130 百合は幼女を捜索する
ジャスミンのお母様のお話だと、オぺ子ちゃんはカジノとか言うセンスの無い建物の中にいる。
私達は本来の目的であるオぺ子ちゃんに会う為に、カジノに向かって歩いていたのだけど……。
「リリー、厄介な事が起きておるやもしれんぞ」
「どう言う事よ?」
聞き返すと、フォレは真剣な面持ちで答える。
「念の為、先程の事をジャスミン様に報告する為に加護の通信を使ったのぢゃが、何故か連絡が取れぬのぢゃ」
「は? 何かあったの?」
「わからぬ。考えたくはないが、ジャスミン様に何か起きているやもしれぬ。リリーよ。確か其方も妾達の会話を聞けた筈。何かわからぬか?」
「あのね、私はジャスミンがお話してるから聞けるだけなのよ? ジャスミンが反応しないのに、そんな事出来るわけないでしょう?」
「むう。それもそうであったな」
残念ながら、私はそこまで万能じゃない。
確かに加護の通信だとか言うのの話を聞く事は出来るけど、それはジャスミンの声を聞きたいからに他ならない。
加護を持たない私が自ら通信をするなんて出来るわけがない。
ただ、この時私は、一つ加護について思いだした。
「ねえ? 加護で思いだしたのだけど、確か精霊側は契約者の居場所がわかるものではなかった?」
距離が離れれば離れる程それは曖昧になる様だが、近くであれば、少なくともこの村の中だけなら問題は無い筈。
しかし、私の質問にフォレは眉根を下げて答える。
「そうぢゃな。しかし、実は先程からジャスミン様の場所がつかめぬのぢゃ」
その答えを聞いて、私の全身から血の気が引く。
最早オぺ子ちゃんを捜しに行っている場合では無い。
「予定変更よ。ジャスミンを捜すわ」
「うむ。妾もそれが良いと思うのぢゃ」
私とフォレがそう結論付けると、今まで話を黙って聞いていたナオが口を開く。
「それなら手分けして捜した方が良いと思うにゃ。集合する時間と場所を決めるにゃ」
「そうね。そうしましょう」
同意して頷くと、マモンがドヤ顔で声をあげる。
「それなら私は猫喫茶に戻るわ!」
「は? アンタ、今の話聞いてた? ジャスミンを捜しに行くのよ?」
「だからだ! その間に、私は猫喫茶で副店長として料理の味見をして来るわ! 安心しろ。その間に精霊を助けて甘狸が店に来ないか見張ってやる!」
一瞬蹴り飛ばそうかとも思ったけどやめる。
冷静になって考えてみれば、このバカ一人であれば店内に入るのは可能。
プリュの事を任せるのは心配ではあるけれど、何もしないよりは良い筈。
それに、ジャスミンはプリュを捜しているのだから、もしかしたら猫喫茶に行くかもしれない。
そう考えれば、あながち猫喫茶で待機するのも悪い提案では無い。
「ニャーはこの村の事をよく知らないから、手あたり次第捜すにゃ。リリはジャスミーが行きそうな所を捜すと良いと思うにゃ」
「そうね。そうするわ」
「では、妾は村の中ではなく外を捜してくるのぢゃ。この辺りは草木も多く、森に囲まれておる。草木を味方につけれる妾であれば、それを利用出来るのぢゃ」
「決まりね」
フォレとナオとマモンが頷き、私達は集合する時間と場所を決めて、それぞれに別れてジャスミンを捜す事になった。
別行動を開始して直ぐに、私は心当たりのある場所に向かう。
まずはジャスミンのお家だ。
ジャスミンと契約しているフォレが、ジャスミンとの繋がりを感じ取れなくなり通信さえも出来なくなったこの状況下で自分の家にいるとは考えづらいけれど、だからと言って確認しないと言う選択技は無い。
私は急いでジャスミンのお家へ向かい辿り着いた。
「ごめんくださーい!」
扉を叩いて呼びかけてみたものの、やはり誰からの反応も無かった。
ジャスミンのお母様は猫喫茶で働いているし、お父様もきっとこの時間は今日の夕飯のおかずを狩猟しに行っている時間だ。
「仕方が無い……」
諦めて別の場所に向かう事にした。
次に向かうのは、ジャスミンが溺愛している一つ年下の狼の獣人の女の子。
ルピナスちゃんの家だ。
ジャスミンが妹の様に可愛がっている子で、ルピナスちゃん自身もジャスミンの事を姉の様に慕っている。
だからこそ、ジャスミンがいてもおかしくはないし、ルピナスちゃんがジャスミンの居場所を知っているかもしれない。
そして、その次はタイムと言う男の家。
この男は普段は人の姿に化けているが、その正体は魔族のフェニックスで、ジャスミンを不老不死にした張本人だ。
私は元々この男が話したくない程に嫌いだったが、今ではジャスミンの事で感謝している話したくない嫌いな奴、程度の存在になっている。
この男もジャスミンに兄のように慕われていて、ジャスミンの事を妹の様に慕っているいけ好かない男だ。
ルピナスちゃんのお家へ向かう途中で、私は素敵な殿方を発見した。
私は嬉しくなって笑顔で殿方に呼びかける。
「小父様ー!」
呼びかけると殿方は私に振り向いて、一瞬キョトンと可愛らしい表情を見せてから、直ぐに笑顔を向けてくれた。
「もしかしてリリィちゃんかい? 久しぶりだね。元気にしてたかい?」
「はい! 小父様もお元気そうで。先程は猫喫茶で小母様にお会いしたんですよ」
私が呼びかけた殿方はジャスミンのお父様。
ジャスミンのお母様と同じく、私が憧れて尊敬する唯一の男性。
優しくかっこいい大人の男性で、私の事を本当の娘の様に可愛がってくれる。
ジャスミンがパパ大好きと言うのも頷ける程に、凄く素敵なお父様だ。
私はジャスミンのお父様にもお母様同様に、二人の結婚を認めてもらいたいと思っている。
「そうなのかい? リリィちゃん見ないうちに可愛くなってるから、妻もびっくりしたんじゃない?」
「いいえ。可愛いだなんてそんな……。直ぐに私だと気付いてくれた様で、小母様の方から話しかけて下さいました。流石はジャスミンのお母様です」
「ははは。そうなのかい? ごめんね。実は言うと僕は最初気付かなかったんだ。やっぱりママには勝てないなぁ」
「そんな事ありません。小父様も直ぐに気付いて下されて、とても嬉しいです」
「そう言って貰えると僕も嬉しいよ」
ジャスミンのお父様は微笑んで、私の頭を撫でて下さった。
私は嬉しさのあまり飛び跳ねたくなる気持ちをグッと抑えて、小父様の顔を見上げて質問する。
「小父様は今お帰りですか?」
「違うよ。今から食材を狩りに出かけるんだ。妻と同じで、僕も今は猫喫茶で働いているんだよ」
「まあ、そうだったんですね」
この時、私は少し思考を巡らせた。
ジャスミンのお父様も猫喫茶で働いているなら、ジャスミンの事は知らないと考えて間違いない。
だからと言って、このまま別れてもいいのか考えた。
そして、考えた結果私は行動に出る。
「それなら、私もご一緒しても良いですか?」
「え? 構わないけど良いのかい? 狩りなんて、女の子にはつまらないと思うけど」
「いいえ。そんな事ありません! 小父様のお手伝いをさせて下さい!」
「ははは。それなら手伝って貰おうかな」
「はい! よろしくお願いします!」
こうして、私はジャスミンのお父様について行き、狩りのお手伝いをする事になった。




