144 百合を狙う神の刺客
プリュを助け出す為に、ドゥーウィンと一緒にフォレとアマンダとナオとマモンの所まで戻って来た私は、私が座っていた場所に座る人物を見て驚いた。
「サガーチャ!?」
「やあ、リリィくん。久しぶりだね。ジャスミンくんから話は聞いているよ。プリュイくんを助ける為に頑張っているんだってね」
「え、ええ」
「博士はカジノで仕事をしてるって聞いてたッスけど?」
ドゥーウィンが質問すると、サガーチャは苦笑して答える。
「飽きてしまってね。それに、こいつの新作を作らないといけなくてね」
サガーチャが机の上に小さな銀色の玉を置いた。
私とドゥーウィンがそれを見つめると、サガーチャが言葉を続ける。
「これは【空間隔離装置アイソレーションくん三号】と言って、使った本人を含めて対象相手を別空間に飛ばす装置だよ。ジャスミンくんと一緒に、あそこで落ち込んでいるロークを相手に戦った時に壊れてしまったんだ」
サガーチャが苦笑しながら指をさす。
指をさした方向に視線を移すと、端っこの方で、壁にもたれかかって死んだ目をした鬼人が座っていた。
顔を顰めてサガーチャに再度視線を向ける。
「何あれ?」
「さあ? 私がカジノを出た時にカジノの前で倒れていたから、とりあえず彼女にかかっている加護を研究する為に、ここに連れて来たんだよ。彼女がああなってしまっている理由までは知らないな。カジノで私と別れる前は、もう少し元気があったと思ったけどね」
よく分からないが、あの鬼人はジャスミンとサガーチャと戦った後にカジノの前で倒れていて、サガーチャが研究の為に連れて来たと言う事らしい。
サガーチャの話を聞いて、ギャンジの言葉を思い出した。
「そう言えば、ギャンジもアレースの加護がどうとか言っていたわね」
「ああ、やっぱりギャンジくんに会っていたんだね。彼には護衛を頼んでいてね。村を出るまでは自由にして良いと言ってあるんだ」
サガーチャはそこまで話すと、虹色に輝く怪しい液体が入った小瓶を取り出した。
そして、それを先程机の上に置いた銀色の玉の横に置く。
「これが何だかわかるかい?」
「は? 怪しい液体にしか見えないけど?」
「そうッスね。なんかヤバそうッス」
私とドゥーウィンが口々に答えると、フォレが液体に入った瓶に触れてサガーチャの代わりに答える。
「これは、ジャスミン様の為に、サガーチャが開発した対神用の飲料水。その名も【神無理】ぢゃ!」
「神無理ッスか? 変な名前ッスね」
「まあ、名前の事は良いじゃないか。これはギャンジくんにかかっていたアレース神の加護を調べて、そこで落ち込んでいるロークにかかっている加護を研究した結果完成したものなんだ」
「そう言う事ね。何でアイツなんかを護衛にしたのか謎だったのだけど、納得したわ。全部これの為って事ね」
「ああ。その通りさ」
サガーチャは頷くと小瓶と銀色の玉を懐に入れて、再び銀色の玉を取り出した。
「さて、私はそろそろ新作を完成させないとだ」
一瞬よくわからなかったのだけど、再び取り出した銀色の玉は別の物だった様だ。
サガーチャは一言喋ると、何やらよくわからない物を沢山取り出して、それを使って銀色の玉に作業を開始する。
サガーチャには悪いのだけれど、私はこれからプリュを助ける為に、ここで暴れなければならないかもしれない。
場所を変えて貰おうかと私は考えたのだけど、タイミング悪く猫喫茶に再び見知った顔が入って来て、目ざとく私達を見つけて近寄って来た。
「やっぱりジャスミンちゃんの仲間だニョロ」
近寄って来たのは蛇女。
さっきまでジャスミンと何かの勝負をして負けた女だ。
丁度良いと蛇女を睨み、この女を使ってポセイドーンをあぶり出そうと考えた。
