138 百合も呆れる両親の理解力
シルフの魔法で秘密基地が破壊されてしまい、仕方が無いのでハッカとレオとノームを自宅に連れて行く事にした。
ノームだけであれば、その場に置き去りにしてもよかったのだけど、幼くなってしまったハッカとレオまでとは流石にいかなかった。
シルフが連れて来た操られた兵士や吸血鬼達は、適当な木に縛り上げて身動きがとれない様にしておいた。
そうして、シルフの魔法で命を落としてしまった馬鹿なマモンを放置して、私は久しぶりのわが家へと向かって歩き出す。
「待てーっ! リリィ=アイビー! 私を置いて行くなー!」
ちっ。
生きてたか。
とりあえず生きていた馬鹿は放っておいて歩いていると、フォレが顔を真っ青にさせて私の目の前に来て口を開く。
「リリー不味いのぢゃ! ジャスミン様のバニーガール姿が衝撃的すぎて、伝えねばならぬ事を一つ忘れておる!」
「どうしたのよ急に。そんなに慌てる様な事なの?」
「何かあったんスか?」
フォレが珍しく慌てるのでドゥーウィンも不思議に思い質問すると、フォレが顔を真っ青にしたまま答える。
「ゼウスがアレースと一緒にいたと言う目撃情報を伝え忘れておったのぢゃ!」
「あっ」
「マジッスかそれ?」
「そう言えば忘れてたにゃ」
「今直ぐ伝えに行くのぢゃ!」
「そうね! それが良いわ!」
昨日に引き続きやってしまったと後悔しても、もう遅い。
とにかく今は早くジャスミンにこの事を伝えないとと、私とフォレが走りだそうとすると、予想外の人物に呼び止められる。
「リリとフォレたま待って!」
「ラヴ?」
「なんぢゃ? 今は急いでおるから早く話せ」
「わたち行く。ふたり、ジャチュとやくちょくちたから、プユたちゅけて」
「ラヴ……。ええ、そうね。お願い出来るかしら?」
「そうぢゃな。妾も焦るあまり、大事な事を忘れておったようぢゃ。ラーヴ、ジャスミン様の事は頼んだぞ」
「がお!」
「私も行く!」
ラヴが元気に返事をすると、話を聞いていたハッカが声をあげた。
だけど、流石にそれは許容出来るわけがない。
「ハッカは駄目よ」
「何で? 私もジャスミンちゃんの役に立ちたい!」
「俺も俺も!」
「二人共我が儘言ったら駄目ッスよ。神が二人もいるんスよ。危険だからハニーの家でお留守番するッス」
「その通りだ二人共。儂が一緒に遊んでやるから、リリィ殿の家に行こう」
「やだ! ラーヴちゃんばっかりズルい!」
「そうだそうだ! 俺だって戦える!」
「困ったわね……」
ハッカとレオが言う事を聞いてくれそうになく、どうしようかと考えていると、ラヴが私の耳元まで来てひそひそと提案する。
「わたち、リリの家いっちょに行く。リリの家でこっちょりカヂノ行く」
成程と私は頷いた。
確かにその方法であれば、自分達だけが行けないと駄々をこねる事も無いかもしれない。
ラヴがジャスミンの許へ行くのが多少遅くなってはしまうけど、ハッカとレオがカジノに行ってしまうより全然良いと私は判断した。
「頼める?」
「がお」
ラヴが頷き、私はハッカとレオに視線を送る。
「ラヴに頼むのをやめたわ。だから、ハッカとレオは私の家に行く事。良い?」
「「ええーっ」」
ハッカとレオは同時に非難の声を上げたけど、その後にラヴが自分も我慢すると言ってくれたおかげで、二人も我慢すると諦めた。
それから、こっそりとフォレとナオにはラヴの提案の事を伝えた。
少しでも早くジャスミンにゼウスの事を伝える為に、早足で私の家まで辿り着く。
私は家に着いてから直ぐに玄関の扉を開けようと取っ手に手を伸ばした。
すると、私が取っ手を掴む前に、突然扉が開かれた。
扉が開かれて現れたのは私のママとパパで、二人ともこれから何処かに出かける様な雰囲気だった。
私とママの目がかち合い、パパが私の背後にいるハッカ達を順に見る。
「あら? リリィのお友達かしら? 生憎、リリィはここ暫らくの間出かけていていないのよ」
「はあ?」
ママから出た言葉に呆れて顔を顰めると、パパが私に視線を移して驚きの表情を見せる。
「この見覚えのある顔! まさか……」
「良かった。パパは気がついたみたいね。本当、ママは自分のむす――」
「ママ! 隠し子なんていつの間に作ったんだ!? この見覚えのある顔はママにそっくりだ!」
「――は?」
パパから出た予想外の言葉に、私は驚き言葉を失った。
「何言ってるのよアナタ! それはこっちのセリフよ! この子が今、アナタの事をパパって言ったわよ!」
「そんな馬鹿な事があるか! まさかママ、自分の隠し子を使って、わたしに責任を擦り付ける為に演技をさせているんじゃないだろうね!?」
「それはアナタの方でしょ! アナタがそんな人だなんて思わなかったわ!」
目の前で馬鹿親共が喧嘩を始める。
なんて愚かな馬鹿親共なのだろうか?
