだった。

 だからこそ、セレネちゃんとゼウスさんはカラス達が争う真下で口論を続けていた。

 そして、不幸が起きてしまったのだ。


 カラス達の争いもエスカレートしていき、最後には【疫病の矢(プレイグアロー)】を落としてしまったのだ。

 矢は真っ直ぐに落ちていき、真下にいたセレネちゃんの脳天を直撃。

 直撃を受けたセレネちゃんは、そのまま帰らぬ人ならぬ帰らぬ神となってしまった。


 つまり、セレネちゃんが死んだのは自業自得だったのだ!

 あえて言うなら、セレネちゃんを殺した犯人は、とっくに寿命で死んでいるであろう通りすがりのカラスさんだ。





 そんなわけで、真実が明かされて驚きのあまり言葉を失っている私の横で、セレネちゃんがプルプルと震えだした。

 無理もない。

 そんなおバカ極まりない理由が、自分の死因だなんて、私だったら恥ずかしくてお家に帰って引きこもり生活を爆誕させてしまいたくなるだろうこと請け合いだ!


「ぷぷぷ。もう駄目ッス。吸血女が、ば、バカすぎて笑いが止まらないッス。ぷぷぷ」


 こらトンちゃん!

 笑っちゃダメだよ!


「笑ったらダメなんだぞ。笑ったらセレネさんが可哀想なんだぞ」


 うんうん。

 まったくだよ。


「事情はよく分からないけど、神様にも天罰と言うものがくだるんだね。大方、脳に直接ダメージを受けた事で、死ぬ直前の記憶が飛んだのだろうね。面白い研究材料になりそうだ」


「研究材料って、ただの自業自得でしょう? セレネがバカなだけじゃない」


 リリィもサガーチャちゃんも辛辣だよ!

 経過がどうあれ、死んじゃった人にそんな事言うのはよくないよ!


「ほら見ろ。だから俺は言ったんだよ。お前にだけは言われたくないってよ」


 ラークが呆れながらセレネちゃんに言うので、私はセレネちゃんがラークと戦う時に言っていた言葉を思い出した。

 セレネちゃんは言っていた。


 自分でやった事を誰かのせーにするとか、流石にドン引きなんだけど?


 と。

 今回の事で言えば、元を辿れば自分が原因で死んでしまったのに、今まで散々誰かに殺された復讐してやると言っていたセレネちゃん。

 確かに、これを知ってしまうと、ラークがあんな風に言いたくなる気持ちもわからなくもない。


 私はセレネちゃんに視線を移して、顔を覗き込む。

 セレネちゃんは顔を真っ赤にさせていて、何やら眉根を上げていた。

 可哀想なセレネちゃん。

 ただでさえ恥ずかしいのに皆から散々言われて悔しいんだねと、私は思ったのだけど、そうでは無いらしい……。


 セレネちゃんが顔を上げ、ゼウスさんを睨んで指をさした。


「やっぱりパパのせーじゃんか! よくも私がった矢を避けてくれたわね!」


「ええぇーっ!?」


 私はセレネちゃんの言葉に、思わず声を出して驚いた。


 人のせいにしたー!?

 って、いやいやいや!

 セレネちゃん何言いだすの!?

 今の聞いてたよね!?

 その後、その後だよ!

 ゼウスさんじゃなくて、せめてカラスのせいにして!?

 流石にゼウスさんだって、そんな事言われたら怒ると思うよ?


「そうだ。儂が避けねば、あんな事にはならなかった」


「ええぇーっ!?」


 今度はゼウスさんの言葉に、私はまたもや声を出して驚いた。


 肯定したーっ!?

 何で!?

 いやいやいや!

 え?

 本当に何で?


 私が驚く中、ゼウスさんは下に降りてきて着地すると、セレネちゃんに向かって頭を下げた。


 下げちゃった!

 頭下げちゃったよ!?

 本当に何でーっ!?


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