だけど、睨む私に蛇女は笑顔を向けて、何故か親しく話しかけてきた。
「ジャスミンちゃんはとっても可愛いくて、あんな子とお友達になれて嬉しいニョロ。君もジャスミンちゃんと仲が良いニョロよね? これからはジャスミンちゃんの友達同士よろしくニョロ」
「え? え、ええ」
調子が狂う。
いつの間にジャスミンのお友達になっていたのよと言いたい所だけど、ジャスミンの事だから、きっと私の知らない所で直ぐに友達になってしまったのだろう。
蛇女を叩きのめしてやろうかとも思っていたけれど、仕方が無いと諦める。
ジャスミンのお友達になってしまった以上、この蛇女を無暗に傷つける事など出来なかった。
「甘狸の友達になったのか? 馬鹿だな~アイツは! 友達百人目指す一年生みたいだな! あーっはっはっはっはっ!」
マモンがよく分からない事を言って笑いだして、なんとなく苛ついたので睨む。
それから、蛇女からジャスミンが何をしていたのか聞いた。
蛇女の話では、ジャスミンは最年少天才魔性のバニー幼女ディーラーとカジノの客から呼ばれていて、その可愛さを存分に使って猛威を振るっているらしい。
ジャスミンが喜ぶ姿が可愛くて、賭博に来た連中が皆揃ってそれを見る為に負ける。
逆転させてあげた時の可愛さが尋常では無く、どんなに勝っていても最終的に喜ぶ顔を見たくて、自ら負けて破産する奴等が続出して経営側は大儲けだとか。
流石は私のジャスミンね。
と、私が蛇女からジャスミンの勇姿を聞いて頷いていると、アマンダが私に視線を向けて口を開く。
「ところで、何かあったの? まだ時間は残っていたと思うのだけど?」
アマンダの質問を聞いて、すっかりプリュの事を話し忘れてしまった自分の愚かさを恨む。
そして、私が答えるより先にドゥーウィンがそれに答える。
「あー! そうッスよ! こんな事してる場合じゃないッス! プリュを早く助けるッスよ!」
「何かあったにゃ?」
「ええ。あったってものではないわ。本当はその場で暴れてやろうかとも思ったのだけど、皆に一度話しておこうと思って来たのよ」
私が真剣な面持ちで話すと、皆何かを察したらしく、真剣に私の顔を見つめた。
「プリュが――」
私が話を切りだした時だった。
背後から殺気を感じて、私は即座に反応して振り返って構える。
その瞬間に、目の前にウェイトレス姿の龍族の女が現れて、私を無数の鞭の様な鞭撃が襲う。
一、二、三四……全部で百とちょっとね。
瞬時に対応して全ての鞭撃を殴って無効化すると、龍族の女が私から少し距離を置いた。
「あ~ら? 良い反応するわね~。不意打ちなら殺せると思ったんだけど残念」
「な、何事ニョロ!?」
私の横に立つ蛇女が驚いて、ようやく背後に振り向く。
更に他の皆も席から立ち上がり、周囲にいた猫達が驚いて逃げ出した。
「メールニョロ!?」
「はあ~い。いつの間にかに裏切り者になったヘビ美ちゃ~ん」
メールと聞いて思いだす。
忘れていたけれど、メールと言えば、以前ジャスミンに戦いを挑んで負けた能力持ちの龍族だった筈。
能力は【ストップウォッチ】とか言う対象相手の時間停止を可能とした眉唾物の能力だった。
「まさか、こんな所で攻撃を本当に仕掛けてくるとは思わなかったわね。ここは貴女方のお店では無かったの?」
アマンダがメールを睨みながら前に出ると、メールはニヤリと笑って答える。
「仕方が無いでしょ~う? 本当は個室にいる間に殺す予定だったのに、こっちに移動しちゃってたんだもの~」
メールと私の目がかち合い、メールが殺気を私に向ける。
「水の精霊と接触したのは間違いだったわね~。ポセイドーン様はお怒りよ~。勝手な事をしたら許さないってねー!」




