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128 百合もルールには逆らえない

 突然のジャスミンのお母様の登場で慌てる私とフォレが、失礼極まりないマモンの顔を地面に叩きつけると、ナオがマモンの側に来てしゃがんで人差し指でつつく。


「大丈夫かにゃ?」


 マモンからの反応は無く、完全に気を失っている様だ。

 ナオは反応を見せないマモンを突くのをやめて、ジャスミンのお母様と向かい合った。


「ニャーはナオ=キャトフリーだにゃ。猫喫茶に用があって来たにゃ。ママさんはここで何をしているにゃ?」


 ナオの言葉を聞いて私は自分が何をしに来たのか思いだした。

 突然のジャスミンのお母様の登場で、ついうっかり忘れてしまっていたけど、ジャスミンの為に目的を果たさなければならない。

 名残惜しいけど、ジャスミンのお母様に別れの挨拶を言って今直ぐ猫喫茶へ向かおう、と思ったその時だ。

 私は、またもやジャスミンのお母様に驚かされてしまう。


「え? 私? 私はここの猫喫茶で働いているのよ。マモンちゃんから聞かなかったの?」


「お、お義母様がここで!?」


 おのれマモンめー。

 よくも黙っていてくれたわね!


「え? お母様?」


「い、いえ。小母様がここで、と言ったのです」


「あらそう? うふふ。リリィちゃんが娘なら、うちは大歓迎なのに残念ね」


 お義母様!

 そんな事言われると、嬉しさで昇天してしまいますー!


「ママさん、ここで働いてるなら話が早いにゃ。ニャー達はここで働いているオぺ……リリオペだったかにゃ? に会いに来たにゃ」


「え? リリオペくん? リリオペくんならここにはいないわよ」


 昇天しかけた私は一瞬にして現実に戻る。


「お、小母様、本当ですか?」


「ええ。ラークくんのお手伝いをする事にしたって言っていたわね。だから今頃はカジノのお手伝いをしていると思うわよ」


「カジノって何にゃ?」


「ほら、ここからでも見えるでしょう? あの大きな建物がカジノよ。あれが出来てから、この村に沢山人が来るようになって、この通りこのお店も大忙しなのよ。でも」


 私は小母さまの話を聞きながら考えた。

 あの大きな建物の中にオぺ子ちゃんがいるなら、今からそちらに行くべき。

 しかし、嫌な予感は拭えない。

 その理由は、私には見えているものがあったから。

 私は魔力を可視化する事が出来るのだけど、さっきから気になる魔力が目の前の猫喫茶から見えていた。

 それは、大好きなジャスミンといつも一緒にいたお友達。

 見間違える筈も無い。

 私も親しくさせて貰っている、ジャスミンの大切な――――


「リリオペくんの代わりに、今はプリュイちゃんが手伝ってくれているの。おかげで大助かりだわ」


 やっぱり、と私は猫喫茶に視線を向けた。

 ずっと猫喫茶から感じ、そして見えている魔力の正体。

 それはジャスミンと契約を交わし、いつも一緒にいた大切なお友達のプリュだった。


 攫われたプリュが直ぐそこにいるのに、それを放っておいて、オぺ子ちゃんを捜しに行くなんて出来るわけないじゃない。


「は、母上様。つかぬ事をお聞きするが、プリュイに会う事は出来ぬかのう?」


「プリュイちゃんに? 良いわよ。ちょっと待っててね」


 ジャスミンのお母様はフォレに返事を返すと、猫喫茶の中に入って行く。


 流石はジャスミンのお母様。

 こんな行列が出来て忙しい中だと言うのに、私達の話を聞いて頂けるなんて。


「ひ、酷い目に合ったわ……」


 マモンが顔を上げて起き上がる。


「あら? 随分と長いキスだったわね。そんなに地面が恋しかったの?」


「リリィ=アイビー許すまじ! 決闘だー!」


「これ、静かにせんか。母上様のお客様に迷惑ぢゃろう」


「まったくだわ。騒ぐなら余所に行きなさいよ」


「な、なにをー!」


「まあまあ落ち着くにゃ。それよりマモマモは猫喫茶で働かなくて良いのかにゃ?」


「そうだったわ!」


 マモンがお店に入ろうとした丁度その時、ジャスミンのお母様が戻って来た。

 そして、眉根を下げて両手を合わした。


「ごめんリリィちゃん、フォレちゃん。プリュイちゃん忙しいから今は会えないって……。私が交代するよって言ったのだけど、交代しないって断られちゃったわ」


 あ、会えない?

 いいえ、でも、このまま引き下がれはしないわよね。


「それなら、客として会う事にします。最後尾に並びに行きます」


「仕方が無い。それが良いぢゃろうな」


 私とフォレが並びに行こうとすると、ジャスミンのお母様に呼び止められる。


「待って! その列は違うの!」


「どう言う事にゃ?」


「その列はね、今日ご予約して下さったお客様の列なの。皆さん待ちきれなくて、予約しているのに順番に列を作って待っていてくれているのよ。私が外にいるのも、勘違いされるお客様をご案内する為なのよ」


 凄く嫌な予感がした。

 この馬鹿みたいに長い行列が、皆既に予約している客だと仰ったのだ。

 私は嫌な予感を拭いたくて、若干の希望を持ちながら恐る恐る確認する。


「お、小母様、今から予約すると、だいたいどの位でお店に入れますか?」


「そうね~……」


 ジャスミンのお母様が少しの間だけ考えて答える。

 その時間は、ほんの数秒程度の、もしかしたら一秒も無かったかもしれない。

 だけど、その一秒は、私にとってもの凄く長く感じる一秒だった。


「一ヶ月くらいかしら?」


「一ヶ…………っ!?」


 開いた口が塞がらなかった。

 かつてこれ程までに頭が真っ白になるくらいに驚いた事なんて、あっても一回や二回程度ではないかしら?


「私に任せておけ!」


 不意に頭上から声が聞こえて顔を上げると、何故かマモンが猫喫茶の屋根の上に乗って仁王立ちしていた。

 そしてマモンは私だけでなく、ここ等周辺にいる全員から注目を浴びると、ドヤ顔になって胸を張る。


「私はここ猫喫茶の副店長に任命されたマモン様だ! 副店長権限で入れてやる!」


 マモン!

 今までバカだバカだと思っていたけど、なんて役に立つバカなのかしら!

 連れて来てあげて正解だったわ!


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