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151 幼女に怪しげな飲み物を勧めてはいけません

 リリィにお姫様抱っこをされていた私は、降ろしてもらって床に降りる。

 私が床に降りた後も、リリィは鼻息を荒げながら、目を血走らせて私のバニーガール姿を見ていた。


 あぁ……やっぱこの姿が原因かぁ。


 私は苦笑してリリィの鼻血の意味を納得した。

 それともう一つ。

 お姫様抱っこから解放されて、リリィをしっかり見る事で、リリィの姿の変化に気がついた。

 傷だらけでボロボロのリリィはウェイトレス姿で、しかも元のサイズに戻っていたのだ。


「リリィ、どうしたのその格好……? もしかして、猫喫茶で働いてたの? って言うか、元の姿に戻ったんだね」


「ええ。でも、働いていたわけでは無くて、これは奪い取ったのよ」


「へえ……え?」


 奪い取った?

 今、奪い取ったって言った?

 え? 強盗?

 どうしよう?

 私の知らない所で、リリィがどんどん悪い子になっちゃう。


「おのれ! よくもハデスを!」


 私が困惑していると、ゼウスが怒鳴ってリリィを睨んだ。


「貴様! その小娘を捕らえていた鎖をどうやって外した!?」


 ゼウスの言葉で私はハッとなって気が付く。

 言われてみれば、私は鎖で縛られていたのだ。

 それが今では綺麗さっぱり無くなっていて、私はすっかりその事を忘れてしまっていた。


「はあ? そんなもの邪魔だから砕いたに決まってるでしょう?」


「砕いただと!? そんな馬鹿な! アレは儂が持つ神の力の一つだぞ!」


「そんなの知らないわよ」


 リリィは驚くゼウスから視線を外して、透明な箱に閉じ込められて横たわっていた皆を見て、何やら顔を顰める。


「やっぱり来てしまっていたのね」


「え?」


 リリィの言葉に首を傾げると、リリィは苦笑して説明する。


「実は、ジャスミンが秘密基地を出た後に、シルフの襲撃に会ったのよ」


 え!? 何それ!?

 そんな事があったの!?


「その時に、あそこがシルフの魔法で消されたから、ラヴとハッカとレオとノームを連れて私の家で待機している様に言っておいたの」


「そうだったんだ……」


「ええ。でも、昨日ゼウスの目撃情報をジャスミンに伝えるのを忘れていて、ラヴに知らせてほしいとお願いしたのよ」


「あぁ。そっかぁ。それで、ハッカさん達がラヴちゃんについて来ちゃったんだ」


「そのようね」


 何でカジノに来たのか謎だったけど、やっとわかったよ。


 と、私が納得していると、リリィがラテちゃん達が閉じ込められている透明な箱に近づいた。


「ふん! 魔性の幼女を捕らえた鎖を解いた貴様でも、それはどうにも出来まい! そのキューブは【封眠の方舟(ノアーズアーク)】。儂が持つ神の力の中でも、極めて純度の高い神域結界の一つだ。本来は大災害に備えて儂が――」


「何よこのガラス。ちゃんと空気穴ついてるの?」


 ゼウスが声を高らかにしてお話をしている途中で、リリィが透明な箱を割る。

 と言うか、最早ガラスどころか、冬の寒空の下に出来る水たまりの薄い氷を割る様な感覚で割ってしまった。


「――馬鹿なっ……!?」


 驚くゼウスに、いつも通りのリリィに何だか落ち着く私。

 そんな中、リリィはハッカさんとレオさんを見つめて呟いた。


「やっぱりそうよね……。何でこの二人は元に戻ってないのかしら?」


「どうしたのリリィ?」


 リリィに近づいて訊ねると、リリィが私と目を合わせた。


「ほら、私がこの通り元の姿に戻っているでしょう? マーレだったかしら? あの子を気絶させた時に戻ったのよ。でも、この二人は戻っていないようだから、不思議に思ったのよ」


