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133 百合を脅かすカジノの罠

 目を開けると朱色に染まる空が視界の先に広がっていて、私は夕方なんだと思いながら上半身を起こす。


「やっと起きたにゃ。リリ、体調は……まあ、大丈夫だよにゃ~」


「まったく、其方もまだまだぢゃのう。と言う妾も、一瞬意識を持っていかれそうになったがのう」


「突然倒れたからびっくりしたぞ!」


 倒れた?

 私が?


「どうしたのぢゃ? まさか、覚えておらぬのか?」


「え、ええ。そう……ね…………あ」


 思いだした。

 そうよ!

 そうだったわ!

 なんて事なの!?


「まさか、カジノがあんなに恐ろしい所だったなんて!」


「そうぢゃな。妾もカジノに行きたくとも、しっかり準備をして行かねば、精神がもちそうにないのぢゃ」


「ええ……」


 私は頷く。

 カジノは本当に恐ろしい所だった。

 鮮明に甦るあの記憶、決して私は忘れない。

 私は思いだす。

 あの恐ろしい出来事を……。





 ラークの馬鹿とゼウスを始末しに向かった私達は、カジノの中に入る。

 そこは様々な音が飛び交っていて煩い場所で、私はそれだけで苛立っていた。

 だけど、そんなゴミの様な騒音の中で、天使の産声の様な素敵な声が聞こえた。


「うぅ……。ワンペアです……」


 ジャスミン!?


 声が聞こえた方向に視線を向ける。


「え? 降りるの? やったぁ! 私の勝ちだー!」


 視線の先、その先には恐ろしくも悩ましいジャスミンの姿。

 兎の耳を頭につけて、兎の尻尾がある不思議な格好。

 肌の露出が多い服で水着の様だったけれど、全く別の物だと私には分かる。

 見た事も無い、そのいやらしくも悩ましい服を着ていたジャスミンは、満面の笑顔で可愛らしく喜んでいた。

 私はそんなジャスミンの姿を見て、その姿のあまりの破壊力に鼻血を噴き出して意識を失ってしまった。





「ヤバいわ。思い出しただけで鼻血が出てきたわ」


「うむ。ジャスミン様のバニーガール姿の破壊力たるや恐ろしく、まさに世界を揺るがす程の脅威であったのぢゃ」


「ええ。もし私がジャスミンの色んな恥ずかしい姿を知っていなかったら、間違いなく即死だったわ」


 フォレと二人で頷き合い、私はバニーガールと言う素晴らしい言葉を覚えた。

 その時、ナオが何故か呆れた様な表情を向けて口を開ける。


「にゃー。リリが気絶してから大分時間が経っちゃったにゃ。そろそろ猫喫茶に行かないと、精霊が帰っちゃうにゃ」


「ナオの言う通りね。ジャスミンの可愛さを思いだして、我を忘れる所だったわ」


「そうぢゃな。プリュイに会いに行くとしよう」


「よーし! お前等! 私について来い!」


 マモンが元気よく先頭を走りだす。

 わざわざそれにつきあってあげるのもしゃくだったが、かと言って歩いて向かって、プリュとすれ違いになるのもよくないので私も走った。



 猫喫茶に辿り着く。

 行列はだいぶ少なくなっていて、外で客を案内していたジャスミンのお母様の姿は無かった。

 そのかわり、猫喫茶の前にはアスモデが立っていた。

 アスモデは私達に気が付くと、手招きして私達を呼ぶ。


「あはっ。やっと来た」


「やっとって、一応これでも早めに来たはずなんだけど?」


「ま~そうなんだけど、ちょっと予定が変わっちゃってね~」


「ボス、何かあったのか?」


 マモンがアスモデに質問すると、アスモデは苦笑交じりに答える。


「責任者のポセイドーンが精霊を帰しちゃった」


「はあ?」


「アナタ達の事を精霊を狙うストーカーって言って、今後は自分が退勤時間を決めるって言ってた」


「何よそれ!? だいたい私達がストーカー? ふざけるのも――」


「ごめんね! リリィちゃん!」


 私が怒鳴っている途中で、ジャスミンのお母様が猫喫茶の中から出て来て、私に向かって頭を下げた。


「――お、小母様!?」


「私がポセイドーンさんに、リリィちゃん達の事を言っちゃったの。プリュイちゃんに用事があるみたいだから、合わせてあげたいって。そしたら、こんな事になっちゃって……。会いたければ、客として来ればいいって。それ以外は認めないって言われたの。本当にごめんね!」


「そ、そんな! 小母様が謝る必要なんて無いです! 私の方こそ困らせる様な事してごめんなさい!」


 大失敗だ。

 ここではジャスミンのお母様が働いていると知っているのに、怒鳴り散らした挙句にプリュの事で迷惑までかけて頭を下げさせてしまった。

 なんて愚かな事をしてしまったんだと後悔する。


「すぎてしまった事は仕方が無いにゃ。ママさんも色々ありがとにゃ」


「ううん。力になれなくてごめんね」


「母上様、気にしないでほしいですぢゃ。お仕事の邪魔をしても悪いので、妾達はこれで失礼するのぢゃ」


「次は気をつけなさ――ぎゃあっ!」


 余計な事を言いかけたマモンの頭をフォレが木の根で殴る。


 私達はジャスミンのお母様に迷惑をかけてしまった事をお詫びして、猫喫茶から離れた。

 そして、ジャスミンのお母様と別れる時に、私はプリュがジャスミンの家には帰って来ない事を聞いた。

 どうやらポセイドーンは警戒心が強いらしく、そのせいかプリュが帰る場所を誰にも話してくれないらしい。

 おかげで何処に帰ってしまったのかもわからず、私達は何の成果も得る事が出来なかった。


 猫喫茶から離れた後も私は落ち込んでいた。

 プリュの事もそうだけど、今はジャスミンのお母様を……大好きな小母様を困らせて、頭を下げさせてしまった事に酷く後悔した。


「リリー、そう落ち込むでない。今回ばかりは仕方が無いぢゃろう。それよりも、これからどうするかを考えるのぢゃ」


「にゃー。別にリリもママさんも悪くないにゃ。悪いのは横暴をはたらくポセイドーンだにゃ」


「……そうよね。ごめん。しっかりしなくちゃよね!」


 フォレとナオに励まされて、顔を上げて気合を入れる。


「あーっはっはっはっはっ。リリィ=アイビーでも落ち込む事があるんだな!」


 マモンが私に指をさして笑うので、とりあえず地面に埋めて黙らせる。


 それから私達は、プリュイの帰った所を捜しに行こうとはならず、そのまま秘密基地に帰る事にした。

 理由としては、今日と言う日が何をやっても上手くいかない日だったからだ。

 こんな日は無理をしても悪い事ばかり起きると、ナオからの提案だった。

 ナオの言う通りかもしれないと、私もフォレも判断して帰る事に賛成した。


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