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139 百合の好敵手は甘え上手

 馬鹿親共に事情を簡単に話してハッカとレオを預けて、ノームに護衛を任せた私は、ドゥーウィンとフォレとナオとマモンと一緒に、再び猫喫茶へとやって来た。

 猫喫茶は相変わらずの行列を作っていて、私はその行列を見てどうするかと考える。

 実は、ここまで来たものの、まだ解決策は見つかっていなかった。


「ハニー、今更ッスけど、自称勇者達をハニーの家に預けて来て良かったッスかね?」


「何よいきなり」


「ボク等がハニーの家を出る時に、破裂娘がご主人の事が心配だって言ってたのが気になるんスよね~」


「ジャスミンの事をラヴに任せたなんて言ったら、よけいに行きたいって言いだすでしょうし、ハッカの事はノームに任せるしかないわよ」


「まあ、そうなんスけど……」


 ドゥーウィンが心配するのも無理は無かった。

 私達が猫喫茶に出かける直前に、ハッカがジャスミンの事をかなり心配していたのだ。

 最初はゼウスの件があるからだと思っていたけど、それだけでは無かった。

 ハッカは風の大精霊シルフが秘密基地まで襲いに来て、秘密基地を破壊したシルフの実力を目のあたりにしたのも、心配になった原因のようだった。


「とにかく、私達は私達のやるべき事をやりましょう」


「そうッスね」


「うむ。リリーの言う通りぢゃぞドゥーウィンよ。妾達は何としてでも、猫喫茶におるプリュイを助け出さねばならぬのぢゃ」


「でもどうするんだ? 今日も昨日と一緒で、私も入れてくれそうにないぞ?」


 昨日とは打って変わってマモンがケラケラと笑いながら喋るので、私とフォレはマモンを睨む。


「やっぱり強行突破するにゃ?」


「賛成だ! やっぱり私の提案が一番だな!」


 悔しいが他に良い案が浮かばない以上はそれしかないのかと、私とフォレが顔を顰めると、丁度その時背後から声をかけられる。


「猫喫茶の事を聞いていたから、ここに来て正解だったわね。遅れてごめんなさい」


「姉様!」


 振り向くと、そこには私達を見て微笑むアマンダが立っていた。

 ナオはアマンダを見るなり飛びついて抱き付く。


「ナオが迷惑をかけなかったかしら?」


「迷惑だなんてそんな、ナオのおかげで助かったくらいよ」


「そう。それなら良かったわ」


 アマンダはそう言って微笑むと、私達を見て呟く。


「ジャスミンの姿が見えない様だけど、別行動をしているの?」


「ご主人は今カジノにいるッス」


「カジノ?」


「賭け事をする建物の事ぢゃ。ほれ、あの大きい建物がそうぢゃ」


 フォレが魔法で木の根を出してカジノに向かって根の先を向けると、アマンダはそれに従ってカジノに視線を移す。


「妙な建物が建っていると思ったら、賭博用の物だったのね」


「そんな事より、さっさと強行突破するわよ! まずは私が猫喫茶の壁をぶっ壊して、私を入店させなかった事を後悔させてやるわ!」


 マモンが走りだそうとしたので、とりあえず腕を掴んで止める。


「待ちなさい」


「何だ?」


「何だじゃないわよ。せっかくアマンダが来たのだし、アマンダにも意見を聞きましょう」


「仕方が無いな」


 マモンの一言に苛立ちを覚えたが一先ず耐えて、私は事情をアマンダに説明した。

 アマンダは事情を聞くと顎に手を当てて考えだし、何かを思いついて提案する。


「予約待ちをしている方達に、一度譲ってほしいと頼んでみない? 譲ってくれる人が一人くらい現れるかもしれないわ」


 成程、と、私は考える。

 せっかく手に入れた人気の猫喫茶の予約券を譲る人なんていないとも思うけれど、頼んでみない事にはわからない。

 ここは駄目元で頼むのも一つの手かもしれない。

 少なくとも、強行突破よりは良いと私は判断した。

 ジャスミンは気にする事ないと言ってくれたけど、荒事にならずに済むのであれば、それに越した事は無い筈。


「やってみましょう」


「え? マジッスか?」


「そうぢゃな。何もせんよりは良いぢゃろう」


「ニャーも聞いてみるにゃ」


「手伝ってやるわ!」


「皆意外と乗り気ッスね。それならボクも頼んでみるッス」


 アマンダの意見に皆が賛成した所で、私達は各自別行動で動き出した。

 私がまず取る行動は勿論決まっていて、ジャスミンのお母様に挨拶をする為に猫喫茶の入口へと向かう。

