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140 百合も驚く大金の使い方

「一人金貨百枚! それ以上はまけられんで!」


「オーナー酷いですよ! そんな大金払えるわけないじゃないですか!」


 ビリアの活躍で猫喫茶に入れるようになったかと思いきや、ポセイドーンが出した入店の条件は馬鹿みたいに高い金額の支払いだった。

 ビリアが抗議を続けるけど、これだけは譲れないとポセイドーンも目をつぶってあらがっていた。

 何故目をつぶる必要があるのかは考えるまでも無く、目を開けていたらビリアの上目使いで、さっきの様に首を縦に振ってしまうからだろう。


「金貨百枚ね~」


「そんな大金無いッスよ」


 金貨百枚と言えば、余程のお金持ちでない限り持てない金額だ。

 私の家の金をかき集めても足らない。

 せいぜい金貨十枚が関の山だ。


 私とドゥーウィンが悩んでいると、そこでフォレとアマンダとナオがやって来る。


「ポセイドーンが何故ここにおる?」


「もう戦いが始まっていたの!?」


「ニャーも加勢するにゃ!」


 三人は戦闘態勢に入り身構える。

 それをドゥーウィンが慌てて前に立って止めに入った。


「待つッスよ! 今は猫喫茶に入る為の交渉中ッス!」


「何? 交渉中ぢゃと?」


「そうッスよ。ポセイドーンが一人金貨百枚でお店に入れてくれるって言ってたんスよ」


「なんぢゃと!? そんな大金、交渉する気が無いではないか! 馬鹿げておる!」


「ま、まあ、ボクもそう思うッスけど……」


 フォレが怒りポセイドーンを睨みつけるが、ポセイドーンは今も尚続くビリアの抗議に対抗する為に目をつぶっていた。

 一瞬だけ目をつぶり続けるポセイドーンをこのまま蹴り飛ばしてやろうかとも思ったけれど、プリュの状況が分からずにそれをしてしまうと、後々面倒な事になるかもしれないと考えて気持ちを抑える。

 プリュを攫って閉じこめるでも無く、猫喫茶で働かせる様な奴だ。

 何も手を打たずに、わざわざ自分からこんな人前に出て来るとは思えない。

 スミレにかかっている海神の加護もそうだ。

 ジャスミンは気にしていないようだったけれど、私はあれにも何か理由があるのではと警戒していた。


「一人金貨百枚で良いなら払うわよ」


「え?」


 不意にアマンダがとくに臆する事も無く自然に払うと言って、私はアマンダに視線を向けて驚いた。

 驚いたのは私だけではない様で、ポセイドーンも驚いて目を開けてアマンダに視線を送っていた。


「ま、待て待て待たんかい! 一人金貨百枚やで!? 銀貨とちゃうで!?」


「ええ。その程度・・で良いなら払うわ」


「て、程度やとおおっ!? 気が変わった! 一人光金石(こうきんせき)十枚や!」


「こ、光金石ぢゃとーっ!? ふざけるなポセイドーン! そんな大金――」


「何なら光金石百枚でも良いわ」


「な、なんやてえええええっっ!?」


 ポセイドーンの横暴な発言にフォレが怒ったのだけど、そこでアマンダが更に金額を上乗せして交渉に応じた為、今度はポセイドーンが大口を開けて驚いた。

 ただ、これに驚いたのはポセイドーンだけでは無く、私とドゥーウィンと怒っていたフォレも同じだった。

 なんならビリアでさえ驚いて口を開けていた。

 唯一驚いていなかったのはナオだけで、ケラケラと楽しそうに笑っていた。


 そんなナオの笑う姿を見て思いだしたのだけど、普段メイド服を着ているせいで、ついうっかり忘れがちになってしまうけどアマンダは南の国のお姫様だ。

 そう考えれば、たったの一枚で金貨百枚の価値がある光金石ですら、アマンダからしてみれば大したものではないのかもしれない。


 ポセイドーンは驚きすぎたせいか開いた口が塞がらなく体も硬直させて、そこへアマンダがごそごそと袋を取り出して、それをポセイドーンに差し出す。


「ここに、光金石千枚が入っているわ。入店に必要なのが六百枚だから、残り四百枚は注文した際の品の代金にあてて貰える?」


「はい! 喜んでー! 席を今直ぐ用意したるで待っとれよー!」


 ポセイドーンは突然動き出して、そう言いながらアマンダからお金を受け取ると、飛び跳ねる様に元気よくビリアを連れてお店の中に入って行く。

 最早店ごと買えてしまえそうな大金を渡したアマンダは、驚く私達に振り向き微笑んだ。


「何とかなって良かったわ」


「そ――」


「なんだ!? 入れる様になったのか!?」


 アマンダに返事を返そうとした時、マモンが煩く大声をあげてやって来た。

 私は呆れながら視線を向けて答える。


「そうよ。アマンダがお金を出して入れるようになったのよ」


 答えると、マモンが首を傾げて顔を顰める。


「お金でか? おかしいなー。私もお金をやるから予約券渡せって言ったけどくれなかったぞ」


「は?」


「私も並んでる奴に、光金石1枚やるから予約券譲ってくれって頼んだんだ」


「え? 化け猫はそんな事してたんスか?」


「そうだ! でも、この予約券はお金なんかじゃ渡せないって言われたわ!」


「どう言う事?」


「わからないわ! だから、何かあるのかと思って、さっきからお店の中を見てたけど何も無かったわ!」


 窓ガラスにへばりついて何をやっているのかと思ったら、そう言う事だったらしい。

 マモンがあまりにも馬鹿だから、気でも狂ったのかと思ってしまった。


「それよりマモン、其方、光金石などと言う大金をよく持っておったのう」


「世界中で猫集めをしていたからな! ボスに軍資金として貰ってたんだ!」


「それよりボクとしては、光金石なんて大金でも譲らないと言った理由が気になるッスね」


「よっぽど猫が好きなのかにゃ~」


「流石にそれは無いのではないかしら?」


「でも姉様、ここの猫喫茶には世界中の猫がいるにゃ」


「それは確かにそうかもしれないけれど……」


「でもそんな理由で断るッスかね~?」


「予約をして並んでいる人の殆どが男性と言うのも、その理由の一つなのかしら?」


 不意にアマンダから出たその言葉に、私は確認する為に視線を行列に向けた。

 アマンダの言っている通りで、何故か並んでいるのは殆ど男共だった。


「言われてみればそうッスね。全然気がつかなかったッス」


「ニャーも見落としてたにゃ」


「妾も気がつかなんだ。確かに何かありそうぢゃな」


「きっとたまたまだ!」


「アンタは黙ってなさい」


 馬鹿を睨みつけると、丁度その時ビリアが店の中からやって来た。


「お待たせ。準備が出来たわよ」


 並んでいるのが男ばかりなのが何故かはわからないままだけど、考えていても仕方が無いと、私達はビリアに続いて猫喫茶に入る事にした。


 この時の私は、まだ知る由も無かった。

 猫喫茶に予約して並ぶのが男ばかりだった理由が、あんな恐ろしい理由だと……。 


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