「あ、そっか。リリィが元に戻ってるんだもんね」


 成程と、私もハッカさんとレオさんに視線を向けると、プリュちゃんが私の腕にしがみつきながら口を開く。


「もしかしたら、ここの建物の中が神様の加護の影響で、外との繋がりを遮断しているからかもしれないんだぞ」


 あー、そっかぁ。

 そう言えば、外と加護の通信が出来なかったりとかもあったもんね。

 言われてみると納得かも。


「貴様等、これ以上神を侮辱する事が、どれ程の重い罪なのか思い知らせてくれるわ!」


 突然ゼウスが怒りだして、未だ頭上に立ち込める暗雲に向かって杖をかざす。


「た、大変なんだぞ! 主様、リリさん、逃げるんだぞ!」


「逃がすと思うたか!? 死ねい!」


 ゼウスが杖を振り、暗雲からいかずちが私達目掛けて落とされる。

 だけど、今の私は既に恐れていなかった。

 何故なら、答えは簡単。

 私の横に立っているのが、世界屈指の強さを誇る大親友リリィだからだ。


「ゴロゴロと煩いわね」


 雷が私達に届く前にリリィが上空に回し蹴りを放った途端に、雷は私達に届く事なく一瞬でかき消されて、上空に立ち込めていた暗雲が天井諸共吹き飛んだ。


 わぁ。

 お外が青くて良い天気……じゃないよ!

 やり過ぎだよ!

 天井まで吹き飛んじゃったよ!?


「ああああーっ! 俺の家の天井があーっ! おい糞女! ここは俺ん家なんだぞ! どうしてくれるんだ!」


 ラークがリリィに向かって怒りだし、リリィはそれを無視してセレネちゃんに視線を向ける。


「後はあの子だけね」


「う、うん……」


 なんて頼もしいお友達なのだろうか?

 リリィが来た途端に、一気に形勢は逆転して、ゼウスもあまりの衝撃に驚愕して硬直してしまった。

 そんなリリィに、ここまでの傷を負わせた誰かが猫喫茶にいたのかと考える。

 そう思うと、私が猫喫茶に行っていたら、プリュちゃんを助けるどころか迷惑をかけていたかもしれない。

 本当に、リリィには感謝してもしきれないと、心から感謝するばかりだ。


 リリィの傷、早く治してあげたいな……。


 リリィの傷を見ていたら、魔法が使えなくなってしまった事が本当に悲しいと思った。

 こんなにボロボロになってまで頑張ってくれたリリィに、少しでも感謝の気持ちを伝えたいけど、今の私にはありがとうと言う言葉しか使えない。


「リリィくんは本当に足が速いね~。やっと追いついたよ」


「博士、ご主人も一緒にいるみたいッスよ」


 不意に声が聞こえて視線を向けると、大きく空いた壁の穴の所にサガーチャちゃんが立っていて、トンちゃんがそこから私の目の前に飛んで来た。


「トンちゃん! サガーチャちゃん!」


「ご主人その格好、相変わらずの痴女っぷりッスね~」


「痴女じゃないよ! これはバニーガールって言う、ちゃんとした仕事服なんだよ!」


 全く失礼しちゃうなぁ。

 確かに私も前世では、バニーガール最高だなんて思った事はあるけれど……。


「あっ。ハニー、鼻血出なくなったんスね」


「え?」


 トンちゃんに言われてリリィの顔を覗き込むと、確かにリリィの鼻血が止まっていた。


「当然でしょう? 将来ジャスミンと結婚する為に、免疫をつけるのは当たり前の事よ」


「結婚し――」


「ジャスミンくん、魔法を封印されているのかい?」


 リリィの言葉を否定しようとしたけど、私に近づいて来たサガーチャちゃんに話しかけられて遮られる。

 結婚がどうのとか言いだしたのは今に始まった事では無いので、とりあえず良いかと思って、私はサガーチャちゃんに向き合った。


「うん。そうなんだよぉ」


「それなら丁度良かった」


「丁度良い?」


 首を傾げて聞き返すと、サガーチャちゃんが怪しげな薬を取り出した。

 それは小瓶に入っていて、虹色に輝く液体。

 サガーチャちゃんはその怪しげな薬を私の目の前に差し出すと、ニマァッと笑みを浮かべて、私の手を取ってそれを握らせた。


「これは【神無理かみなり】、神の力を打ち消す効力を持っているんだ。飲めばジャスミンくんに掛かっている魔法の封印も解ける」


「本当!? ありがとー! サガーチャちゃん!」


 私はサガーチャちゃんから神無理を受け取って、蓋を開けて……ぉ……どうしよう?

 色が気になって、怖くて飲めないよ?

 ほら見てよ?

 紫とか青とか、この辺なんてダークマター的な色してるんだよ?

 こんなの怖くて飲めないよぉ。


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