 だけど、猫喫茶にいたのはジャスミンのお母様では無く、ハープの都以来会っていなかったオカマのプルソンだった。


「あら? リリィちゃんじゃない。久しぶりね。って何よその顔? 会って早々に失礼な子ね」


「悪いわね。私は元々こういう顔よ。それより、お義母さ――ジャスミンのお母様の姿が見えない様だけど?」


「ジャスミンちゃんのママ……? あー、昨日ここでお客様に案内していた奥さんの事ね」


「そうよ。今日はいらっしゃらないの?」


「調理場で料理してるわよ」


「そう言えば調理場の責任者って仰ってたわね。はあ……。ご挨拶したかったのに残念ね」


「呼んで来ましょうか?」


「ご迷惑になるから遠慮するわ」


「あら? 貴女にしては随分と謙虚ね。雨でも降るのかしら?」


 プルソンは空を見上げて天気を確認する。

 生憎、雨どころか曇一つない快晴だ。

 若干の苛立ちを覚えたけど、こんな奴に構ってはいられないので、私はその場を離れた。

 誰から聞いたのか知らないけれど背後から、スミレを見つけて来てくれてありがとうと言われて、とりあえず手だけ振っておいた。


 行列に目を向ける。

 フォレとアマンダとナオは、頑張って一人一人に話を伺っている様だった。

 マモンの姿は無く……と思ったら、猫喫茶の大きな窓ガラスにへばりついて、中の様子をうかがっていた。

 ドゥーウィンはと言うと……。


「よく見るとおっぱいそれなりにデカいッスね」


 何やってんのよアイツ。


 ドゥーウィンは行列では無く、近くを歩いていた女にセクハラしていた。

 私は呆れてドゥーウィンに近づき注意する。


「ちょっとドゥーウィン、アンタ真剣にやりなさいよ」


「あれ? リリィちゃんに妹なんていたかしら?」


 リリィちゃんと言われて女の顔を見上げると、その顔はよく見たらブーゲンビリアと言う名前の知り合いだった。


 ブーゲンビリアは一回り年上の女で、ジャスミンのお友達でもあり私の恋のライバルでもある。

 年の割にはそれなりに可愛い顔立ちで、髪はショートボブでホワイトとピンクのツートンカラー。

 瞳の色はピンクで目がパッチリとしている。

 恋のライバルではあるけれど、ビリア、と愛称で呼ぶほどには仲が良い間柄だ。


「妹ではなくて本人よ」


「そうなの? まあ、リリィちゃんならあり得そうだし信じてあげる」


「話が早くて助かるわ。それで、ビリアはここで何してるの?」


「ああ私? 私は今から猫喫茶でウェイトレスの仕事。もう直ぐでお昼でしょ? 私はお昼から仕事なの」


「ビリアもここで仕事してたの?」


「そうよ。あ、そうだ。良かったらお店に寄ってってよ。サービスするわよ」


「残念だけど、昨日ジャスミンのお母様に予約は一ヶ月待ちだと言われたわ」


「そうなの? それなら、私がなんとかしてあげる」


「え?」


 ビリアの発言に驚くのも束の間、ビリアは小走りで猫喫茶に入って行った。


「ハニー、何とかなると思うッスか?」


「流石にならないでしょ」


 私は即答し、それでもビリアが入って行った猫喫茶の入り口を見続ける。

 少し時間が経つと、ビリアがウェイトレスの格好に着替えてやって来た。

 しかも、ポセイドーンを連れて……。


「お待たせ。交渉相手を連れて来たわよ」


「おいおいおいおい! 待たんかい! 今直ぐ店に入れたい友達がおる言うから来たったら、こいつ等やないか! ビリアちゃんの頼みでも聞けんで!」


 ビリアちゃん?


 顔を顰めて、ビリアにちゃん付けしたポセイドーンに視線を向けると、不意に視線が合って睨まれたので睨み返す。

 するとそこで、ビリアがポセイドーンの頬に両手で触れて、自分の方に視線を向けさせる。


「そんな事言わないで下さいよオーナー。さっきは、私の友達なら予約なんて関係ないって言ってくれたじゃないですかー」


「せ、せやけどな~。ワテにも――」


「えー。オーナー酷いですよ。私に嘘ついたんですか?」


 ビリアが瞳を潤ませて、眉根を下げてポセイドーンに上目使いする。


「そ、そんなわけないやろ! ワテがビリアちゃんに嘘つくわけないやないか!」


「流石オーナー! 頼りになります!」


 ビリアがポセイドーンに抱き付き、ポセイドーンが鼻の下を伸ばした。

 そして私とドゥーウィンはと言うと、二人のやり取りを見て口々に呟いた。


「どうなってるのよこれ?」


「知らないッスよ……」


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