本当にジャスミンのお母様とお父様を見習ってほしいと心から思わずにはいられない。
私が馬鹿親共に呆れていると、ドゥーウィンが私に近づき質問する。
「ハニーどうするんスか? ハニーのママさんとパパさんが喧嘩始めちゃったッスよ」
「蹴り飛ばして黙らせようかしら?」
「リリ、自分のママとパパにそんな事しちゃ駄目にゃ」
「じゃあどうすんのよこの馬鹿親。はあ……。こんな馬鹿親の娘だって思うと恥ずかしいわ」
「しかし困ったのう。ジャスミン様がいれば……む? ドゥーウィン、其方とラヴが説明すれば、信じて貰えるのではないか?」
「がお?」
「ボク等でッスか? うーん……やってみ――あ。良い事思いついたッス」
ドゥーウィンはそう言うと、私の馬鹿親共の前まで飛んで行く。
「ハニーのママさんとパパさん久しぶりッス」
「あら? ドゥーウィンちゃん? 久しぶりね。でもごめんね。今、パパの浮気を暴いている所だから」
「何!? 浮気をしているのはそっちだろ! ドゥーウィンちゃん、こんな浮気性なママとは話さない方が良い! 浮気癖が移るに決まってる!」
「何ですって!?」
「まあまあ、二人とも落ち着いてこれを見るッス」
興奮して喧嘩を再開しようとする馬鹿親共を制止させて、ドゥーウィンが私の所に戻って来た。
そして……。
「このパンツを見るッス!」
ドゥーウィンが風の魔法を使って私の穿いているスカートを捲り上げて、私は馬鹿親共にパンツをお披露目する事になった。
私は呆れてドゥーウィンに視線を向けた。
「こんな時に何やってるのよ?」
「ハニー、アレを見るッス」
ドゥーウィンが私の馬鹿親に指をさして、私は呆れながらも視線を送る。
すると、私の目に映ったのは、驚く馬鹿親共の顔だった。
何が起きたのかわからず私が顔を顰めると、馬鹿親共が交互に呟く。
「その可愛らしいパンツは、ジャスミンちゃんが好きそうなパンツ!?」
「それにスカートを捲られてパンツを見られたというのに、尚この冷静さ! そうかわかったぞ! この子はわたし達の娘の――」
どうやら、よく分からないがやっと気がついたらしい。
実は今私が穿いているパンツは、今し方ママが言った通りに、ジャスミンが好むパンツだった。
私が幼い姿になってからと言うもの、ジャスミンが私のパンツを選んでいる。
と言うのも、ジャスミンは私がこの幼い姿でいつものショーツを穿くのは駄目だと言いだして、ジャスミンが服と下着を選んで私に着せる様になったのだ。
ジャスミンが選んでくれるものは全部子供っぽくて少し恥ずかしいのだけど、何よりも大好きなジャスミンが選んでくれた物なので、私はそれを喜んで着ていた。
だから、今も私はジャスミンが選んでくれたお子様パンツを穿いていたのだけれど、逆にそれが良かったようだ。
「――リリィの娘だったのか!?」
「は?」
「そうね。疑ってごめんなさいアナタ。まさか、私達に孫が出来ていたなんて思わなかったわ。うふふふ」
「そうだね。全く、リリィも隅に置けないな~。はははは」
どうやら、やっぱり私の親は馬鹿親らしい。
「んなわけないでしょーが! 何処まで馬鹿なのよ! 自分の娘くらい見ただけでわかりなさいよ! だいたい十歳の年でこんなデカい娘がいるわけないでしょう!?」
流石に私も頭にきて気がつけば怒鳴っていた。
すると、それを聞いて馬鹿親共が驚いて、二人して抱き付き合って腰を抜かせて尻餅をつく。
「まさか、リリィなの?」
「そうよ! 文句ある!?」
「間違いない。この可愛げのなさ。リリィだ!」
「可愛げなくて悪かったわね!」
ようやく理解したようで、手の平返して馬鹿親共が私に抱き付く。
「其方も難儀な両親をもっておるのぅ」
「本当よ。ジャスミンのお母様とお父様を見習ってほしいわね」
「うふふふ。この子ったら照れちゃって」
「こらこら。ママ、そんな事言ったら、またリリィが怒ってしまうぞ」
本気でこの馬鹿親共、一回ボロ雑巾の様にしてやろうかしら?
そうしたら多少は目を覚ますと思うのよね。
「そうね。でも、リリィが小さくなったから、私まで若返ったような気がするわ」
「それはわたしもだよママ。今ならリリィの大好きなジャスミンちゃんが、わたしに惚れ直しちゃいそうだ」
「うふふふ。そうね。ジャスミンちゃんってばパパっ子だものね。きっとパパの事も大好きになっちゃうわ」
「そうだろう? 困ったな~。リリィにヤキモチを焼かれてしまうぞ。はははは!」
駄目だわこの馬鹿親共。
頭がお花畑すぎて手遅れね。




